トースト

コーヤダーイ

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はじめて

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 部屋に戻ると、広い風呂にぬるめの湯をためて、二人で入った。ヤーデの足の間におさまったドミトリーは、背中を預けて心地よさそうに目をつぶっている。湯に一部浸かって広がる黒髪が、ヤーデの膝までたゆたってくる。
 上から見下ろす耳も頬も首筋も、なめらかな肩から続く鎖骨も、その先にわずかに湯から覗く桃色をした乳首も。この数ヶ月、ずっと心配が先立ち、それどころではなかったヤーデを刺激するには十分すぎた。
「ん……ヤーデの、勃ってる」
「ごめんなさい。すぐ治まりますから、当たってても気にしないでください」
 気にするなといっても、尻にごりごり当たるのだから無理かもしれないが、一応無理強いをするつもりはないことを伝えておく。
「ね……昼間言ってたこと、本気?」
「どの話でしょう」
「ヤーデをぜんぶ、私にくれるって」
「あぁ、もちろん。ずっと前から、ぼくはぜんぶレネのものですよ」
 知らなかった? と言いながら、頬にキスをする。ふふっと笑って首を伸ばしたから、晒された首にも唇を這わせる。
「じゃあ、私が言ったことは覚えてる?」
 私もぜんぶ、ヤーデにあげる。深いキスの唇のなかで、その言葉を聞いた。舌と舌を絡めたまま、ドミトリーの体を愛撫する。あまりいじられ慣れていない乳首の、小さな突起を湯のなかでこね、先をつまむ。ちゃぷりと跳ねる腰に合わせて、湯のしずくが舞った。片方の手は兆しはじめた男根をかすめ、その奥のなんのくぼみもない場所をぐりと押す。
「ひぅっ?」
 つう、と指先でなぞられるたびに、ぞくぞくと背中が粟立つ。何度もぞくぞくと感じさせられたあとで、いじられたことのある穴へと指がまわってきた。穴の部分をふにふにと指先で押されている。それだけで、爪先部分だけを穴で出し入れされ、前をいじりながら果てたことを思い出した。記憶の快感の波に呑まれているうちに、指が侵入していた。湯のなかにいるせいで、潤滑剤も使っていないのに、すんなり一本の指を飲み込んでしまう。
「う……」
「きつい? レネ、気持ち悪い?」
 指一本入れるのは、はじめてである。ヤーデ自身、異物が押し込まれる痛みは記憶している。
「な、なんか入ってる感じがす、すごいけど大丈夫」
 とてもではないが、これに快感を覚えられる気はしなかった。どちらかというと、申し訳ないが早く出したい、という気持ちである。
「少しだけ動かすね、辛かったら言って。すぐ止めるから」
 にゅ、と出た指が再び入るとき、ヤーデの手のひらがぞくぞくする場所を触っていった。
「っ? ふぅうっ?」
 にゅ、と指が抜け、にゅく、と指が入る。にゅくにゅくと指が出入りするたびに、ぞくぞくする場所を手のひらが撫でていく。
「ぁ、ぁっ?」
「気持ち悪い?」
「な、んかへんっ、んっ」
 未知の感覚に、それが気持ち悪いのか、違和感なのか、わからない。ヤーデの指の腹がおかしなところを刺激した。体験的にはごりっ、という感じである。
「……ぼっ、ぇっ」
 急に押されたから、思わずおかしな声が出てしまった。ぜんぜんまったく気持ちよくないが、ここが昔男娼に聞いた、男の体の気持ちよいところなのだろう。ドミトリーにとっては、違和感しかない。やはり性行為で快感を得るというのは、自分には無理なのかもしれない。
「ちょっと出ようか。湯あたりしそうだ」
 ヤーデの指がすっと引き抜かれた。ドミトリーはほっとして、いつの間にか固まっていた体の力を抜いた。

 先に上がったヤーデが、ドミトリーを持ち上げてくれる。濡れた体を軽く拭き、髪の水気も丁寧に拭ってくれる。これから寝台できっと性行為をするはずなのだ、こんなに丁寧に髪を拭かなくてもいいのに。
 水を飲まされて、裸のまま広い寝台に座らされる。ヤーデがドミトリーの前に両膝をついた。ドミトリーの手をそれぞれの手が包み込む。
「レネ、何度でも言うけど、愛してる。ぼくの人生には、レネしかいない。レネしかいらない。他は何も望まない。好き、大好き」
 ドミトリーのももに、ヤーデが片頬をつける。湿った金髪はいつもの巻き毛ではなく、まっすぐに垂れてドミトリーのももを濡らした。
「私も好きだよ、ヤーデ。同じくらい愛してる」
「レネ、レネを抱きたい」
 少し前なら、それは魔法使いにとって死刑宣告に等しい告白だっただろう。
「いいよ、抱いて」
 ドミトリーはヤーデの作った避妊具を信頼していたし、きちんと説明を受けている。それでも、もし性行為をして魔法使いでなくなったとしても、構わないとドミトリーは思った。自分の体が快感を得られるかどうかは別として、普通の人間として、愛する人とひとつになりたかった。
「あのね、ヤーデ」
「なに? レネ」
 立ち上がったヤーデが優しいキスをしながら、ドミトリーの体を持ち上げ寝台の真ん中へと引き上げる。
「私はその……快感というものを感じにくいのかもしれない」
「……ん?」
「だから、その、性行為をしてだね……私が気持ちよくなるかどうかは、わからないのだけれど、」
「待って、レネ。ぼく以外の誰かと、こんな事までしたことが?」
 ぶんぶんと首を横に振る。ヤーデの目がこわい。
「な、ないない。したことはない」
「……そう。じゃあどうしてそんな心配を?」
「私はその、普通の人間とは違うし、今まで何の経験もないし」
「レーネ」
 ドミトリーの上に半身を乗せたヤーデが、両手でぎゅむっと尻の肉をつかんだ。
「ひ、いぇっ」
 ぎゅうぎゅう、もみもみと尻の肉を好きに揉まれる。
「あ、あのヤーデ……」
 卑猥な手つきで揉まれつつ、穴の近くを指が通る。
「ひっ……ぁっ、ぁ」
 開いた口を、もっと大きく開いた唇に塞がれ、強引にヤーデの唾液が喉に降りてくる。
「……んっ、ぅ」
 手と唇がぱっと離れると、湯で温まったのがさらに火照ってしまった体に、冷たい風を送る。
「こーんなに感じやすいくせに、気持ちよくならなかったら、それはぼくの責任だろうね」

 でもごめんね、ぼくもはじめてだから。気持ちよくさせてあげたいけど、加減がわからないから、きっとたぶん優しくはできないと思う。そう告げて、ヤーデは潤滑剤をひと瓶取り出すと、ドミトリーを気持ちよくすることだけに集中した。
 穴を解すだけで一刻経った。とろとろに解れたそこは、他で与えられる快感に感じるたびに、潤滑剤をくぷりとこぼした。避妊具をつけたヤーデの先っぽが、ひたりとつけられたとき、待ち望んでいたように穴は吸いついてきた。何も腰を進めなくとも、くぷ、と先端が飲み込まれていく。感じやすいドミトリーの穴が収縮するたびに、ヤーデもずずっと腰を押し進めていった。
 穴に入れられても痛くはない。痛くはないが、それ自体が気持ちいいこともない。とてつもない異物が腹のなかにあって苦しい、という感じである。やはり早く出したいと思ってしまう。体の他の部分を愛されて、膝ががくがく震えるほどのキスを受けて、ようやくヤーデのすべてが、ドミトリーの腹のなかにおさまった。
「ん……へんな感じ……」
 自分で腹を押さえてみるが、そこにおさまっているヤーデを感じることはできなかった。
「そう、ぜんぶ受け入れてくれて、ありがとうレネ」
 愛してる、と言ったヤーデが体を傾けてキスをした。そのとき。
「ん、ひっ? あ? あぁっ? ん、ぉぉっ? や、で。やっ、」
 ドミトリーのなかでヤーデの位置が動いたのが、電撃を受けたようにびりびりっと足の爪先から頭の奥まで、一気に強烈な痛みが襲った。痛み? 違う、例えようもない快感だった。すでに穴だけを一刻もいじられて、そのくせ男根にはまったく触れてもらえず、お預けをくらっていたのである。ドミトリーから飛び散った精液が傷跡に広がり、白い模様を描いた。ヤーデの指が腹をなぞり、とろりとした精液をすくう。
「?」
 ぺろ、と舌先で舐められた、自分の出した精液を。意味がわからない、わけがわからない。恥ずかしい、嬉しい、なぜそんなことをするの。一気に煽られた感情に、体のすべての神経が増幅する。快感が、渦を巻く。何倍も痛いほど感じる、怖いほどの快感。
「やだやだ、ヤーデっ、こわいっ、やっ……」
 怖いと言われて、とっさに差し出された両手を掴む。
 まだドミトリーのなかでじっとしていたヤーデを、腸が締め付け穴が激しく収縮を繰り返す。たまらずヤーデはドミトリーの両手ごと、寝台に手をついた。頭の横に両手を拘束されて、目の前にあるヤーデの顔は汗だくで赤くて、とても苦しそうである。
 ふーっ、ふーっと荒い息をつくヤーデは、必死に何かをこらえているように見えた。ヤーデは動いていないのに、咥え込まれた男根が強く吸いつかれたり、奥へ引き込まれたりしている。このままでは腰を動かすこともなく、ドミトリーに絞り取られそうだ。
「……はっ、レネっ……レネっ。ごめんっ、動くっ」
 ぱんぱんっと、腰を本能のままに動かした。腰を動かせば動かすだけ、嘘みたいに気持ちが良い。
「んぅっ、んっ、んっ、はっ、ぁっ、」
「あっ、すごっ気持ちっ……ごめんレネ、やさしくできそ、もないっ」
「やぁ、で……あっ、やぁでぇっ……あぁっ」
「………んんぅっっ!」

 すぐに引き抜かなくては。避妊具を外して、精液が漏れないように。ヤーデはのろのろと、ドミトリーのなかから出た。射精をしたばかりなのに、男根はまだ硬度を保っていた。避妊具を外し、口を縛る。中の精液が漏れていないことを確認する。
 ようやくほっとして、まだ息の荒いドミトリーの横に、どさりと寝転んだ。体が熱い。はじめてのドミトリーとの性行為は、とてつもなく気持ちがよかった。無理をさせてしまったに違いないドミトリーが心配で、目だけで様子を伺う。
 赤い肌で胸のところが大きく上下している。かわいらしい小さな乳首が、真っ赤にふくれていた。噛むのは我慢したが、舌でだいぶ味わってしまったから、あとで痛むかもしれない。腹に散った精液も、すべて舐めとってやりたかったが、性交に夢中になって忘れていた。すぐに拭き取らねば、がびがびになってしまう。くたりと腹に垂れたままのドミトリーの男根もまた、かわいらしい。ふくりとした小さな陰嚢も、もっと味わいたかった。
 そもそもこの人に、かわいくないところなんてないのだ。いつか全身、余すことなく舐めつくして嚙み跡を残して、満足するまで味わいたい。

 そんな、凶暴な獣のようなヤーデの心情を知らぬドミトリーは、ヤーデの方に顔を向けるとにこりとした。顔に張りついた幾筋かの黒髪が、まだ消えぬ汗が、たった今までの猛々しい行為が真実だったと証明している。うつ伏せで横になっていてよかった。またもや臨戦態勢になった男根を見たら、ドミトリーに引かれてしまうだろう。
 今愛し合ったばかりなのに、もうまたしたいと思っているヤーデがいる。ぼくは化け物か。自分で自分が怖くなる。それとも愛する人との性行為というのは、こういうものなのだろうか。誰かに正解を聞きたかった。

 少しして起き上がったヤーデは、洗面で濡らした布を持ってきて、ドミトリーの汗と精液を拭いた。ヤーデの手が触れると、ドミトリーがわずかに動き「んっ」とかすれた声を漏らすので、下着は先走りで濡れたし窮屈なままだったが無視した。



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