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第一章 逃走と合流

第6話 洞窟(1)

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 どんだけ走ったのだろうか。暗闇の中、がむしゃらに走って体力の限界がきた俺たち4人は、洞窟を見つけるとそこで肩を寄せ合うようにして寝転んだ。

「はあ、はあ…………よし、ここまで来れば大丈夫だろう」

「はい」

 三人のその返事を聞いたところまでは、覚えている。そして俺たちはそのまま落ちるように、いつの間にか持っていた荷物を枕にして寝入っていた。
 うーん、暖かい。
 なんだ、この柔らかくて暖かいものは……俺の右手に触れていたそれを触ると、「うーん」と耳元で若い女性の声が聞こえた。

「えっ!?」

 俺は驚き、飛び起きる。と、そこには俺にしがみつくように眠るライム。
 お、俺はどこを触っていたのか。手に残る柔らかい感触に顔が熱くなる。その手に汗を握りながら、体を起こし周囲の状況を確認することにした。
 俺の左にはライムが。そして右側にはモモとラフランが身を寄せ合うように眠っていた。

「暖かい時期で良かったな」

 俺は何となく、今のやった事を無かったことにしようと、誤魔化ごまかすように独り言をつぶやく。
 洞窟の中はもうすぐ夏と言うのに肌寒かった。たぶん、もう少し早い時期だったら寒くて眠れなかっただろう。

 必死に逃げていた俺たちは、意外と洞窟の奥の方まで逃げ込んでいた。
 少し離れた場所だが、天井から光が漏れている。なので、辺りは真っ暗闇と言うわけでも無かった。

「うーん、隊長。早いですね」

 俺が起きたのを察したのか、独り言が思ったよりもうるさかったのか。ラフランが起きてきた。

「ああ、ラフランもな」

「モモが服をグイグイ引っ張るから、何度か目が覚めて……」

 そう言っている間も、彼女の服を力強く引っ張るモモ。彼女は何かを握ってないと眠れないとか、そういうタイプなんだろう。

「おい、モモ。起きろ」

「うーん、まだ眠いです…………あっ、隊長! おはようございます!」

 その揺らす手のほうへと振り返り、俺の顔を見ると同時に、すぐさま起立して敬礼するモモ。真面目すぎだ。

「おい、もう軍は抜けたんだ。俺はもう隊長じゃないぞ」

「えっ……あっ、そうですね」

 俺のその言葉に、少し残念そうに答えるモモ。

「ええと、じゃ、なんてお呼びすればいいですか?」

 赤い短い髪に茶色い眼、少し面長のいかにも真面目そうな顔が特徴のモモ。
 黄色い三つ編みを組んだ髪で、青い眼と高身長で中性的な顔だちが特徴のラフラン。
 二人の目が俺の顔を覗き込むようにじっと見据えた。

「そうだな。アレーでいいんじゃないか」

「ええと、名前だと副隊長に怒られてしまいます」

 モモがそう言うと、ラフランが横から口をはさむ。

「副隊長は最初に隊長を名前呼びするのは自分だと、常に隊員に言ってるんです」

「なに!? そうなのか!」

 俺が驚いて立ち上がると、二人はこくりと頷いた。
 そんな事を言っていたのか、あいつ。

「そうだ。隊長、とりあえず団長とはどうです?」

 ラフランが本当に思いつきのように言う。まあ、いつもの思いつきなんだろうけど。

「だ、団長かあ。なんか盗賊団みたいで嫌だな……」

「ええと、軍じゃないですし。それに自警団とかもありますし」

 モモがチラチラとこちらを見ながら恐る恐る言う。モモもさすがに適当すぎて怒られないかと、思っているのだろう。
 しかし、うーん、どうしようかな……俺が悩んでいると、横にいたライムが大きな欠伸をしながら起きだした。

「ふああああああ。あっ、隊長、おはようございます」

 大きく手を伸ばしながら挨拶するライム。それを鋭く睨むモモ。
 その視線を感じたライムは、バババッと服装を叩いて整えるとすぐさま起立した。

「モモさん、ラフランさん、おはようございます」

「うん、おはよう」

 後ろにお団子がある青い髪、まだ14歳の幼さが残る顔をしたライムがキッとした顔で敬礼する。魔法中隊の中でも一、二を誇る力の持ち主は、背が低いながらも腕や足が他の隊員よりも一回り太い。
 その挨拶に満足したように微笑むモモに、俺は言った。

「おい、もう軍隊じゃないんだから」

「駄目です。隊長を中心に別の組織を作らないと……食べていけません。そのためにも規律は大事です」

「でも、どんな組織にするんだ?」

 ラフランがモモに言うと皆が黙りこむ。何て名前の、どんな組織にするか……俺も一緒に悩んでいると、ふとエリーの顔が浮かんだ。

「エリー……そうだ、エリーと合流してから決めよう」

 今後の事も彼女と相談すれば間違いないだろう。すべてエリー頼りなのが情けないが。

「そうですね。とりあえず全員が集まってから決めますか」

 そう言うとモモは二人の前に立った。

「二人とも! 軍服は目立つから私服に着替えるわよ!」

 その言葉に二人はそれぞれ返事をすると、その場で手際よく脱ぎ始める。それを見て、俺も一緒に着替えることにした。
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