攻略なんて冗談じゃない!

紫月

文字の大きさ
34 / 94
第4章

おまけ小話 ひよこ豆を数えるの刑

しおりを挟む



 とある火の日の朝。


「三百四十三個、三百四十四個……」
「だーっ!」


 ブロックマイアー公爵家の客室に子供の吠えるような奇声がこだました。

 数字を唱えているのは俺だ、お菊さんでは無い。


 昨夜、始めてのお泊まりで調子に乗って枕投げなどに興じていたところ、マヤさんに見つかって大目玉を食らってしまった。

 今はその罰として、ブロックマイアー家の厨房にあったずだ袋いっぱいのひよこ豆をカウントさせられている。


 テーブル越しに向かい合って腰掛け、袋から少しずつひよこ豆を器に取り、一つずつ指で摘まんで集計済みの山に加えていく。

 単純な作業だからこそ、延々とやり続ける事に苦痛を感じてしまう。


 さすがはマヤさんだ。

 地味な嫌がらせをしてくる。



「余はっ……余はこのような細かい作業は好かぬ!」


 気の短いレオンが耐久レースを早々にリタイアする事など、誰の目にも明らかだった。

 どんぶり勘定は男のロマンを地で行くからな、この殿下は。


 とはいえ、俺とていつまでもこんな作業を続けていたいとは思わない。

 二、三個適当にカウントしたところでどうせ答え合わせなどしないだろうから良さそうなものだ。


 だが、もし万が一バレたらという可能性が頭を過る。

 有り得る。

 マヤさんだからやりかねないのだ。



「豆など数えて何になるというのだ?」
「マメな男は女の子にモテるらしいぞ?」


 見ようによっては俺の様子は随分と余裕があるように見えるのだろう。

 だが実際は必死にレオンを宥めていた。


 くだらないジョークしかとっさに思い浮かばなかったんだから仕方無いだろう!

 今レオンに暴れられたら、これまでの苦労が水の泡なんだ。

 また最初から数え直すなんて、ご勘弁願いたい。

 豆は全部俺一人に押し付けてもいいから、レオンは頼むからじっとしていてくれ。



「余は豆になどなりたくないぞ。豆などどうでも良いではないか!」


 俺の願いも空しくレオンは少しもじっとしていない。

 苛立たしげに小さな手がテーブルを小突くと、積み上がったひよこ豆の山がそれに呼応するようにグラグラと揺れる。


「わかった! わかったから、こんな豆だらけの場所で暴れるな! 後で庭で思う存分踊り狂ってもいいから」


 ヒヤッとした。

 豆の山はなんとか揺れを持ち堪えたが、今のは危なかった。


 そんな焦りからつい語調を荒げると、ついに怒髪天を衝いたらしいレオンが椅子を蹴っ倒しながら立ち上がった。


「余は後で無く今遊びたいのだ! 豆など放っておけば良い! 余と共に踊るのだ、レオン!」
「あーっ! レオン、跳ぶな跳ねるな拗ねるな! 嗚呼、豆が……ひよこ雪崩なだれが……!」



 失敗したと後悔しても、もう遅い。

 我が儘殿下がドタドタと不器用で不気味なステップを踏む。


 潮騒のような音をBGMに踊り狂うレオンの姿を、俺は唯々ぼんやりと諦観の境地で見つめていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~

Kore
恋愛
「余計なこと考えさせないくらい愛せば、男として見てくれる?」そう囁く義弟の愛は重くて、危険で、究極に甘い。 ———勉強が大の苦手であり、巷で有名なヤンキー高校しか入れなかった宇佐美莉子。そんな義理姉のボディーガードになるため、後追いで入学してきた偏差値70以上の義理弟、宇佐美櫂理。しかし、ボディーガードどころか、櫂理があまりにも最強過ぎて、誰も莉子に近寄ることが出来ず。まるで極妻的存在で扱われる中、今日も義理弟の重い愛が炸裂する。———

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

処理中です...