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第二章 モモとダンジョン
第35話 指揮官とベルン(2)
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「バルダ……」
私は親友の背中を思い出しながら、残ったわずかな5名の兵たちと鬱蒼とした森の中を進んでいく。
ここにくるまでに、怪我をして付いてこれなくなった者2人を、泣く泣く置いてくることになった。
なんとか生きのびてくれ、そう願う。
「隊長、髪、凄いですよ」
かなり苦悩した顔をしていたのだろう。
そんな私の気を紛らわせてくれようと、10年一緒に戦っているニコが私に声をかけてくれた。彼女の青く長い髪は、いつ手入れしているんだろうと思うくらい綺麗に整えられている。
それに比べて私の茶色く短い髪は、手入れもしてなくて逆立っていた。家にいた若いころだったら、絶対に母さんに「女の子なのに」と怒られていただろう。
「今年で35か」
自分の歳を思わずつぶやく。
ふっ、母さんなんて子供じゃあるまいし。この歳になって、そんなことを思う自分に笑ってしまう。
「指揮官、どうするんだい?」
横を歩いているミルダの言葉に、指揮官は馬上から返事をする。
「このまま進もう」
どれだけ歩かせるんだ……そう思うが敵がどこにいるのかも分からないのだ。うかつに休憩もとれないのは、分かっていた。
しかし、この緊張感の中で休まずに移動するのは、精神的にも肉体的にもきつい。今後も離脱する兵が増えるに決まっていた。
「すみません、休憩を……」
私は思い切って、指揮官にそう願い出る。一瞬、指揮官の顔が怒りにも似た不機嫌な表情に変わった。
「おい! お前たち……」
絶対に「休憩なんてとれるわけないだろ」と怒鳴られる、そう思った時だった。同じ人間のミルダが指揮官の前に出ると、私たちに向かって声をかける。
「そうだ。こいつらに食料と水を探させたら、いいんじゃないっすか」
「うーん、それもそうだな。よし、食料と水を探せ! そして、少し休憩したら出発だ!」
それでは……たいして休憩にならないではないか。そう思いながらも、少しでも休めるだけマシかと、後ろの兵たちに声をかけた。
「よし、休憩だ。ただ、水と食料を調達しないとならない。誰か行ってくれるか?」
「はい! 自分が行きます!」
そう返事をして、一番若いベルゼゼが立ち上がる。確かに彼女の体力が一番残っているだろう。私はそう思い、頼むことにした。
「よし、お前は水汲みだ。他の者は休憩だ」
「はい」
力なく返事をした彼女たち4人は、そのままその場に倒れるように座り込む。そうとう疲れていたのだろう。
「じゃ、頼んだ。敵に気をつけろよ」
「はい!」
そのベルゼゼの言葉にニコが言った。
「すまないね。年寄りは休んでるから」
部下の中で一番年上の彼女がそう言うと、少し微笑む隊員たち。
少し場が和んだところで、いくつか水筒を持ったベルゼゼの背中をポンと押してやると、元気そうに森の中をそのまま走っていった。
その中途半端な長さの彼女の赤髪が、木々の間を見えなくなるまで見送ると、私は狩りの準備を始めたのだった。
☆
私は1時間ほどかけて山中を駆け巡り、鹿を狩って戻ってくる。とても一頭は一人じゃ運べないので、ももの部分を切って持ってきた。残りは誰か連れて戻り、回収するしか無いだろう。
「あれ……ベルゼゼは?」
「まだ戻ってきてません」
私は部下たちのその言葉に少し不安を覚える。
しかし私が探しに行ってしまうと、鹿の肉がその間に野生動物に食べられる可能性があるのだ。早く戻らないと、みんなの食料も無くなってしまう。
鹿の肉のある場所は、狩った私しか知らないのだ。
「誰か二人、探してきてくれるか?」
「は、はい。わかりました」
そう言って二人が立ち上がる。その二人は何やら話し合うと、ベルゼゼの行った方向へと歩いて行った。
私は親友の背中を思い出しながら、残ったわずかな5名の兵たちと鬱蒼とした森の中を進んでいく。
ここにくるまでに、怪我をして付いてこれなくなった者2人を、泣く泣く置いてくることになった。
なんとか生きのびてくれ、そう願う。
「隊長、髪、凄いですよ」
かなり苦悩した顔をしていたのだろう。
そんな私の気を紛らわせてくれようと、10年一緒に戦っているニコが私に声をかけてくれた。彼女の青く長い髪は、いつ手入れしているんだろうと思うくらい綺麗に整えられている。
それに比べて私の茶色く短い髪は、手入れもしてなくて逆立っていた。家にいた若いころだったら、絶対に母さんに「女の子なのに」と怒られていただろう。
「今年で35か」
自分の歳を思わずつぶやく。
ふっ、母さんなんて子供じゃあるまいし。この歳になって、そんなことを思う自分に笑ってしまう。
「指揮官、どうするんだい?」
横を歩いているミルダの言葉に、指揮官は馬上から返事をする。
「このまま進もう」
どれだけ歩かせるんだ……そう思うが敵がどこにいるのかも分からないのだ。うかつに休憩もとれないのは、分かっていた。
しかし、この緊張感の中で休まずに移動するのは、精神的にも肉体的にもきつい。今後も離脱する兵が増えるに決まっていた。
「すみません、休憩を……」
私は思い切って、指揮官にそう願い出る。一瞬、指揮官の顔が怒りにも似た不機嫌な表情に変わった。
「おい! お前たち……」
絶対に「休憩なんてとれるわけないだろ」と怒鳴られる、そう思った時だった。同じ人間のミルダが指揮官の前に出ると、私たちに向かって声をかける。
「そうだ。こいつらに食料と水を探させたら、いいんじゃないっすか」
「うーん、それもそうだな。よし、食料と水を探せ! そして、少し休憩したら出発だ!」
それでは……たいして休憩にならないではないか。そう思いながらも、少しでも休めるだけマシかと、後ろの兵たちに声をかけた。
「よし、休憩だ。ただ、水と食料を調達しないとならない。誰か行ってくれるか?」
「はい! 自分が行きます!」
そう返事をして、一番若いベルゼゼが立ち上がる。確かに彼女の体力が一番残っているだろう。私はそう思い、頼むことにした。
「よし、お前は水汲みだ。他の者は休憩だ」
「はい」
力なく返事をした彼女たち4人は、そのままその場に倒れるように座り込む。そうとう疲れていたのだろう。
「じゃ、頼んだ。敵に気をつけろよ」
「はい!」
そのベルゼゼの言葉にニコが言った。
「すまないね。年寄りは休んでるから」
部下の中で一番年上の彼女がそう言うと、少し微笑む隊員たち。
少し場が和んだところで、いくつか水筒を持ったベルゼゼの背中をポンと押してやると、元気そうに森の中をそのまま走っていった。
その中途半端な長さの彼女の赤髪が、木々の間を見えなくなるまで見送ると、私は狩りの準備を始めたのだった。
☆
私は1時間ほどかけて山中を駆け巡り、鹿を狩って戻ってくる。とても一頭は一人じゃ運べないので、ももの部分を切って持ってきた。残りは誰か連れて戻り、回収するしか無いだろう。
「あれ……ベルゼゼは?」
「まだ戻ってきてません」
私は部下たちのその言葉に少し不安を覚える。
しかし私が探しに行ってしまうと、鹿の肉がその間に野生動物に食べられる可能性があるのだ。早く戻らないと、みんなの食料も無くなってしまう。
鹿の肉のある場所は、狩った私しか知らないのだ。
「誰か二人、探してきてくれるか?」
「は、はい。わかりました」
そう言って二人が立ち上がる。その二人は何やら話し合うと、ベルゼゼの行った方向へと歩いて行った。
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