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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「っ!!?」
物思いに沈む最中、冷えきっていた頬に不意に当てられた熱さに反射的に身を引き振り向くと、ほっとレモン片手に呆れた様な顔をした市ノ瀬がいつの間にか隣に立っていた。
「いや、驚きすぎだろ」
「驚くだろっ…これは」
「悪いな。出来上がり待ってたら遅くなった」
「……おでん?」
「そ。あぁ、これやるよ」
「えっ…良いの?」
先程自分を驚かせた正体であるほっとレモンが差し出され、遠慮する気持ちよりも暖かさを求める正直な体が即受け取る行動をとった。
先程まで意識にはなかったが一度意識してしまうと急激に寒さが襲いかかり、手袋越しにジワジワと伝わる暖かさに、“ほっ”とする。
商品名は伊達じゃない……
「行くぞ」
「行くって…何処に?」
「家」
「……えっ?お前のっ!?いやっ、いいよっ」
「いいよって、バスだって動いてねぇのにどうやって帰んだよ」
「歩いて帰るから」
「どんだけかかると思ってんだ」
「大丈夫っ、来る時も歩きだったし」
「………」
「……怒んないでよ」
怒ってるのか、呆れてるのか、はたまた別の何かなのか、深く刻まれた眉間のシワにそれ以上何も言うことは出来ない。
怒らないでとは言ったけれど、逆だったら自分も怒るかもしれない。怒る、というか、心配で…
『…ホント、なにやってんだろうな、俺』
安心してもらう為にもここは言う通りにした方が良いのかもしれない。自責の念に囚われながら、大人しく隣に並び目的地へと足を進めた。
「ちょっと待ってろ」
「うん」
初めて訪れる親友の…一応親友の自宅に緊張しつつ、借りてきた猫のように言う通り玄関に佇む。
『おかえり睦。ご苦労』
『偉そうだなっ』
『いやぁー…美味しそうな匂い最高ー』
『……』
(誰と話してるんだろう?ってか、むつって言われてんだ…なんか可愛いな)
恐らくリビングと思われる所から聞こえて来る声に耳を傾けながら、落ち着かない気持ちと同時に、初めて聞く市ノ瀬と家族との会話に何故だか少しほんわかとした気持ちが沸く。
リビングから出て来た市ノ瀬は安積に目も向けず何処かへと向かい、出てきたその手にはバスタオルが乗せられていた。
「取りあえず拭けよ」
「うん、ありがとう」
「寒いだろうけど、濡れた服ー」
「むつ?誰と話しーって、やだ、なにその濡れ鼠」
「お前、言い方」
話し声が聞こえたのだろう。リビングからひょっこりと顔を覗かせた女性が、びしょ濡れの安積を見て訝しげな声をあげた。
「あのっ、えっと…」
「なに?睦の友達?」
「…まぁ」
「ふーん…」
「あ、一応これ、姉」
「こっ、これって…」
とすとすと安積の前まで近寄った姉は興味津々といった様子でその顔を覗き込む。女性の居る環境というのも久しく、無遠慮ともとれるあまりにも近い距離に、顔が熱くなるのを感じた。
以前市ノ瀬が言っていた通り、なかなかの美人であったのも余計にそうさせるのかもしれない。性格に難ありかは分からないけれど…
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