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「……お嬢様。本日の営業も、無事に大爆発……失礼、大盛況のうちに終了いたしました」
夜の帳が下りた『サロン・ド・ミルフィーユ』の最上階。
エクレアが最後の一行を帳簿に書き込み、パタンと音を立てて閉じた。
私はバルコニーから、宝石を散りばめたように輝く王都の夜景を眺めていた。
「お疲れ様、エクレア。……ふふ、こうして見ると、この街も随分と甘い香りに包まれるようになったわね」
「ええ。かつて『悪役令嬢が街を歩けば草木も枯れる』と噂されていた頃が、もはや神話の時代のようです。今や街中の女性たちが、お嬢様のような『不敵な微笑み』を練習しておりますから」
「失礼ね。私の微笑みは天然記念物級の希少価値があるのよ」
私が扇をバサリと閉じると、背後から「お姉様ーーー!」という、鼓膜に響く元気な声が聞こえてきた。
「お姉様! 大変です! 北の『内省の塔』から、最新の『カボチャ日記・第百巻』が届きました! タイトルは『俺を捨てた悪役令嬢が、実は俺の愛を試していた件について』だそうです!」
クララが、もはや笑いすぎて涙目になりながら、分厚い原稿を振り回して走ってきた。
「……まだやってるのね、あの男。第百巻って、ある意味では歴史的な大作だわ」
「どうしますか、お姉様? これ、また燃料……いえ、トイレットペーパーの代わりとして再利用しますか?」
「いいわ、それはもう飽きたわ。……フィナンシェ伯爵に送りなさい。アールグレイ王国での『喜劇の台本』として出版させれば、また一儲けできるでしょう」
「さすがはお姉様! 骨の髄までカボチャを使い倒すその根性、一生ついていきます!」
クララが私の腕にぎゅっと抱きついてくる。
私は、その温もりを感じながら、ふと窓に映る自分の姿を見た。
そこには、婚約破棄された日に絶望していた令嬢の姿はない。
自分の人生を自分の足で歩む、一人の誇り高い女性の姿がある。
「……ねえ、クララ。貴女、後悔していない? 私と一緒にいるせいで、普通の『ヒロイン』としての幸せを逃しちゃったんじゃないかしら?」
「何言ってるんですか、お姉様。私の幸せは、お姉様がいじわるな顔で私に無理難題を押し付けて、それを私が『はーい!』って乗り越えた後に、二人で美味しいケーキを食べて笑い合うことですよ」
クララは私の目を真っ直ぐに見つめ、満面の笑みで言った。
「王子様の隣で飾られるだけの幸せなんて、砂糖の入っていない綿あめみたいなものです。……お姉様と作る未来の方が、ずっとずっと、濃密で甘いです!」
「……全く。貴女って子は、本当に最高の『マブダチ』ね」
私は少しだけ目元が熱くなるのを隠すように、彼女の額を指先で弾いた。
「いたっ!? あうぅ、お姉様、最後くらいデレてくださいよぉ!」
「デレなんて、私の辞書には載っていませんわ。……さて、エクレア。今夜の予定は?」
「はい。公爵邸の地下ワインセラーにて、お嬢様とクララ様、そして私の三人による『密談(女子会)』の準備が整っております。本日の議題は……『アールグレイ王国の次は、どこを甘く支配するか』でございます」
「いいわね。……楽しみだわ」
私は窓を開け放ち、夜風を全身に浴びた。
「さあ、行きましょう、クララ。……私たちの物語は、これからが本番よ!」
「はい、お姉様! どこまでもついていきます!」
悪役令嬢と、マブダチなヒロイン。
二人の背中は、月明かりに照らされて、どこまでも自由に、どこまでも不敵に、夜の闇を駆け抜けていった。
夜の帳が下りた『サロン・ド・ミルフィーユ』の最上階。
エクレアが最後の一行を帳簿に書き込み、パタンと音を立てて閉じた。
私はバルコニーから、宝石を散りばめたように輝く王都の夜景を眺めていた。
「お疲れ様、エクレア。……ふふ、こうして見ると、この街も随分と甘い香りに包まれるようになったわね」
「ええ。かつて『悪役令嬢が街を歩けば草木も枯れる』と噂されていた頃が、もはや神話の時代のようです。今や街中の女性たちが、お嬢様のような『不敵な微笑み』を練習しておりますから」
「失礼ね。私の微笑みは天然記念物級の希少価値があるのよ」
私が扇をバサリと閉じると、背後から「お姉様ーーー!」という、鼓膜に響く元気な声が聞こえてきた。
「お姉様! 大変です! 北の『内省の塔』から、最新の『カボチャ日記・第百巻』が届きました! タイトルは『俺を捨てた悪役令嬢が、実は俺の愛を試していた件について』だそうです!」
クララが、もはや笑いすぎて涙目になりながら、分厚い原稿を振り回して走ってきた。
「……まだやってるのね、あの男。第百巻って、ある意味では歴史的な大作だわ」
「どうしますか、お姉様? これ、また燃料……いえ、トイレットペーパーの代わりとして再利用しますか?」
「いいわ、それはもう飽きたわ。……フィナンシェ伯爵に送りなさい。アールグレイ王国での『喜劇の台本』として出版させれば、また一儲けできるでしょう」
「さすがはお姉様! 骨の髄までカボチャを使い倒すその根性、一生ついていきます!」
クララが私の腕にぎゅっと抱きついてくる。
私は、その温もりを感じながら、ふと窓に映る自分の姿を見た。
そこには、婚約破棄された日に絶望していた令嬢の姿はない。
自分の人生を自分の足で歩む、一人の誇り高い女性の姿がある。
「……ねえ、クララ。貴女、後悔していない? 私と一緒にいるせいで、普通の『ヒロイン』としての幸せを逃しちゃったんじゃないかしら?」
「何言ってるんですか、お姉様。私の幸せは、お姉様がいじわるな顔で私に無理難題を押し付けて、それを私が『はーい!』って乗り越えた後に、二人で美味しいケーキを食べて笑い合うことですよ」
クララは私の目を真っ直ぐに見つめ、満面の笑みで言った。
「王子様の隣で飾られるだけの幸せなんて、砂糖の入っていない綿あめみたいなものです。……お姉様と作る未来の方が、ずっとずっと、濃密で甘いです!」
「……全く。貴女って子は、本当に最高の『マブダチ』ね」
私は少しだけ目元が熱くなるのを隠すように、彼女の額を指先で弾いた。
「いたっ!? あうぅ、お姉様、最後くらいデレてくださいよぉ!」
「デレなんて、私の辞書には載っていませんわ。……さて、エクレア。今夜の予定は?」
「はい。公爵邸の地下ワインセラーにて、お嬢様とクララ様、そして私の三人による『密談(女子会)』の準備が整っております。本日の議題は……『アールグレイ王国の次は、どこを甘く支配するか』でございます」
「いいわね。……楽しみだわ」
私は窓を開け放ち、夜風を全身に浴びた。
「さあ、行きましょう、クララ。……私たちの物語は、これからが本番よ!」
「はい、お姉様! どこまでもついていきます!」
悪役令嬢と、マブダチなヒロイン。
二人の背中は、月明かりに照らされて、どこまでも自由に、どこまでも不敵に、夜の闇を駆け抜けていった。
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