喜んで!悪役令嬢を極めすぎて王子にドン引きされました!

恋の箱庭

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煌びやかなシャンデリアが輝く、王立アカデミーの卒業パーティー会場。
優雅な旋律が奏でられる中、突如として音楽が止まり、鋭い声が響き渡った。

「ミクル・フォン・アストレア! 貴様との婚約を、今この場をもって破棄させてもらう!」

声を上げたのは、この国の第一王子であるアルヴィスだ。
彼の隣には、守ってあげたくなるような儚げな美少女、聖女リリィが寄り添っている。

周囲の貴族たちは息を呑み、一気に静まり返った。
誰もが、公爵令嬢である私がショックで泣き崩れるか、あるいは怒り狂うのを期待している。

しかし、私の心境は違った。
(……来たわ! 完璧なシチュエーション! これこそが悪役令嬢の華、断罪シーンですわ!)

私は扇子をバサリと広げ、口元を隠しながら、あえて傲慢な笑みを浮かべてみせた。

「あら、アルヴィス殿下。急に何を言い出すかと思えば、婚約破棄ですの?」

アルヴィス王子は、私の不敵な態度に一瞬怯んだものの、すぐに鼻を鳴らした。

「ふん、白々しい。お前が裏でリリィに対して行ってきた数々の嫌がらせ、すべて把握しているのだぞ!」

待ってました、と言わんばかりの追及だ。
私はわざとらしく、高飛車な声を張り上げる。

「嫌がらせ? 具体的に、どのようなことかしら。わたくしの貴重な時間を割いてまで、そのような些末なことをした記憶はございませんわ」

「しらを切るな! リリィの教科書を破り、ドレスに泥をかけ、さらには階段から突き落とそうとしただろう!」

リリィが瞳を潤ませながら、アルヴィスの腕にすがった。

「アルヴィス様、もういいのです。ミクル様がお認めにならないのは分かっていましたから……。私が我慢すれば済む話ですわ」

これだ。これこそが、私が求めていた「悲劇のヒロイン」と「高慢な悪役」の対比。
私のテンションは最高潮に達していた。

「おーっほっほっほ! 傑作ですわね! 教科書? ドレス? そんな安物のためにわたくしが手を汚すとでも? わたくしを誰だと思っておいでかしら!」

私はドレスの裾を優雅に翻し、会場の真ん中へと歩み出た。
本当は心臓がバクバクしているが、演じ切るのが公爵令嬢としての矜持である。

「殿下、わたくしは完璧な公爵令嬢。もしわたくしが誰かを排除しようと思えば、もっと効率的に、社会的に抹殺いたしますわ。そんな子供騙しのような嫌がらせ、わたくしの美学に反しますの」

「貴様……! 反省の色すらないのか!」

アルヴィス王子の顔が真っ赤に染まる。
彼は正義感に燃えているようだが、私から見ればただの単細胞だ。

「反省? なぜわたくしが? 真実を見抜けない殿下の節穴な目にこそ、反省を促したいところですわ」

周囲から「ああ……」という絶望的な吐息が漏れる。
公爵令嬢が王子を罵倒するなど、通常であれば破滅への特急券だ。

(いいわ、いい流れだわ。これでわたくしは家を追われ、自由の身になれるはず!)

実は、私はこの窮屈な社交界に嫌気がさしていた。
「悪役令嬢」という役割を完遂し、追放されることこそが私の真の目的だったのだ。

「いいでしょう! その婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ! このような見る目のない殿下の隣に座り続けるなど、わたくしの人生最大の汚点ですもの!」

私は扇子を畳み、ビシッとアルヴィス王子を指差した。

「ただし! 慰謝料の請求はさせていただきますわよ。わたくしの貴重な青春を、殿下のような退屈な男に費やしたのですから!」

「何だと! 追放される身で、まだそんな強欲なことを言うのか!」

アルヴィス王子の怒号が飛ぶ。
しかし、私はどこ吹く風で、さらに高笑いを重ねた。

「おーっほっほっほ! 強欲ではなく、権利ですわ! さあ、リリィさん。殿下をお譲りしますわ。せいぜい、賞味期限切れの愛を噛み締めるがいいですわ!」

言い切った。
最高のセリフ、最高のポーズ、そして最高の空気感。

私は満足感に包まれながら、出口に向かって颯爽と歩き出した。
誰もが私の迫力に圧倒され、道を開ける。

(ふふん、完璧だわ。これで明日からは、田舎でのんびり一人暮らし……)

そう確信して扉に手をかけようとした、その時だった。

「素晴らしい……! これほどまでに美しい覇気を放つ女性を、私は見たことがない!」

会場の入り口から、野太く、それでいて腹の底に響くような声が響いた。

振り返ると、そこにはパーティーの正装を無視したような、ゴツゴツとした鎧に身を包んだ大男が立っていた。
背中には巨大な大剣を背負い、不敵な笑みを浮かべている。

(……え? 誰、この筋肉の塊みたいな人?)

その男は、私の困惑を無視して大股で近づいてきた。
アルヴィス王子が驚いて声を上げる。

「カ、カイル殿下!? 隣国の第三王子が、なぜここに……!」

隣国の騎士団長としても有名な、武闘派王子カイル。
彼は震えるアルヴィスを突き飛ばし、私の目の前で片膝をついた。

「ミクル・フォン・アストレア公爵令嬢。貴女の今の毅然とした態度、その瞳に宿る力強い光……心打たれた!」

彼は私の手を取り、ごつごつした手のひらで包み込む。

「私の国、ヴァルハルトへ来ないか? 貴女のような強い女性こそ、我が王妃に相応しい!」

会場に、先ほど以上の衝撃が走った。
もちろん、一番驚いているのは私だ。

「……はい?」

私の「悪役令嬢ムーブ」が、まさかの斜め上の評価を受けてしまった瞬間だった。
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