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「地味! 地味ですわ! この国の流行は、泥を投げたり芋をかじったり、なんて野蛮で非効率なのかしら!」
王宮の迎賓館に、雷鳴のような高笑いが響き渡った。
豪華な金糸の刺繍をこれでもかと施したドレスを翻し、隣国ガストロノミー王国の第一王女、シャルロッテが扇を突きつける。
その先には、口の周りを芋の粉で白くしたレオポルドと、両手に芋を持ったリリィが呆然と立っていた。
「しゃ、シャルロッテ王女……。お久しぶりですが、いきなり何を……」
「レオポルド殿下、貴方の落ちぶれ方には涙が出ますわ。我が国では今、一口食べるだけで三日三晩その余韻で踊り続けられるという『七色に輝く幻のフルコース』が完成しましたの。それに比べて、この茶色い物体(イモ)は何ですの?」
シャルロッテは、リリィが持っていた乾燥芋を汚物でも見るかのように指差した。
「な、なんですってぇ! お芋様をバカにする人は、お星様枕の刑ですわよぉ!」
リリィが珍しく食ってかかるが、シャルロッテは鼻で笑った。
「あら、威勢だけはいいですわね。いいでしょう、この国の貧しい舌を、我が国の至高の美食で調教してあげますわ。明日、王都の広場で『美食対決』を開催します! 我が国のフルコースに勝てる料理がこの国にあるなら、見せてごらんなさい!」
この宣戦布告は、当然のごとくカイルの屋敷で「午後の二度寝」を満喫しようとしていたミュークオの元へ届けられた。
「……アンナ。そのシャルロッテという方は、私の『有給休暇』のスケジュール表を読めないのかしら。明日の午後は『全力で何もしない』という重要な予定が入っているのですけれど」
ミュークオはベッドの中で芋虫のように丸まり、不機嫌を全身で表現していた。
「ですがミュークオ様。もしこの対決に負ければ、我が国の市場はガストロノミー王国の超高級食材に独占され、ミュークオ様が築いた『乾燥芋帝国』の売上が三割減少するという試算が出ております」
カイルが部屋の入り口で、冷酷な数字が書かれた書類を振ってみせた。
ミュークオは、バネが弾けたような勢いで起き上がった。
「……三割? 私の睡眠時間を支える不労所得が、三割も減るというのですか?」
「ええ。シャルロッテ王女は、徹底的な贅沢による精神的支配を目論んでいます」
「許せませんわ。私の眠りを妨げる者は、経済の鉄槌で粉砕するのみです」
ミュークオは、パジャマの上にガウンを羽織ると、即座に「作戦会議」という名の昼食を開始した。
翌日、王都広場。
シャルロッテ王女側は、十人の超一流シェフを動員し、銀の食器が並ぶ豪華なテーブルを用意していた。
そこから漂うのは、バターとスパイスの芳醇な香り。集まった市民たちは、その香りを嗅ぐだけで夢心地になっていた。
「おーほっほっほ! さあ、ミュークオ・ド・ベルシュカ! 貴女は何を用意しましたの? まさか、またその汚い芋を皿に乗せるだけかしら?」
対するミュークオは、たった一人で、小さな木箱を一つ持っているだけだった。
「王女。貴女の料理は、完成までにどれほどの時間を要しますの?」
「当然、五時間はかかりますわ! 時間をかければかけるほど、愛と贅沢が深まるのですから!」
「非効率ですわね。……皆さん、聞いてください!」
ミュークオは広場の市民たちに向かって声を張り上げた。
「今、皆さんはお腹が空いて死にそうですわね? 豪華なフルコースが運ばれてくるまで、あと五時間。その間、貴方たちの貴重な人生の五時間を、ただ『待つ』という苦痛に費やすのですか?」
「えっ……た、確かに。五時間は長いな……」
市民たちの間に動揺が走る。ミュークオは追い打ちをかけるように、木箱を開けた。
「私が提案するのは、究極の『時短・幸福・高血糖』。名付けて――『ベルシュカ流・三秒で幸せになるお芋バター・ブリュレ』ですわ!」
ミュークオは、特製の乾燥芋に、カイルの屋敷から持ち出した超濃厚なバターを乗せ、手元の小型魔導具で一瞬にして表面をキャラメリゼした。
「さあ、召し上がれ。待ち時間、三秒です」
広場に、焼きたての香ばしい甘い香りが爆発的に広がった。
市民たちが次々とそれを口にする。
「う、うまい……! 噛んだ瞬間に甘みが脳に突き刺さる!」
「待たなくていい! しかも、この満足感! 五時間のフルコースより、今すぐこの一枚だ!」
「な、なんですって!? たかが芋にバターを塗っただけで、私の七色のコースが負けるというの!?」
シャルロッテが叫ぶが、ミュークオは冷徹に言い放った。
「王女。現代の社会人は忙しいのです。五時間の食事は、それはもはや娯楽ではなく『苦行』。人は『今すぐ幸せになりたい』という欲求に抗えません。貴女の料理は、タイムパフォーマンス(時間対効果)が悪すぎますわ」
「たいむぱふぉーまんす……!?」
「ええ。五時間かけて得る満足度と、三秒で得る満足度。その差をコスト換算すれば、私の勝利は明白。……さあ、負けを認めて、我が国の芋輸出関税を撤廃する契約書にサインをいただけますか?」
シャルロッテは、市民たちが芋を求めて殺到する光景を前に、ガタガタと震えながら崩れ落ちた。
「負けたわ……。私の愛と贅沢が……ただの『時短おやつ』に……!」
「お疲れ様でした。アンナ、王女に『効率的な食事制限』という私の著書を差し上げて」
ミュークオは満足げに、カイルが差し出した手を握った。
「ミュークオ。君はまた、一つ恐ろしい市場を開拓したね。……『糖分による脳の制圧』か」
「あら。私はただ、みんなを早くお腹いっぱいにして、一緒にお昼寝がしたかっただけですわよ」
カイルの屋敷へ帰る馬車の中で、ミュークオは彼の手を枕代わりにし、幸せな眠りについた。
彼女の休暇資金は、今日も順調に積み上がっていくのであった。
王宮の迎賓館に、雷鳴のような高笑いが響き渡った。
豪華な金糸の刺繍をこれでもかと施したドレスを翻し、隣国ガストロノミー王国の第一王女、シャルロッテが扇を突きつける。
その先には、口の周りを芋の粉で白くしたレオポルドと、両手に芋を持ったリリィが呆然と立っていた。
「しゃ、シャルロッテ王女……。お久しぶりですが、いきなり何を……」
「レオポルド殿下、貴方の落ちぶれ方には涙が出ますわ。我が国では今、一口食べるだけで三日三晩その余韻で踊り続けられるという『七色に輝く幻のフルコース』が完成しましたの。それに比べて、この茶色い物体(イモ)は何ですの?」
シャルロッテは、リリィが持っていた乾燥芋を汚物でも見るかのように指差した。
「な、なんですってぇ! お芋様をバカにする人は、お星様枕の刑ですわよぉ!」
リリィが珍しく食ってかかるが、シャルロッテは鼻で笑った。
「あら、威勢だけはいいですわね。いいでしょう、この国の貧しい舌を、我が国の至高の美食で調教してあげますわ。明日、王都の広場で『美食対決』を開催します! 我が国のフルコースに勝てる料理がこの国にあるなら、見せてごらんなさい!」
この宣戦布告は、当然のごとくカイルの屋敷で「午後の二度寝」を満喫しようとしていたミュークオの元へ届けられた。
「……アンナ。そのシャルロッテという方は、私の『有給休暇』のスケジュール表を読めないのかしら。明日の午後は『全力で何もしない』という重要な予定が入っているのですけれど」
ミュークオはベッドの中で芋虫のように丸まり、不機嫌を全身で表現していた。
「ですがミュークオ様。もしこの対決に負ければ、我が国の市場はガストロノミー王国の超高級食材に独占され、ミュークオ様が築いた『乾燥芋帝国』の売上が三割減少するという試算が出ております」
カイルが部屋の入り口で、冷酷な数字が書かれた書類を振ってみせた。
ミュークオは、バネが弾けたような勢いで起き上がった。
「……三割? 私の睡眠時間を支える不労所得が、三割も減るというのですか?」
「ええ。シャルロッテ王女は、徹底的な贅沢による精神的支配を目論んでいます」
「許せませんわ。私の眠りを妨げる者は、経済の鉄槌で粉砕するのみです」
ミュークオは、パジャマの上にガウンを羽織ると、即座に「作戦会議」という名の昼食を開始した。
翌日、王都広場。
シャルロッテ王女側は、十人の超一流シェフを動員し、銀の食器が並ぶ豪華なテーブルを用意していた。
そこから漂うのは、バターとスパイスの芳醇な香り。集まった市民たちは、その香りを嗅ぐだけで夢心地になっていた。
「おーほっほっほ! さあ、ミュークオ・ド・ベルシュカ! 貴女は何を用意しましたの? まさか、またその汚い芋を皿に乗せるだけかしら?」
対するミュークオは、たった一人で、小さな木箱を一つ持っているだけだった。
「王女。貴女の料理は、完成までにどれほどの時間を要しますの?」
「当然、五時間はかかりますわ! 時間をかければかけるほど、愛と贅沢が深まるのですから!」
「非効率ですわね。……皆さん、聞いてください!」
ミュークオは広場の市民たちに向かって声を張り上げた。
「今、皆さんはお腹が空いて死にそうですわね? 豪華なフルコースが運ばれてくるまで、あと五時間。その間、貴方たちの貴重な人生の五時間を、ただ『待つ』という苦痛に費やすのですか?」
「えっ……た、確かに。五時間は長いな……」
市民たちの間に動揺が走る。ミュークオは追い打ちをかけるように、木箱を開けた。
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ミュークオは、特製の乾燥芋に、カイルの屋敷から持ち出した超濃厚なバターを乗せ、手元の小型魔導具で一瞬にして表面をキャラメリゼした。
「さあ、召し上がれ。待ち時間、三秒です」
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「う、うまい……! 噛んだ瞬間に甘みが脳に突き刺さる!」
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「たいむぱふぉーまんす……!?」
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「ミュークオ。君はまた、一つ恐ろしい市場を開拓したね。……『糖分による脳の制圧』か」
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