22 / 28
22
しおりを挟む
ヴァルハルト王国の清々しい朝、私はカイル殿下と共に、テラスで朝食を摂っておりました。
相変わらずの筋肉盛り合わせメニューですが、最近ではこれを見ないと目が覚めない自分に恐怖を感じますわ。
そこへ、アストレア王国からの定期便を携えた伝令が駆け込んできました。
報告書を受け取ったカイル殿下は、それを一読するなり、豪快に吹き出しました。
「ははは! ミクル、君の言った通りになったぞ。アストレア王国の第一王子、アルヴィスが正式に王位継承権を剥奪されたそうだ!」
私は優雅に薬草汁を啜りながら、扇子の陰で口角を上げました。
「あら。当然の結果ですわね。わたくしが十人がかりでこなしていた政務を、あの無能な殿下と、贅沢三昧の聖女様だけで回せるはずがありませんもの」
報告書によれば、アルヴィス殿下は国庫を破綻させた責任を問われ、現在は王宮の地下にある資料室に幽閉されているとのこと。
そこには、私が残していった「未処理の書類の山」が積み上げられており、彼は死ぬまでその計算をさせられる刑に処されたそうですわ。
「聖女リリィの方はどうなりましたの?」
「彼女は『聖女』の称号を剥奪され、地方の修道院へ送られたよ。そこは質素倹約を旨とする場所で、朝から晩までジャガイモの皮剥きをさせられるそうだ。彼女が買い漁った宝石はすべて没収され、国民の救済に充てられたらしい」
それを聞いた瞬間、私の中に抑えきれない高揚感が込み上げてきました。
私は椅子から立ち上がり、朝の光を浴びながら、これ以上ないほど高らかに声を響かせました。
「おーっほっほっほ! ざまぁ見やがれですわ! わたくしを追い出した報い、たっぷりと味わうがいいですわ!」
自分の放った「ざまぁ」という言葉の響きに、私は最高にスッキリとした気分になりました。
これですわ。悪役令嬢としての物語において、この瞬間こそが最大のカタルシスなのです。
しかし、ひとしきり笑い終えた後、私の胸の奥に、ほんのりと苦い感覚が広がりました。
「……ミクル? どうしたんだ、急に黙り込んで。今の笑い、城の防衛壁が共鳴するほど素晴らしかったぞ」
カイル殿下が心配そうに私の顔を覗き込んできました。
私は視線を落とし、小さく溜息をつきました。
「……いえ。ほんの少しだけ、あの書類の山のことが気にかかっただけですわ。アルヴィス殿下の計算能力では、おそらく最初の三ページで計算ミスをして、一生終わらない無限ループに陥るでしょうから」
「君は……どこまで慈悲深いのだ。自分を裏切った相手の心配をするなんて、やはり君は真の聖女よりも聖女らしいな!」
カイル殿下は感動して私の手を握りましたが、私はそれをやんわりと押し返しました。
「勘違いしないでくださいまし。わたくしが心配しているのは、計算ミスのせいでアストレア王国の経済指標がめちゃくちゃになり、隣国であるこのヴァルハルトの物価に悪影響が出ることだけですわよ。……ほんの、少しだけですけれど」
私は窓の外、遠く離れた故郷の方角を見つめました。
あんなに嫌っていたはずの場所ですが、自分が守ってきたものが崩れていくのを聞くのは、悪役令嬢としても少しだけ、心がチクリと痛むものですわね。
「おーっほっほ! まあ、わたくしがいないのですもの。あの国が没落するのも運命ですわ! 殿下、今のわたくしの台詞、最高に傲慢で格好良かったですわよね?」
「ああ! 最高だ! その冷徹な合理主義、惚れ直したぞ、ミクル!」
カイル殿下の熱い抱擁をトゲトゲの肩当てで防御しながら、私は自らの過去と決別しました。
後悔はありません。
あちらには絶望の書類の山がありますが、こちらには愛すべき筋肉と、私の「覇気」を認めてくれる未来があるのですから。
「さあ、殿下。過去の話はこれでおしまいですわ。今日は騎士団の新しいプロテインの味見に行くのでしょう? わたくしが厳しく毒見をして差し上げますわよ!」
「ああ、頼む! 君に『不味い』と罵られれば、開発部も死ぬ気で改良するだろう!」
私は再び高笑いを響かせながら、テラスを後にしました。
悪役令嬢ミクルの新しい伝説は、まだ始まったばかりなのですから。
相変わらずの筋肉盛り合わせメニューですが、最近ではこれを見ないと目が覚めない自分に恐怖を感じますわ。
そこへ、アストレア王国からの定期便を携えた伝令が駆け込んできました。
報告書を受け取ったカイル殿下は、それを一読するなり、豪快に吹き出しました。
「ははは! ミクル、君の言った通りになったぞ。アストレア王国の第一王子、アルヴィスが正式に王位継承権を剥奪されたそうだ!」
私は優雅に薬草汁を啜りながら、扇子の陰で口角を上げました。
「あら。当然の結果ですわね。わたくしが十人がかりでこなしていた政務を、あの無能な殿下と、贅沢三昧の聖女様だけで回せるはずがありませんもの」
報告書によれば、アルヴィス殿下は国庫を破綻させた責任を問われ、現在は王宮の地下にある資料室に幽閉されているとのこと。
そこには、私が残していった「未処理の書類の山」が積み上げられており、彼は死ぬまでその計算をさせられる刑に処されたそうですわ。
「聖女リリィの方はどうなりましたの?」
「彼女は『聖女』の称号を剥奪され、地方の修道院へ送られたよ。そこは質素倹約を旨とする場所で、朝から晩までジャガイモの皮剥きをさせられるそうだ。彼女が買い漁った宝石はすべて没収され、国民の救済に充てられたらしい」
それを聞いた瞬間、私の中に抑えきれない高揚感が込み上げてきました。
私は椅子から立ち上がり、朝の光を浴びながら、これ以上ないほど高らかに声を響かせました。
「おーっほっほっほ! ざまぁ見やがれですわ! わたくしを追い出した報い、たっぷりと味わうがいいですわ!」
自分の放った「ざまぁ」という言葉の響きに、私は最高にスッキリとした気分になりました。
これですわ。悪役令嬢としての物語において、この瞬間こそが最大のカタルシスなのです。
しかし、ひとしきり笑い終えた後、私の胸の奥に、ほんのりと苦い感覚が広がりました。
「……ミクル? どうしたんだ、急に黙り込んで。今の笑い、城の防衛壁が共鳴するほど素晴らしかったぞ」
カイル殿下が心配そうに私の顔を覗き込んできました。
私は視線を落とし、小さく溜息をつきました。
「……いえ。ほんの少しだけ、あの書類の山のことが気にかかっただけですわ。アルヴィス殿下の計算能力では、おそらく最初の三ページで計算ミスをして、一生終わらない無限ループに陥るでしょうから」
「君は……どこまで慈悲深いのだ。自分を裏切った相手の心配をするなんて、やはり君は真の聖女よりも聖女らしいな!」
カイル殿下は感動して私の手を握りましたが、私はそれをやんわりと押し返しました。
「勘違いしないでくださいまし。わたくしが心配しているのは、計算ミスのせいでアストレア王国の経済指標がめちゃくちゃになり、隣国であるこのヴァルハルトの物価に悪影響が出ることだけですわよ。……ほんの、少しだけですけれど」
私は窓の外、遠く離れた故郷の方角を見つめました。
あんなに嫌っていたはずの場所ですが、自分が守ってきたものが崩れていくのを聞くのは、悪役令嬢としても少しだけ、心がチクリと痛むものですわね。
「おーっほっほ! まあ、わたくしがいないのですもの。あの国が没落するのも運命ですわ! 殿下、今のわたくしの台詞、最高に傲慢で格好良かったですわよね?」
「ああ! 最高だ! その冷徹な合理主義、惚れ直したぞ、ミクル!」
カイル殿下の熱い抱擁をトゲトゲの肩当てで防御しながら、私は自らの過去と決別しました。
後悔はありません。
あちらには絶望の書類の山がありますが、こちらには愛すべき筋肉と、私の「覇気」を認めてくれる未来があるのですから。
「さあ、殿下。過去の話はこれでおしまいですわ。今日は騎士団の新しいプロテインの味見に行くのでしょう? わたくしが厳しく毒見をして差し上げますわよ!」
「ああ、頼む! 君に『不味い』と罵られれば、開発部も死ぬ気で改良するだろう!」
私は再び高笑いを響かせながら、テラスを後にしました。
悪役令嬢ミクルの新しい伝説は、まだ始まったばかりなのですから。
0
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる