喜んで!悪役令嬢を極めすぎて王子にドン引きされました!

恋の箱庭

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「放せ! 放さないか! 不敬だぞ、この筋肉ダルマめ!」

ボルグ副団長に首根っこを掴まれ、空中で足をバタつかせるアルヴィス殿下。
その姿は、まるで捕まったばかりの情けないウサギのようですわ。

私は冷めた目でその光景を眺めながら、手元のワインをゆったりと揺らしました。

「ボルグ、乱暴はいけませんわ。アルヴィス殿下は、これでも一国の第一王子。礼儀正しく、放り出して差し上げなさいな」

「はっ! 失礼いたしました、ミクル姐さん! では、優雅に放り投げてまいります!」

ボルグが腕を振りかぶったその時。
カイル殿下が、重厚な足音と共に一歩前へと踏み出しました。

「待て、ボルグ。アストレア王国の王子よ。君は先ほど、ミクルを『連れ戻す』と言ったな?」

カイル殿下の体から、物理的に空気が震えるほどのプレッシャーが放たれました。
アルヴィスは顔を青くしながらも、必死に声を絞り出します。

「そ、そうだ! ミクルは元々、我が王国の所有物……いや、大切な婚約者だったのだ! それを貴様が強引に……!」

「所有物だと? その言葉、聞き捨てならんな」

カイル殿下の瞳に、本物の「闘志」が宿りました。
彼は一歩、また一歩とアルヴィスに歩み寄ります。
そのたびに、床の石畳がミシリと音を立てている気がしますわ。

「ヴァルハルトの流儀では、愛の重さは、その男が背負える責任と筋肉の重さに比例する。君にミクルを愛する資格があるというのなら、私と『愛の証明』で勝負をしてもらう」

「あ、愛の証明……? 決闘か! いいだろう、剣なら嗜んで……」

「剣など使わん。我が国の決闘は、もっと魂に近い場所で競う」

カイル殿下は、やおら自慢の大胸筋を強調するポーズを取りました。

「この私の『愛の咆哮』を受け止めてみろ! ミクルへの愛を込めた、至高の圧力だ!」

「……は?」

アルヴィスが呆気に取られた瞬間。
カイル殿下が大きく息を吸い込み、全身の筋肉を爆発させるように膨らませました。

「ミクルゥゥゥ! 愛しているぞぉぉぉッ!!」

鼓膜を突き破らんばかりの怒号。
そして、それと同時に放たれた凄まじい「愛のオーラ(物理的な風)」が、アルヴィスを直撃しました。

「ぐ、ああぁぁぁ!? 何だ、この重圧は……! 愛が、愛が重すぎるッ!!」

アルヴィスは、見えない巨人に押し潰されるかのように、その場に膝をつきました。
カイル殿下の愛は、もはや精神論を超えて質量を持っていたのです。

「ミクルは、私の国の誇りだ! 彼女の罵倒の一言一言が、私の筋肉をより強く、より硬くする! 君のような、彼女の価値を数字でしか測れない男に、この愛の重みが耐えられるか!」

「あ……あ、ああ……。む、無理だ……。こんな重い愛、僕には背負えない……」

アルヴィスは白目を剥き、そのままズルズルと床に突っ伏しました。
どうやら、カイル殿下の暑苦しすぎる情熱に、精神が耐えきれなかったようですわね。

私は、扇子でパタパタと顔を仰ぎながら、カイル殿下に歩み寄りました。

「殿下。少しやりすぎですわよ。会場のシャンデリアが、今の声でいくつか割れてしまいましたわ」

「すまない、ミクル。だが、君を侮辱する男を前にして、私の筋肉が黙っていられなかったのだ」

カイル殿下は、シュンとしながらも、嬉しそうに私の顔を覗き込んできました。
その瞳は、先ほどの覇王っぷりが嘘のように、捨てられた仔犬のように潤っています。

「……たく。本当に、騒々しい方ですわね。ですが、まあ。わたくしのためにここまで汗を流してくださったことだけは、認めて差し上げてもよくてよ」

「ミクル……! ああ、今の冷たい声! 最高のご褒美だ!」

カイル殿下は再び筋肉を躍動させ、今度は喜びのポーズを決めました。
私は、気絶したアルヴィスを指差して、騎士たちに命じました。

「さあ、その『燃えないゴミ』を片付けなさいな。国境を越えたあたりで、適当に放り捨てておくことですわ。あ、リリィさんへの請求書を、彼のポケットにねじ込んでおくのを忘れないでね?」

「「「「はっ! 姐さん、承知いたしました!!」」」」

騎士たちが、アルヴィスの両足を持って引きずっていきます。
かつて私が憧れていた(フリをしていた)王子様は、こうしてヴァルハルトの夜から、無残に消え去っていきました。

「さて。殿下。お騒がせな客もいなくなりましたわ。夜会を再開しましょうか。次は、わたくしのドレスのトゲに当たらないように、慎重にエスコートしてくださいましね?」

「ああ! 命に代えても、完璧にエスコートしてみせよう!」

私たちは、再び拍手に包まれる会場の中央へと戻りました。
私の悪役令嬢としての人生は、どうやらこの筋肉の国で、想像もしなかった「最強のハッピーエンド」に向かって加速し始めているようですわ。
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