~戀~ いとしいとしというこころ

あおごろも

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初詣の話

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 こたつのぬくみをじんわりと味わいながら、正哉はみかんを手に、ぼんやりとテレビに流れる年始の特番を見ていた。

 玄関から元気な声が響いた。

「まーさーやー!」

 正哉は思わず耳を疑った。
 声の主を間違えるはずがないーー勇人だ。

 先週、くだらないことで口論になって、それきり直接会っていなかったし、連絡もすべて無視していた。
 毎年恒例の初詣の約束も、なんとなく流れてしまって迎えた新年。
 今年は、もう一緒に行かないんだろうと思っていたのに。

「正哉、勇人くん来はったで」

 呼びにきた母から隠れるように、正哉はこたつに潜り込む。

「別に約束とかしてへんし……」
「何言ってんの。毎年一緒に行ってるやん」

 母は当然のように返してくる。
 襖の向こうには、父の声まで加わった。

「勇人くん、ちょっと待ってなー」

 勝手に返事する父に一言文句を言いたくて、こたつから顔を出したところを母に鋭くにらみつけられ、首をすくめる。

「あんた何も用意してへんやん。……ごめんね勇人くん、すぐ用意するからちょっと待ってて」

 渋々、着替えて玄関に出ると、勇人はマフラーに顔を埋めながら待っていた。
 目が合った瞬間、正哉の胸に妙な緊張が走る。

「あけましておめでとう」
「…………おめでとう」
「行こ」

 勇人について歩き出す。
 外の空気は凍えるように冷たかった。
 二人の間に、白い吐息だけが立ち上る。

 口論のきっかけも内容も本当に些細なことで、ただ意地を張って、何となくそのまま時間が過ぎただけ。
 そう自覚しているのに、素直に話せない。

 ちらりと横を見る。
 勇人は、特に気にする様子もなく歩いている。
 表情も普段と変わらず、会話がないことさえ気にしていないように見えた。

 それが逆に、正哉の胸をもどかしくした。

 神社の参道まで来ると、人の波は増し、ぎゅうぎゅうとおされるように境内へと進む。
 屋台が並び、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
 列に並び、やっと拝殿の前に進んだ。
 賽銭箱に小銭を入れて、手を合わせる。

ーー神さまに、何をお願いしよう。

 今浮かぶのは「この気まずさがなくなりますように」だけだった。

 お参りを終えると、勇人が配られている甘酒をふたり分もらってきた。

「ほら、おまえの分」

 差し出された小さな紙コップを受け取る。
 ふわりと立ち上る湯気と香り。
 一口飲むと、温かい甘みに、寒さで強ばった体がほっこりと緩む。

「はぁ……」

 自然と息が漏れる。
 幸せな気持ちで二口目を味わっていると、

「初詣の御利益あったわ」

 顔を上げると、勇人が福々とした笑顔でこちらを見ていた。

「御利益って……何お願いしたん」
「正哉が機嫌直してくれますように、って」

 正哉は思わず顔を赤らめた。

「お願い事、口にしたらあかんやろ」
「聞いといて言うか。まあ、叶ったんやし、いいやん」

 勇人は悪びれずに笑う。
 胸の奥が温かくて、くすぐったいようで、どうしようもなく照れくさい。

「勇人のアホ」

 そう呟いて、正哉はそっぽを向いた。
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