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黎編

8話 恋人ができたよ🖤

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「お兄ちゃんっ、話したいことがあるんだっ!」

学校から却って自分の部屋でのんびりくつろいでいると勇太がいきなり部屋に入ってきた。そして勇太からそんなことを言われた。

話したいこと…?

「えっと…何?」 

「僕…恋人が…できたんだ♡」

「っ!!??」

おれは──衝撃的すぎて一瞬呼吸を忘れていた。

恋人…、恋人!?勇太に───恋人?

「あ、えっと…ちなみに…」
「なに?」
「相手は…」
「男の子だよ♡」
「で、ですよねー。」

まじかぁっ!!男…、男っ!!

「あ、えっと…」
「ねぇ───お兄ちゃん、今どんな気持ち?」
「え?」
「大切な弟に恋人が出来たんだよ。
どう?」
「どうって…。」

そういわれても…なんというか驚きが多すぎて何もいえない。

「お、おめでとう?」
「ふーん、それだけ?」

勇太はそういうとはぁっとため息をつてにこにこ顔が一瞬にして消えた。

「お兄ちゃんにとっておれはそのぐらいの存在だったんだねっ。」
「ええっ!?」
「僕に恋人ができても…なーんにも感じないんだ…!あーあ、酷い。」

勇太はぶすっとふてくされ拗ねていた。いや…、だっていきなりそんなこと言われても何も言えないし…。

「…心配は、してるよ。」
「へー。そう。」
「ただ…驚きが勝ってて…上手く言葉が現せないだけで…」
「まぁ、そうだよね。」

勇太はそういって『しょうがない』っと声を出すと二度目のため息をつく。

「それで…その恋人なんだけど…」
「う、うん。」
「…。」

勇太はいいずらいのか目を合わせようとはしなかった。
言いたくない…ような素振りを見せた。

「あ、勇太?」
「僕の恋人は…」
「あ、言いたくないなら言わなくても…」

「──────黎」
「え?」

一瞬、耳がキーンと鳴った。

まさか…、と冷や汗をかいた。

そんな──────ねぇ?

「黎、クソムシと恋人になりました。」


「っ──……─!!!???」


なんてこった──────!


「えっ!?黎と!?なんで!!」
「知らないよっ!僕だって凄く嫌だったんだから!!」
「嫌だったの!?」

嫌なのに付き合う意味がわからない!!もう、弟がわからない!!あ、それはいつものことだな。

「じゃあ、嫌だったならなんで!?」
「利害が一致したから。」
「!?」
「僕も黎も条件が一致したんだよ。だから付き合った。悪い?」
「いや、悪くはないけど…」
「大丈夫、すぐ別れるから。出来れば今すぐ別れたい。」
「ダメじゃんっ!!」

別れたいってどういうことなんだ!?勇太のこともわからないが…黎のこともわからないっ。
黎がなぜ勇太とつきあうことにしたのかが疑問だっ。勇太はともかく黎は好きでない相手と軽く付き合ったりする人だとは思えない。

「えっと…それはどっちから?」
「もちろん、僕から誘ったんだ。そしたら快くその提案に乗ってくれたよ」
「…へぇ。」
「だから…兄貴、気とかつかうなよ?」
「え?」
「2人っきりにとかにさせなくていいから。おれ、クソムシと話すことなんてないし。」
「じゃあ、なんでつきあった!?」
「…なんだろうね?」

勇太はそういうと首をこてんっと傾けた。あー、これは絶対教えてくれないやつだ!

「あと─────、もう一つ。」
「え?」
「クソムシのことだけど───
クソムシを決して一人にしないで。」
「ん?」

勇太は真剣な顔をさせておれに頼みかけるように話し出した。

「えっ?なんで?」
「──────危険、だから。」
「危険って…」
「クソムシのお兄さんのこと。」
「っ!?」

勇太の口から黎のお兄さんのことが出てくるとは思わなかったため、とてもびっくりした。

「なっ…、知ってるの?」
「なにが?」
「黎が…お兄さんのこと嫌い…なこと。」
「うん、そりゃあね、仮の仮の仮にも恋人だからね。」
「…へぇ。」

いきなり恋人感だされてもおれは戸惑っちゃうんだけと…。

「とりあえずクソムシにお兄さんは近づけちゃダメだから。一人にしちゃだめ。それは朝も昼も夜も。トイレもね。」
「えっ。」

その話を聞いて勇太が黎のことを心配していて朝も昼も夜もトイレもそばにいたいのかなっと思った。
えっ…めっちゃ重いじゃん。
めっちゃ愛してんじゃん。

「…お兄ちゃん。」
「え、なに?」
「いっとくけどそれは僕が黎のこと好きで好きすぎて朝も昼飯も夜もトイレでもいたいから…っていう意味じゃないから。」

「は…い。」

読まれてたぁっ!!

「僕一人だと難しいからお兄ちゃんにも協力してほしい。僕と黎は同じクラスじゃないから、同じクラスのお兄ちゃんはずっと黎のそばにいて。」
「えっ、でもそれって…勇太、嫌なんじゃ…」
「だから、好きで付き合ってねぇからヤキモチなんぞ一ミリもねぇ。」
「は、い。」

結構鋭い目線でにらまれてびっくりした。
声の口調からして冗談でないことは伝わってくる。

「なんで…そこまでするの?」
「黎のお兄さんを近づかせないためだよ。あいつは─────危険だから。」

危険…。勇太の言葉を聞いておれはお昼に正先生と話したことを思い出した。

おれは、正先生が黎に何をしたのかよくは知らない。

でも、それは黎のために、やったのでは?と考えるおれがいる。

「…そんな風に悪く…言わなくても…。」
「は?」
「正先生こと…。」

おれがそういうと勇太の目の色が変わったように感じた。まるで真っ赤な炎が灯ったような、そんな目をしていた。

「…クソムシが、あの、クソムシが世界で一番嫌いになった人、なんだよ?────悪いに決まってる。」
「っ…!」

おれはそう言われて心の中がもやっとした。

それは、勇太が黎のことを優先している、からだ。それは───彼氏なのだから、そうに決まってる。
けど、でも────なんか、嫌だっ。

もやもやした。

「それは…そうだけど。」
「お兄ちゃん、もしかして、正先生となんか話した?」
「っ…!」

勇太の声におれは強く反応してしまう。
身体が僅かだが揺れた。
その変化に勇太は即座に気づく。

「ばっかじゃねぇの!!?」

勇太はそういっておれの両肩を思いっきり掴んだ。

「そういってほいほいだまされて!誰かれ構わず着いてって…!!兄貴がどんだけ傷ついたかっ…!!わかってんのか!?人ってのは、信用した奴しか信じちゃいけねーんだよ!!じゃねぇと…傷つくのはてめぇだ!!」

はぁはぁと声を上げて叫んだ。
その叫びに驚く自分と苛立つ自分がいた。
なんで、おれ…、苛立ってんだ?

「なっ…、信用した奴って…!」
「クソムシは───信用できるだろ。」
「っ…!」

何で、こんな、ムカついてんだ、おれ。

「だから…正先生は敵なんだから…」
「なんで!!おれの話、聞けよっ!」

なんで、おれ怒ってんの?なんで、悔しいんだ?

それは、わかっていた。

──────勇太が、おれより違う人の言葉を優先するから、だ。

でも、それは友達の黎のことだ。

大切な─────黎のこと。
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