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メレネ婦人が家政婦としているわけ
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「あー、行きたくない」
玄関でかがんで子どもを抱きしめ、すんすんと頭の匂いをかぐ。落ちつく。出かけていないのに、もう帰りたい。こんな気持ちをどう表現したらいいのだろう。
「ドミトリーさん、時間だいじょうぶ?」
「大丈夫。あと少しだけ」
私は懐中時計を確認する。いつもよりは遅い時間だが、私が毎日早く出かけるようにしていただけである。家にいても、することがないから仕事をしていただけの話。今は子どもが家にいるのだから、多少遅くても構わないのだ。
「出かけなくても、仕事ができるようになればいいのに」
私がそんな便利な魔法が使える、魔法使いであったらよかった。
しぶしぶ出かけた仕事ではあるが、働かなくてはならない。以前は苦にも思わなかった書類仕事も、たまった数をドサリと机に置かれれば腹も立つ。私は早く帰りたいのだ。
「今日中に、頼むってさ」
机に積まれた書類のせいで、立っている同僚の顔しか見えない。私に無理難題を押しつけた部署はどこだ。一番上の書類を確認し、ため息をつく。
「たとえ明日中でも、間に合わない。なぜこんなギリギリまで、書類を提出しないんだ。締め切りの猶予は三ヶ月以上あったはずだが」
「さあねぇ。先方はなんたって、脳筋連中だから」
同僚が積まれた書類の間に手を入れ、適当に持ち上げる。ひらりと舞いそうになる書類を、さっと手で押さえる。
「ま。手分けして、できるとこまでやってみるさ」
持ち上げた書類を適当につかみ、他の文官たちの机に載せていけば、各机から悲鳴があがった。それでも残った書類は半分以上ある。私は仕掛かっていた書類仕事を終わらせると、次の書類の山に手を伸ばした。
却下、却下、却下。一枚ずつ目を通し、不備書類には都度、インクの色を変えたつけペンでチェックを入れていく。誤字や数字の間違いがない書類は、ほとんどない。半数近くが不備どころか、却下である。
「なぜ、提出する前によく確認しないんだ」
一息つき茶を飲もうとして、器がないことに気づく。書類が広がりすぎて、机には茶器を置く場所すらなかったのだ。
仕方なく立ち上がり、こわばった肩をほぐしながら自分で茶を入れる。立ったままその場でいっぱい飲み干し、同じ器に茶を注いでいると、肩に重みがかかる。
「俺が誘っても一度も来ないくせに。妬けるねドミトリー、今夜は大事なデートでも?」
「何の話だ、スヴェンソン」
私の机上の書類の山を見ていないのだろうか。リボンでまとめられた髪に触り、毛束をすくっては流し。スヴェンソンの手から、私の髪がサラサラと流れていく。
「こんなに髪に艶をだして。髪は魔法使いの命なんだろ」
確かに髪にも魔力は宿るため、伸ばしているのだが、髪が命なわけないだろう。魔法使いではない人間に、わざわざここで否定する必要もないから、黙っておく。
スヴェンソンの指がうなじに触れ、くくった髪の根元に力が加わった。
「いいから髪に触るな」
しゅるり。リボンがほどかれ、解き放たれた髪がはじけたあと、ハラリと背中に戻る。背中ごと髪を撫でられ、不快感に鳥肌がたつ。私は他人に体を触れられるのが、嫌いなのだ。
「綺麗な髪だ。シーツに広がったら、さぞ美しいだろうね」
ひと房手にした髪に、スヴェンソンが鼻を近づけ匂いをかいだ。変態だ。器を持って後ろ向きに、私は逃げた。席まで戻っても、鳥肌はおさまらないままだった。
「災難だったなー」
同僚がにやにやしながら話しかけてくる。私は書類をさばく手を休めていないというのに、彼は完全に手を止めている。
「手が止まってる、動かせ」
動くたびにハラリと落ちてくる髪が、邪魔でしかたない。リボンは結局戻ってこなかったので、髪をまとめることができないのだ。終わらない仕事、奪われたリボン、まとまらない髪。家に帰りたい。子どもの顔を見て、食事をし風呂に入り、早く寝るのだ。
私は同僚の話にも付き合わず、書類を片付けることに集中した。
ずいぶん遅く家に帰ってから、布をかけて、残されていた食事を適当に腹に詰め込む。
子どもには何度も根気強く言い聞かせ、私が戻らなくても食事を摂り、時間になったら寝るようにと約束させた。子どもの成長のためだが、それが私のためでもあると説明したら納得してくれた。帰宅時間が遅くなっても、子どもが腹を空かすことなく家にいる、と思うと安心できる。
子どもには清潔は大事、と毎日風呂に入れているが、今夜はとにかく疲れた。私は風呂に入ることを諦め、水で濡らして絞った布で体だけ拭い、寝具に横になる。横向きに眠った子どもに近づき、後頭部をかぐ。ふわふわした髪に鼻をうずめ、子どもの匂いに包まれる。急激におとずれる多幸感。心がしあわせに満たされる。
ドミトリーさんの家にやって来て、家のなかのいろんなことをするのが、メレネ婦人の仕事らしい。ドミトリーさんは外で仕事をして、朝出かけて暗くなる頃帰ってくる。ドミトリーさんの家なのに、ドミトリーさんはほとんど家にいない。
メレネ婦人が「また明日」といなくなってから、ドミトリーさんが仕事から帰ってくるまで、僕は字の練習をしたり本を読んだりする。前は絵を眺めるだけだった本も、ぜんぶひとりで読めるようになった。
メレネ婦人の仕事を僕もやってみたいと言うと、丁寧に教えてくれた。少しずつお手伝いというのをしていたら、いつかは僕ひとりで仕事をできるようになるらしい。むずかしいことがたくさんだけど、メレネ婦人ができないことを言ったことはなかったから、本当なんだと思う。
「ドミトリーさんのカップがひとつ、ヤーデのカップがひとつ、ぜんぶでいくつかしら?」
「ふたつ、です」
「そうよ、ヤーデはとっても賢い子ね」
洗いものをしながら、数の数え方を教えてもらった。メレネ婦人は僕をたくさんほめてくれる。
僕のカップは、ドミトリーさんの仕事がない日に一緒に出かけたとき買ってくれたやつ。「家にあるのは大人用だから、ヤーデには大きすぎる」とドミトリーさんは言ったけど、僕はドミトリーさんと同じカップやフォークで気にならなかったのに。
だけど、僕の手にちょうどいい大きさのカップやフォークは、持ちやすくてとても使いやすかった。僕が自分でどれを選んだらいいかわからなかったから、ドミトリーさんが選んでくれたカップ。
ドミトリーさんは僕に何でも買ってくれようとする。洋服も靴も新しいのをたくさん買ってくれるけど、僕はからだがひとつしかないから、そんなにいらないと思う。家で寝るところがあって、ご飯を食べさせてくれて、本も読める。僕にはもう何もいらないのに。
僕もはやく仕事ができるようになりたい。そうしたら、ドミトリーさんは外で仕事をしなくても、家にいられるようになるのかも。
気が重い。魔法を使う方の仕事で前戦へ赴くことになった。今回はとても遠い場所だ。しばらく子どもと一緒に寝られないのだと思うと、気が滅入る。家に帰り子どもに説明している途中で、もしかして自分が死ぬかもしれないという恐怖に気づいた。
私が死んだら、子どもはどうなる。元々孤児なのだ、家主のいない家から外へ放り出された子どもは、死んでしまうだろう。私も自分が生きている、よいときに気がついたものである。身元引受人を私とする書類を、早速作成することにした。
長年の省勤めは無駄ではなかった。私はその夜自宅で書類を何枚も作った。持ち帰り仕事を好まない私は、家で仕事をするのは初めてのことだ。夜更けには私の死後、財産譲与についての書類がほとんど仕上がった。
子どもを受取人に指定し、後継人にメレネ婦人の名前を書き加える。私は元々人付き合いが苦手だから、友人と呼べるような人間もいない。他に子どもを預けられそうな信頼のおける人が、思い当たらなかったのだ。これはあとでメレネ婦人に頼まなくてはならない。
翌日、後ろ髪を引かれながら、私は前戦へ旅立った。メレネ婦人の承諾を得ていない書類は、いまだ完全に有効であるとはいえない。ここで私が死ねば、子どもも死ぬ。私は必死で最大出力にした電撃魔法を放った。
馬車を使っても片道に数日を費やす行程である。生きて家までたどり着き、子どもの顔を見ることができたのは、数週間ぶりのことだった。
無理を言って馬車を乗り継ぎ、一番早く町まで戻れる手段をとった私の体は、疲弊していた。子どもの顔を見たら、ひとまず横になりたいと強く思っていた。
「……ドミトリー、さんっ」
朝早く帰り着いた私が扉を開けると、寝間着のまま裸足で階段を駆け下りてきた子どもが、足にしがみついてきた。マントもブーツも、土ぼこりで汚れた旅装束である。子どもが汚れてしまう、と引き剥がそうとしたが、子どもはしがみついて動かない。
「汚れてしまうからヤーデ」
「ドミトリーさんっ、ドミトリーさんっ」
私の話を聞かず、名前ばかりを呼ぶ子どもを抱き上げた。寝間着はすでに泥がついて汚れている。子どもの顔は涙でグショグショであり、涙で濡れた頬にも土がついてしまっていた。ここまで汚れていたら、いまさらだろう。私は子どもを抱きしめ、ふわりとした髪に顔をうずめて思う存分、息を吸った。
疲れ果てていた私は、湯を使いながら浴槽で眠りそうになった。着替えを持ってきた子どもが気づき、甲高い悲鳴を上げたことで、はっと目を覚ます。子どものために作成した書類はまだ仕上がっていない。こんなところで私は死ぬわけにはいかない。のろのろと頭を起こし、ひどく重い体を浴槽から持ち上げた。
私を椅子に座らせ、トーストに茹でた腸詰めを挟んだものを、手に持たされる。一口かじると熱い肉汁がじゅわっと広がった。
「うまい……」
だが、眠い。私はただとにかく眠かった。口の中の食べ物を飲み込む前に、首がかしいだ反動で元の姿勢に戻る。
「ドミトリーさん、髪が乾かしにくいです。起きて、ちゃんと食べてください、ね」
椅子の後ろでは、子どもが私の髪の水分を取ろうと、布で拭いてくれている。ありがたい。ありがたいのだが、今はとにかく眠いのだ。私は手の中に残っていたパンと腸詰めを一気に頬張り、「ありがとうヤーデわたしはもうねる」と言った。
「? 急に立ち上がってどうしたの、ドミトリーさん」
言ったつもりだったが、口の中の食べ物のせいで伝わらなかったらしい。湿った布を手にした子どもが、不思議そうな顔で私を見上げていた。
「ん?」
ふいに違和感をおぼえる。何だ、何かが違うような……。
「ヤーデ、私の留守中変わりはなかった?」
「はい。ドミトリーさんがいない他は、いつもと同じ毎日でした」
「そう」
違和感の正体を確かめるよりも、私は眠かった。くぁっと大きなあくびをする。
「私は眠い……少し休んでくる」
「はい、あの、ドミトリーさん」
「なんだい」
「おかえりなさい」
子どもの頭に手をやり、やわらかな髪をそっと撫でる。いいものだ、家に人がいるというのは。子どもが笑っているのは、私が帰ってきたから。
「ただいまヤーデ」
私の頬が緩んでいるのは、無事に私が帰ってこられたから。書類を揃え提出し受理されれば、私の身に何かあってもヤーデは財産を手に入れ、この家に住むことができるのだ。私は満足し寝台に横になった。メレネ婦人が来たら起こしてくれ、と子どもに頼む前に眠ってしまった。
ドミトリーさんが帰ってきた。暦の見方を覚えたから、ドミトリーさんが出かけてから毎日暦を数えていた。30日たってドミトリーさんが帰ってきたときには、暦の大きな数字が変わってひとつ増えていた。
メレネ婦人から毎日仕事を教えてもらっているから、いろんなことができるようになっている。たくさん汚れていたドミトリーさんをお風呂に入れて、僕が焼いたトーストと茹でた腸詰めを食べてもらった。髪を乾かしている途中で眠りそうになって、首がぐるぐる動くからたいへんだった。
髪が乾ききってないのに、ドミトリーさんは眠ってしまった。なんでか僕も一緒に横になってる。さっきまで寝てたし、もう朝だから起きようと思うのに、ドミトリーさんの手が僕を抱っこしてるから起きれない。
眠くないんだけどな。そう思いながら、ドミトリーさんの髪を拭いていた布から手をはなした。しばらく一人で寝てたから、ドミトリーさんと一緒にいるのはうれしかった。背中があったかいのも、ドミトリーさんが息をして動くのも。
まぁまぁ何ということでしょう。という声を上げそうになるのを、淑女らしくないからという理由で堪えたメレネ婦人は自分で自分を褒めた。いつもように通いの家政婦としてやって来た家で、普段なら起きているはずの小さな少年が姿を見せないので心配し、寝室へ来たのだ。
開けたままの寝室の扉から覗けば、寝台では家主のドミトリーと小さなヤーデが、互いにくっつきあってすやすやと眠っていた。メレネ婦人にしてみれば、息子と孫のような年齢の二人である。
そもそも、寡婦とはいえ仮にも男爵夫人。通常であれば家政婦として下町の、それも男の一人暮らしする家に来るような身分ではない。ではなぜ、メレネ婦人がこの家で通いの家政婦として働いているのか。理由はひとつ、商家の奥さんに頼まれたからである。
今は商家の妻としておさまっている女性は、元々メレネ婦人が教育係をしていた時の、教え子である。小さな頃から利発な娘で、気が強く、しかも数字に強かった。商家に請われて嫁ぎ、夫とともに店に出て働いた。一介の小売り販売店にすぎなかった商家を、町一番と言われるまでに成り上がらせたのは、今代に入ってからの話だ。
その町一番である商家の妻が、メレネ婦人にぜひに、と持ってきたのが通いの家政婦の仕事であった。そもそもメレネ婦人は今さら働くつもりもなかったし、贅沢をしなければ生活に困ることもないのだ。それでも先触れで手紙を寄越し、わざわざ手土産を持って、家まで足を運んできた昔の教え子のため、話だけは聞こうと思っていた。
それを今、メレネ婦人は半分あきれ顔で聞いていた。元教え子の話はこうである。『うちの店に美女が来て、通いの家政婦を依頼した。一人暮らしの家を確認のために店の者と訪ねると、美女は若い男性だった。省で働く魔法使いで、安定した稼ぎの高物件。そしてやはり、本物の美女だった』元教え子は鼻息荒く話続けた。『男性なのに美人すぎて、若い家政婦では無理だと思う。うちで紹介できる家政婦に、あの高物件に手を出さない保証がつけられない、未婚既婚問わず! 魔法使いなのに、あの顔!』
ここまでを一気にひと息で語ると、頬を桃色に染めたまま優雅な手つきでソーサーを持ち上げると、カップの茶を口にした。
つまり、依頼人である魔法使いに、安心して紹介できる人材がいないので頼ってきたということである。メレネ婦人が断りの言葉をつむぐ前に、元教え子は「お願いします先生。私が本当に信頼してこんな風に頼れるのは、メレネ先生しかいらっしゃらないんです」と素早く言った。「せっかくうちの店に紹介を依頼してきたのに、あの美貌のせいで、紹介できる人間がいない。彼の身に何かあれば今後、省の魔法使いとして働くことができなくなってしまう。それはうちの店で決して起こってはいけないことです」
目の前で頭をさげた元教え子は、あの頃とは違う。当時やわらかく揺れていた髪はきっちりと整えて結われ、ゆったりしたワンピースだった服は、体の線に沿った仕立てのよいドレスに変わっている。だが顔をあげたその瞳の強さは、昔のままであった。曲がったことを許さない、まっすぐな少女だった。
メレネ婦人は、「まぁ」と小さくつぶやいたまま沈黙し、しばらく一人で考え込んだ。魔法使いの男性が魔法の力を失う話は、噂話として知っていた。元教え子の言うとおり、男性である魔法使いがそれほど美しければ、家政婦を探すのは難しいのかもしれない。
「とりあえず、仕事の内容を聞かせてちょうだい。このお仕事を受けるかどうかは、そのあと考えます」メレネ婦人はため息交じりに言った。元教え子は瞳に強い光をたたえていた。少女だったとき既に、人を誘導し自分のしたいように事を運ぶのが上手な子どもだったのだ。商家の妻である現在その手腕はさらに磨かれているだろう。メレネ婦人は手紙を受け取った時点で、断るという選択肢は用意されていなかったのである。
「先生ならそうおっしゃってくださると思っていました」考えると言っているのに、話を聞くと言ったそれを承諾と捉えたのであろう。手持ちのバッグから依頼書を取り出した元教え子は、完全に商人の顔をしていた。
玄関でかがんで子どもを抱きしめ、すんすんと頭の匂いをかぐ。落ちつく。出かけていないのに、もう帰りたい。こんな気持ちをどう表現したらいいのだろう。
「ドミトリーさん、時間だいじょうぶ?」
「大丈夫。あと少しだけ」
私は懐中時計を確認する。いつもよりは遅い時間だが、私が毎日早く出かけるようにしていただけである。家にいても、することがないから仕事をしていただけの話。今は子どもが家にいるのだから、多少遅くても構わないのだ。
「出かけなくても、仕事ができるようになればいいのに」
私がそんな便利な魔法が使える、魔法使いであったらよかった。
しぶしぶ出かけた仕事ではあるが、働かなくてはならない。以前は苦にも思わなかった書類仕事も、たまった数をドサリと机に置かれれば腹も立つ。私は早く帰りたいのだ。
「今日中に、頼むってさ」
机に積まれた書類のせいで、立っている同僚の顔しか見えない。私に無理難題を押しつけた部署はどこだ。一番上の書類を確認し、ため息をつく。
「たとえ明日中でも、間に合わない。なぜこんなギリギリまで、書類を提出しないんだ。締め切りの猶予は三ヶ月以上あったはずだが」
「さあねぇ。先方はなんたって、脳筋連中だから」
同僚が積まれた書類の間に手を入れ、適当に持ち上げる。ひらりと舞いそうになる書類を、さっと手で押さえる。
「ま。手分けして、できるとこまでやってみるさ」
持ち上げた書類を適当につかみ、他の文官たちの机に載せていけば、各机から悲鳴があがった。それでも残った書類は半分以上ある。私は仕掛かっていた書類仕事を終わらせると、次の書類の山に手を伸ばした。
却下、却下、却下。一枚ずつ目を通し、不備書類には都度、インクの色を変えたつけペンでチェックを入れていく。誤字や数字の間違いがない書類は、ほとんどない。半数近くが不備どころか、却下である。
「なぜ、提出する前によく確認しないんだ」
一息つき茶を飲もうとして、器がないことに気づく。書類が広がりすぎて、机には茶器を置く場所すらなかったのだ。
仕方なく立ち上がり、こわばった肩をほぐしながら自分で茶を入れる。立ったままその場でいっぱい飲み干し、同じ器に茶を注いでいると、肩に重みがかかる。
「俺が誘っても一度も来ないくせに。妬けるねドミトリー、今夜は大事なデートでも?」
「何の話だ、スヴェンソン」
私の机上の書類の山を見ていないのだろうか。リボンでまとめられた髪に触り、毛束をすくっては流し。スヴェンソンの手から、私の髪がサラサラと流れていく。
「こんなに髪に艶をだして。髪は魔法使いの命なんだろ」
確かに髪にも魔力は宿るため、伸ばしているのだが、髪が命なわけないだろう。魔法使いではない人間に、わざわざここで否定する必要もないから、黙っておく。
スヴェンソンの指がうなじに触れ、くくった髪の根元に力が加わった。
「いいから髪に触るな」
しゅるり。リボンがほどかれ、解き放たれた髪がはじけたあと、ハラリと背中に戻る。背中ごと髪を撫でられ、不快感に鳥肌がたつ。私は他人に体を触れられるのが、嫌いなのだ。
「綺麗な髪だ。シーツに広がったら、さぞ美しいだろうね」
ひと房手にした髪に、スヴェンソンが鼻を近づけ匂いをかいだ。変態だ。器を持って後ろ向きに、私は逃げた。席まで戻っても、鳥肌はおさまらないままだった。
「災難だったなー」
同僚がにやにやしながら話しかけてくる。私は書類をさばく手を休めていないというのに、彼は完全に手を止めている。
「手が止まってる、動かせ」
動くたびにハラリと落ちてくる髪が、邪魔でしかたない。リボンは結局戻ってこなかったので、髪をまとめることができないのだ。終わらない仕事、奪われたリボン、まとまらない髪。家に帰りたい。子どもの顔を見て、食事をし風呂に入り、早く寝るのだ。
私は同僚の話にも付き合わず、書類を片付けることに集中した。
ずいぶん遅く家に帰ってから、布をかけて、残されていた食事を適当に腹に詰め込む。
子どもには何度も根気強く言い聞かせ、私が戻らなくても食事を摂り、時間になったら寝るようにと約束させた。子どもの成長のためだが、それが私のためでもあると説明したら納得してくれた。帰宅時間が遅くなっても、子どもが腹を空かすことなく家にいる、と思うと安心できる。
子どもには清潔は大事、と毎日風呂に入れているが、今夜はとにかく疲れた。私は風呂に入ることを諦め、水で濡らして絞った布で体だけ拭い、寝具に横になる。横向きに眠った子どもに近づき、後頭部をかぐ。ふわふわした髪に鼻をうずめ、子どもの匂いに包まれる。急激におとずれる多幸感。心がしあわせに満たされる。
ドミトリーさんの家にやって来て、家のなかのいろんなことをするのが、メレネ婦人の仕事らしい。ドミトリーさんは外で仕事をして、朝出かけて暗くなる頃帰ってくる。ドミトリーさんの家なのに、ドミトリーさんはほとんど家にいない。
メレネ婦人が「また明日」といなくなってから、ドミトリーさんが仕事から帰ってくるまで、僕は字の練習をしたり本を読んだりする。前は絵を眺めるだけだった本も、ぜんぶひとりで読めるようになった。
メレネ婦人の仕事を僕もやってみたいと言うと、丁寧に教えてくれた。少しずつお手伝いというのをしていたら、いつかは僕ひとりで仕事をできるようになるらしい。むずかしいことがたくさんだけど、メレネ婦人ができないことを言ったことはなかったから、本当なんだと思う。
「ドミトリーさんのカップがひとつ、ヤーデのカップがひとつ、ぜんぶでいくつかしら?」
「ふたつ、です」
「そうよ、ヤーデはとっても賢い子ね」
洗いものをしながら、数の数え方を教えてもらった。メレネ婦人は僕をたくさんほめてくれる。
僕のカップは、ドミトリーさんの仕事がない日に一緒に出かけたとき買ってくれたやつ。「家にあるのは大人用だから、ヤーデには大きすぎる」とドミトリーさんは言ったけど、僕はドミトリーさんと同じカップやフォークで気にならなかったのに。
だけど、僕の手にちょうどいい大きさのカップやフォークは、持ちやすくてとても使いやすかった。僕が自分でどれを選んだらいいかわからなかったから、ドミトリーさんが選んでくれたカップ。
ドミトリーさんは僕に何でも買ってくれようとする。洋服も靴も新しいのをたくさん買ってくれるけど、僕はからだがひとつしかないから、そんなにいらないと思う。家で寝るところがあって、ご飯を食べさせてくれて、本も読める。僕にはもう何もいらないのに。
僕もはやく仕事ができるようになりたい。そうしたら、ドミトリーさんは外で仕事をしなくても、家にいられるようになるのかも。
気が重い。魔法を使う方の仕事で前戦へ赴くことになった。今回はとても遠い場所だ。しばらく子どもと一緒に寝られないのだと思うと、気が滅入る。家に帰り子どもに説明している途中で、もしかして自分が死ぬかもしれないという恐怖に気づいた。
私が死んだら、子どもはどうなる。元々孤児なのだ、家主のいない家から外へ放り出された子どもは、死んでしまうだろう。私も自分が生きている、よいときに気がついたものである。身元引受人を私とする書類を、早速作成することにした。
長年の省勤めは無駄ではなかった。私はその夜自宅で書類を何枚も作った。持ち帰り仕事を好まない私は、家で仕事をするのは初めてのことだ。夜更けには私の死後、財産譲与についての書類がほとんど仕上がった。
子どもを受取人に指定し、後継人にメレネ婦人の名前を書き加える。私は元々人付き合いが苦手だから、友人と呼べるような人間もいない。他に子どもを預けられそうな信頼のおける人が、思い当たらなかったのだ。これはあとでメレネ婦人に頼まなくてはならない。
翌日、後ろ髪を引かれながら、私は前戦へ旅立った。メレネ婦人の承諾を得ていない書類は、いまだ完全に有効であるとはいえない。ここで私が死ねば、子どもも死ぬ。私は必死で最大出力にした電撃魔法を放った。
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「汚れてしまうからヤーデ」
「ドミトリーさんっ、ドミトリーさんっ」
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「うまい……」
だが、眠い。私はただとにかく眠かった。口の中の食べ物を飲み込む前に、首がかしいだ反動で元の姿勢に戻る。
「ドミトリーさん、髪が乾かしにくいです。起きて、ちゃんと食べてください、ね」
椅子の後ろでは、子どもが私の髪の水分を取ろうと、布で拭いてくれている。ありがたい。ありがたいのだが、今はとにかく眠いのだ。私は手の中に残っていたパンと腸詰めを一気に頬張り、「ありがとうヤーデわたしはもうねる」と言った。
「? 急に立ち上がってどうしたの、ドミトリーさん」
言ったつもりだったが、口の中の食べ物のせいで伝わらなかったらしい。湿った布を手にした子どもが、不思議そうな顔で私を見上げていた。
「ん?」
ふいに違和感をおぼえる。何だ、何かが違うような……。
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「はい。ドミトリーさんがいない他は、いつもと同じ毎日でした」
「そう」
違和感の正体を確かめるよりも、私は眠かった。くぁっと大きなあくびをする。
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「はい、あの、ドミトリーさん」
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ドミトリーさんが帰ってきた。暦の見方を覚えたから、ドミトリーさんが出かけてから毎日暦を数えていた。30日たってドミトリーさんが帰ってきたときには、暦の大きな数字が変わってひとつ増えていた。
メレネ婦人から毎日仕事を教えてもらっているから、いろんなことができるようになっている。たくさん汚れていたドミトリーさんをお風呂に入れて、僕が焼いたトーストと茹でた腸詰めを食べてもらった。髪を乾かしている途中で眠りそうになって、首がぐるぐる動くからたいへんだった。
髪が乾ききってないのに、ドミトリーさんは眠ってしまった。なんでか僕も一緒に横になってる。さっきまで寝てたし、もう朝だから起きようと思うのに、ドミトリーさんの手が僕を抱っこしてるから起きれない。
眠くないんだけどな。そう思いながら、ドミトリーさんの髪を拭いていた布から手をはなした。しばらく一人で寝てたから、ドミトリーさんと一緒にいるのはうれしかった。背中があったかいのも、ドミトリーさんが息をして動くのも。
まぁまぁ何ということでしょう。という声を上げそうになるのを、淑女らしくないからという理由で堪えたメレネ婦人は自分で自分を褒めた。いつもように通いの家政婦としてやって来た家で、普段なら起きているはずの小さな少年が姿を見せないので心配し、寝室へ来たのだ。
開けたままの寝室の扉から覗けば、寝台では家主のドミトリーと小さなヤーデが、互いにくっつきあってすやすやと眠っていた。メレネ婦人にしてみれば、息子と孫のような年齢の二人である。
そもそも、寡婦とはいえ仮にも男爵夫人。通常であれば家政婦として下町の、それも男の一人暮らしする家に来るような身分ではない。ではなぜ、メレネ婦人がこの家で通いの家政婦として働いているのか。理由はひとつ、商家の奥さんに頼まれたからである。
今は商家の妻としておさまっている女性は、元々メレネ婦人が教育係をしていた時の、教え子である。小さな頃から利発な娘で、気が強く、しかも数字に強かった。商家に請われて嫁ぎ、夫とともに店に出て働いた。一介の小売り販売店にすぎなかった商家を、町一番と言われるまでに成り上がらせたのは、今代に入ってからの話だ。
その町一番である商家の妻が、メレネ婦人にぜひに、と持ってきたのが通いの家政婦の仕事であった。そもそもメレネ婦人は今さら働くつもりもなかったし、贅沢をしなければ生活に困ることもないのだ。それでも先触れで手紙を寄越し、わざわざ手土産を持って、家まで足を運んできた昔の教え子のため、話だけは聞こうと思っていた。
それを今、メレネ婦人は半分あきれ顔で聞いていた。元教え子の話はこうである。『うちの店に美女が来て、通いの家政婦を依頼した。一人暮らしの家を確認のために店の者と訪ねると、美女は若い男性だった。省で働く魔法使いで、安定した稼ぎの高物件。そしてやはり、本物の美女だった』元教え子は鼻息荒く話続けた。『男性なのに美人すぎて、若い家政婦では無理だと思う。うちで紹介できる家政婦に、あの高物件に手を出さない保証がつけられない、未婚既婚問わず! 魔法使いなのに、あの顔!』
ここまでを一気にひと息で語ると、頬を桃色に染めたまま優雅な手つきでソーサーを持ち上げると、カップの茶を口にした。
つまり、依頼人である魔法使いに、安心して紹介できる人材がいないので頼ってきたということである。メレネ婦人が断りの言葉をつむぐ前に、元教え子は「お願いします先生。私が本当に信頼してこんな風に頼れるのは、メレネ先生しかいらっしゃらないんです」と素早く言った。「せっかくうちの店に紹介を依頼してきたのに、あの美貌のせいで、紹介できる人間がいない。彼の身に何かあれば今後、省の魔法使いとして働くことができなくなってしまう。それはうちの店で決して起こってはいけないことです」
目の前で頭をさげた元教え子は、あの頃とは違う。当時やわらかく揺れていた髪はきっちりと整えて結われ、ゆったりしたワンピースだった服は、体の線に沿った仕立てのよいドレスに変わっている。だが顔をあげたその瞳の強さは、昔のままであった。曲がったことを許さない、まっすぐな少女だった。
メレネ婦人は、「まぁ」と小さくつぶやいたまま沈黙し、しばらく一人で考え込んだ。魔法使いの男性が魔法の力を失う話は、噂話として知っていた。元教え子の言うとおり、男性である魔法使いがそれほど美しければ、家政婦を探すのは難しいのかもしれない。
「とりあえず、仕事の内容を聞かせてちょうだい。このお仕事を受けるかどうかは、そのあと考えます」メレネ婦人はため息交じりに言った。元教え子は瞳に強い光をたたえていた。少女だったとき既に、人を誘導し自分のしたいように事を運ぶのが上手な子どもだったのだ。商家の妻である現在その手腕はさらに磨かれているだろう。メレネ婦人は手紙を受け取った時点で、断るという選択肢は用意されていなかったのである。
「先生ならそうおっしゃってくださると思っていました」考えると言っているのに、話を聞くと言ったそれを承諾と捉えたのであろう。手持ちのバッグから依頼書を取り出した元教え子は、完全に商人の顔をしていた。
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篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
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