婚約破棄と自由なセカンドライフを望みます。

恋の箱庭

文字の大きさ
11 / 28

11

「……はふ、はふ。……おいしい。おいしいよリリィ。この乾燥芋、噛めば噛むほど王家の伝統……ではなく、ベルシュカ領の豊かな大地の味がする……」


王宮の地下室。泥まみれの皇太子レオポルドは、もはやプライドをかなぐり捨て、床に座り込んで芋を頬張っていた。


「殿下ぁ! これ、お星様枕よりずっと刺激的ですわぁ! お口の中で甘みが大爆発して、なんだか幸せな気分になりますのぉ!」


リリィもまた、頬をリスのように膨らませて芋を咀嚼している。
その姿には、かつての「悲劇のヒロイン」としての面影は微塵もない。あるのは、ただの「食いしん坊な娘」としての生命力だけだった。


「……待てよ。この芋、あまりにもクオリティが高すぎないか? もしや、これを王宮の門前で売れば、泥を投げられるよりも効率的に稼げるのでは……?」


レオポルドの脳裏に、かつてミュークオが叩き込んでくれた「商売の基礎」が、芋の糖分によって呼び起こされた。


一方その頃、カイルの屋敷。
ミュークオは、手元の水晶玉……ではなく、最新の「領地売上報告書」を眺めて満足げに頷いていた。


「……ふふ。計画通りですわね。人間、極限状態に追い込まれた時に食べたものの味は、一生忘れませんわ」


「ミュークオ、君という人は……。あの乾燥芋に、依存性の高い秘密のスパイスでも混ぜたのかい?」


カイルが呆れたように、しかし愛おしそうに彼女に尋ねる。


「失礼ね、閣下。そんな非効率なことはしませんわ。ただ、製造過程で『徹底した温度管理』と『熟成期間の最適化』を行っただけです。お腹を空かせた殿下たちにとって、それが世界で一番の美食に感じられるのは必然ですわ」


「そして、彼らがその味を広める……というわけか」


「ええ。案の定、王宮の侍女たちが『殿下が地下で隠れて食べている魔法の食べ物』として噂を広め始めましたわ。今日あたり、王都の商会に注文が殺到しているはずです」


ミュークオが扇をパチンと閉じると、アンナが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。


「ミュークオ様! 大変です! 王宮の前に、乾燥芋を求めて市民たちが長蛇の列を作っています! リリィ様が門の上から『お芋は希望ですわぁ!』と叫びながら、芋をばら撒いていますわ!」


「……リリィ様、ついに悟りを開かれましたわね」


ミュークオは窓の外を見やり、遠くに見える王宮の方角を指差した。


「さあ、閣下。これで王宮は『芋の聖地』として観光地化されます。殿下は泥を投げられるアルバイトから、芋を売る『看板息子』に昇格ですわ。私は、そのロイヤリティを徴収するだけで、さらに一時間の昼寝時間を確保できます」


「君の休暇資金は、どこまで膨らむつもりだい?」


「寝ていてもお金が入ってくる仕組みを作ること。これこそが、真の効率主義者が目指すべき極致ですもの」


カイルは笑いながら、ミュークオを抱き寄せた。


「まったく。……だが、君のその『冷徹な商才』に、私は心底惚れ直しているよ。今夜は、芋料理ではなく、最高のシェフを呼んでお祝いをしよう」


「……いいでしょう。ただし、デザートはベルシュカ領の最高級乾燥芋(プレミアム)でお願いしますわね」


ミュークオは、カイルの胸の中で誇らしげに微笑んだ。
悪役令嬢が仕掛けた「芋の罠」は、今や王国全体の胃袋を掴み、彼女にさらなる安眠と富をもたらそうとしていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

山猿の皇妃

夏菜しの
恋愛
 ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。  祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。  嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。  子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。  一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……  それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。  帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。  行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。 ※恋愛成分は低め、内容はややダークです

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

生徒会の期間限定雑用係 ~庶民の私が王子に囮役としてスカウトされたら、学園の事件に巻き込まれました~

piyo
恋愛
平凡な庶民の少女クィアシーナは、フォボロス学園への転校初日、いきなりこの国の第二王子にして生徒会長ダンテに目をつけられる。 彼が求めたのは、生徒会での“囮役”。 学園で起きているある事件のためだった。 褒美につられて引き受けたものの、 小さないやがらせから王位継承問題まで巻き込まれていき――。 鋭すぎるツッコミを武器に、美形の生徒会の仲間たちと奮闘する庶民女子。 これは、無自覚な恋を抱えながら学園の事件に首を突っ込んでいく少女の物語。 ※全128話  前半ラブコメ、後半第二章以降シリアスの三部構成です。 ※「私にキスしたのは誰ですか?」と同じ世界感ですが、単品で読めます。 ※アルファポリス先行で他サイトにも掲載中

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

成功条件は、まさかの婚約破棄!?

たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」 王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。 王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、 それを聞いた彼女は……? ※他サイト様にも公開始めました!