喜んで!悪役令嬢を極めすぎて王子にドン引きされました!

恋の箱庭

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アルヴィス殿下が「愛の重圧」で気絶し、ゴミのように運び出された後のことです。
静まり返った庭園の影から、一人の女性が這い出してきました。
アストレア王国の誇る聖女、リリィですわ。

「……ミクル、様。よくもアルヴィス様を、あんな目に!」

リリィは泥に汚れたドレスを振り乱し、怨嗟の声を上げました。
どうやら、殿下の救出劇(笑)を陰で見守っていたようですわね。

私はカイル殿下の隣で、ゆっくりと扇子を閉じました。
そして、月光を背に受けて、これ以上ないほど残酷で美しい微笑みを浮かべます。

「あら。まだ残飯が落ちていたのかしら。リリィさん、そんなところで這いつくばって、新しい美容法でも試しているのですか?」

「ふざけないで! 貴女さえいなければ、わたくしは完璧な王妃になれたのに! これを受けなさいな。闇のギルドで手に入れた『絶望の鏡』よ!」

リリィが懐から取り出したのは、赤黒く光る不気味な手鏡でした。
それを見たカイル殿下が、鋭い声を上げます。

「ミクル、危ない! それは見た者の精神を破壊し、最も恐れる幻覚を見せるという禁忌の呪具だ!」

「精神を破壊? まあ、面白そうですわね。おーっほっほっほ!」

私は避けるどころか、あえてリリィに向かって一歩踏み出しました。
カイル殿下の制止も聞かず、私はリリィを、その瞳の奥まで射抜くような鋭い眼光で睨みつけました。

「リリィさん。貴女、本物の『悪』というものをご存知かしら? そんな安っぽいおもちゃで、わたくしの心を揺さぶれると思っているの?」

私はわざと声を低くし、悪役令嬢としての全覇気を指先にまで込めました。
周囲の草木が、私の(演技による)威圧感でカサカサと震え始めます。

「いいですか。わたくしが歩んできた道は、常に誰かの憎しみと羨望に満ちていましたわ。絶望? そんなもの、わたくしの朝食の添え物にもなりませんわよ。さあ、見せなさいな。貴女の持っているその小さな絶望を!」

私はリリィの目の前まで歩み寄り、鏡の面に自らの顔を突き合わせました。

「ひ……っ。な、何なの、この迫力は。今の、貴女の背後に……巨大な魔王の影が見えたような……!」

リリィの手が、ガタガタと激しく震え始めました。
私の完璧な悪役演技は、禁忌の呪具の魔力さえも凌駕する「恐怖」を彼女に植え付けてしまったようです。

「どうしたの? 早く呪いなさいな。それとも、わたくしのあまりの美しさに、呪いの方が遠慮してしまっているのかしら?」

「あ、あああ……来ないで! 魔王! 魔王が来るわっ!!」

リリィはあまりの恐怖に、自らが持っていた鏡を放り出そうとしました。
しかし、激しく震えるその手は、不運にも鏡の面を自分の方へと向けてしまったのです。

「あああぁぁぁッ!! 嫌ぁぁぁ! わたくしが、わたくしがシワシワの老婆になって、誰からも見向きもされないなんてぇぇ!!」

鏡に映った「自身の最も恐れる未来」を見たリリィは、そのまま発狂したように叫び、庭園を走り去っていきました。
どうやら、自分自身の虚栄心が呪いとなって跳ね返ったようですわね。

私は、地面に落ちた鏡をヒョイと拾い上げました。
鏡の中には、相変わらず冷徹に微笑む私の姿が映っているだけです。

「あら。わたくしには、何も見えませんわ。鏡も、わたくしの隙のなさに降参したのかしらね」

「ミクル、君は……やはり、聖女の呪いすら跳ね返す『真の強者』だったのだな。今の君の威圧感、正直に言って、私も少し膝が笑ったぞ」

カイル殿下が、心底感心したように私の肩を抱きました。
私はカイル殿下の胸に寄り添いながら、心の中で安堵の溜息をつきました。

(……ふぅ。鏡を見る前に、リリィさんが自爆してくれて助かりましたわ。本当は『鏡に映った自分の寝癖』とかを見せられたら、わたくしも卒倒していたかもしれませんもの)

「さあ、殿下。掃き溜めの騒ぎもこれでおしまいですわ。お口直しに、最高級のブランデーでも用意していただけるかしら?」

「ああ、もちろんた! 君の勝利を祝して、城中の筋肉を総動員して乾杯しよう!」

リリィという最後の障害も、私の「悪役オーラ」の前に自滅しました。
こうしてヴァルハルトの夜は、再び平穏(と、暑苦しい歓喜)を取り戻したのでした。
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