婚約破棄と自由なセカンドライフを望みます。

恋の箱庭

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「ミュークオ! 頼む、この通りだ! 俺とリリィの結婚式を……君のその圧倒的な効率性で、プロデュースしてくれないか!」


カイルの屋敷の応接室。レオポルドが、今や彼の正装となった「芋の粉が少しついたシャツ」のまま、深々と頭を下げていた。
隣ではリリィが、ボロボロになったカーテンの裾をいじりながら、上目遣いでミュークオを見ている。


「……閣下。私の貴重な読書時間が、またしても『生産性のないお願い』によって削り取られようとしていますわ」


ミュークオは、新作の「形状記憶型・快眠枕」の弾力を確かめながら、冷淡に言い放った。


「ミュークオ様ぁ、そんなことおっしゃらずにぃ! 私、殿下と一生一緒にいたいんですのぉ! でも、お金も時間もないし、招待客もみんな『泥投げの続きをさせろ』って言ってくるんですわぁ!」


「……リリィ様。それは招待客ではなく、ただの債権者ではありませんこと?」


ミュークオは溜息をつき、手元の計算機(レジスター)をパチパチと叩いた。


「いいでしょう。かつての婚約者への『退職金代わり』のサービスとして、世界でもっとも効率的な結婚式を立案して差し上げます。……ただし、私の睡眠時間を守るため、挙式時間は最大で十五分、予算は現在の芋の売上の範囲内で行いますわよ」


「じゅ、十五分!? ミュークオ、結婚式というのは愛を誓い、未来を語り……」


「殿下。愛を語る時間に金貨は発生しませんが、会場の使用料は一秒ごとに発生しているのです。……アンナ、契約書を」


数日後。王都の広場には、かつてないほど「合理的」な祭壇が設置された。


「えー、これより、レオポルド・ド・アルカディアとリリィ・ノアの挙式を執り行います。……時間の無駄ですので、新郎新婦の入場は三倍速でお願いしますわ」


ミュークオが扇を振ると、レオポルドとリリィは「レオポルド・ビート」の超高速リズムに合わせて、全力疾走でバージンロードを駆け抜けた。


「……はい、到着ですわね。では、愛の誓いです。殿下、この女性を一生養い、芋の配給を欠かさないと誓いますか? 返事は『はい』の一文字で結構です」


「は、はい!」


「リリィ様、殿下の無能さを許容し、効率的な家計運営に協力することを誓いますか? こちらも『はい』で」


「はーいですわぁ!」


「契約成立ですわ。はい、サイン。これで婚姻届の受理も完了。……アンナ、次の工程へ」


市民たちが「もう終わりか!?」と驚く間もなく、ミュークオは次の指示を出した。


「披露宴を始めます。食事は立食形式……というか、移動しながら食べてください。メニューは『一口で満腹になる高カロリー乾燥芋・ウエディング仕様』のみ。引き出物は、入り口に置いてある私の店のクーポン券です」


「ミュークオ様ぁ、ケーキカットはないんですのぉ!?」


リリィが叫ぶが、ミュークオは冷徹に時計を見た。


「ケーキを切り分ける時間は非効率です。よって、巨大な芋のタワーを用意しました。各自、通りすがりに素手でもぎ取って食べてくださいな。……はい、おめでとうございます。解散!」


開始からわずか十二分。
レオポルドとリリィの結婚式は、誰にも「飽きる時間」を与えず、かつ「誰の胃袋もとりあえず満たす」という形で完結した。


「……ミュークオ。君は本当に、冠婚葬祭すら『タスク消化』に変えてしまうのだね」


カイルが、あまりの速さに呆気にとられている市民たちを見ながら、ミュークオの肩を抱いた。


「あら。式を長くしたところで、彼らの夫婦仲が良くなるわけではありませんもの。それよりも、余った時間で皆さんが働き、夜にしっかり眠ることの方が、国家にとっては有益ですわ」


ミュークオは、空いた時間で早速「結婚式における時間短縮の経済効果」という論文の構想を練り始めた。


「……お疲れ様。さあ、彼らの騒がしいパーティーはリリィ嬢に任せて、私たちは『私たちのための非効率な時間』を過ごしに行こうか」


カイルが彼女の手を引き、静かなテラスへと誘う。


「……閣下。私、非効率なことは嫌いですのよ?」


「知っているよ。だからこそ、私と二人で『ただ無意味に月を眺める』という、最高の贅沢を楽しんでほしいんだ」


ミュークオは、少しだけ頬を染め、カイルの胸に頭を預けた。
効率主義の令嬢が作り上げた、爆速の結婚式。
それは、かつての恋を完全に過去へと追いやり、彼女自身の「愛という名の非合理」な未来を照らし出していた。
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