ティアラの花嫁

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18.食事

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「……いやまあ、仲がいいのはすごく良いことなんだがね?」
「あらまあ、目のやり場に困るわね!」
「不穏なうわさを聞いたから、心配していたんだが……」
「この分だと大丈夫そうね!」

レティシアと唇を重ねていると……すぐ近くから、両親の声が聞こえた。

「ッ、」

オレは思わず、レティシアの体を引き離してしまう。
親の前は、さすがに恥ずかしいというか。

「も、申し訳ございません」

レティシアが真っ赤になりながら、ニヤつく両親に頭を下げるが、すぐに父の手で制される。

「よいよい。気にしなくていい」
「さあ、お食事にしましょうね! 今日は、レティシアさんの故郷のお話をたくさん聞かせてもらおうと思ってたのよ!」

両親の言葉に、レティシアは少し表情を固くした……ような気がした。
まあ、ティアラの国王夫婦の前だ。
緊張しても仕方がないだろう。


「--本当、レティシアさんがシオンのお嫁さんになるだなんて、今でも信じられないわ。ねぇあなた!」
「また断られるとばかり思っていたからな」 
「シオンってば、これまでに何十人ものお嬢さんとの縁談があったんだけど、ぜーんぶ断られてるのよ?」

オレの隣に座ってニコニコと話を聞くレティシアに、両親はとにかく上機嫌だ。

「こんなに素敵な方なのに……不思議です」
「そんな事言ってくれるのは、あなただけよ!」
「仕事はソツなくこなしてくれる分、私生活はだらしないというか……ほら、面倒くさがりというかね」
「話の途中で居眠りしたりね、ひどかったのよ?」

……というか、オレの話はいい加減やめてほしい。

オレがげんなりしながら食事を口にしてると、

「レティシアさんなら、もっと大国の王子や貴族との縁談もうまくいくと思うの。本当にシオンで……ティアラ国でいいのかしら? この国は他国に比べたらとても田舎でしょう?」
「いえ、そんな……。とても自然豊かで、感動しました」

母が、なぜか心配そうにレティシアに確認しだした。

いや、気が変わったらどうするんだ。

「そうか、感動してくれたのか。いや、いつも酔っ払った時に話してるんだがね。聞いてくれるかい? この国にはどんな大国よりも素晴らしい宝があるんだ」
「宝、ですか?」

父が、機嫌よく話し始めた。
レティシアは何のことか分からず、不思議そうな表情を浮かべる。

そんなレティシアに、父は楽しげに続けた。

「そう。その宝とはね……この国の美しい自然と、国を支える国民だよ」
「自然と……国民……」

レティシアは食事の手を止め、黙って父の話を聞く。

「そう。国とは、民あっての国だからね。この自然を大切に守り続けてくれるティアラの民は、本当に素晴らしいと思わないかい?」
「……本当に、おっしゃる通りだと思います。ティアラの美しい自然は、きっと、他国では見られません」

ニコリと笑うレティシアに、再び母が話しかける。

「嬉しいわ。それはそうと、シオンのどこが良かったのかしら?? 一目惚れしたと聞いたけれど、結婚の決め手は何??」
「えっ……そ、それは、恥ずかしいので……秘密です」
「あらいいじゃない! シオンも知りたいでしょ??」

……これは、きつい。

「……今日はこの辺で勘弁してやってくれ。そろそろ行こうか、レティシア」

オレはガタン、と席を立って、レティシアに手を差し出した。
そして少しホッとした表情を浮かべると、レティシアはオレの手を取った。
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