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第11話 夢か現実か妄想か

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 はぁはぁ……ここなら戦っても木が邪魔になることはないだろう。

 少しひらけた場所に出た俺達はサーシャをゆっくり寝かし、木人が追ってきてないか周囲に気を配る。
 
 「サーシャはどうだ?」

 「大丈夫、少し気を失ってるだけみたい。じきに目を覚ますわ」

 「なら良かった。あいつはお前達を狙ってたけど思い当たる節はあるのか?」

 「わからない。私達はあなたと会う少し前に着いたばかりだし、あんな木の知り合いなんていないわ」

 「どこか知らないところで恨みでもかってるんじゃないか? あいつ殺す気で攻撃してたぞ」

 リネットはこっちを睨みつけながら「おいでノルデ!」と誰かを呼ぶ。

 するとリネットの腕に装着されたブレスレットが光輝き、先ほどの青い鳥が出現して肩に止まる。

 「ひどいじゃないですかリネット様! いきなり押し戻すなんて!」

 「余計なことばかり言うからよ。そんなことより状況は分かってるんでしょうね」

 あのブレスレットの中に鳥が収められてることに驚くが、今はそれどころではない。
 
 そろそろ追いついて来る頃だ。

 来た! 

 今度は不意討ちをしてこず、森の影から異形の姿がヌゥっと姿を現す。

 話しは通じるのかな? 

 目潰しが効いたところをみると口もきける可能性があるけど。

 試しに話しかけてみるか。

 「お前、こいつらに恨みでもあるのか? 確かに性格は悪いが殺すのはやりすぎたぞ」

 そう言ってみるも返答はない。

 やっぱり駄目か……。
 
 「ふふっ、さっきの不意討ちはなかなか良かったわ。でも逃げられると思わないでね」

 喋った!? 話し合いに持ち込めるか?

 「それから坊やも邪魔だからついでに殺してあげる」 
 
 木人は触手を伸ばし、今にも攻撃してきそうだ。

 そりゃあ見た目からして話しが通じる相手とは思えないけど、少し期待したじゃないか。

 俺は剣を抜き両手に持って構える。

 その瞬間また夢の中の戦ってる姿がフラッシュバックする。

 こんな時にまたか。

 いや、そうだ! 確か……剣は片手で持って、もっとこう前傾姿勢で相手の懐に飛び込む感じでやってたな。

 。自分でも何故かわからないが、そういう風に戦ってた記憶がある。

 ついにこじらせすぎて夢と現実の区別もつかなくなったなったのか?
 
 しかし、戦うことなんて初めてだから妄想だろうが何だろうが、今はそれを信じるしかない。

 先に動いたのは木人だった。

 こっちに伸ばしてきた触手の先端が尖り、俺の身体を貫こうとする。

 これなら、と相手の触手を受け流しながら距離を縮める。

 違うな……もっと攻撃を受け流しながらだ。次はもう片方の触手で近づけさせないようにしてくるはず。

 予想通りもう片方の触手が横に弾く攻撃を仕掛けてくる。

 予想は出来てたが、思考に身体が追いついていかず弾き飛ばされる。

 ぐっ、さすがに中には入れさせてくれないか。

 だけど、初めての戦闘で身体の反応が悪いかもしれないが、これならどうにかなるかもしれない。
 
 「どいて!」

 後ろで声が響き、俺はとっさに身体をひるがえす。
 
 リネットが俺の後ろから木人に向けて羽根を飛ばし、それと同時に走り出す。

 先に到着した数本の羽根は木人の右半身に見事命中するも、木人は微動だにしない。

 「エクスプロージョン!」

 そう叫ぶと、刺さった羽根が爆発して木人の半身が吹き飛ぶ。

 攻撃を受けた木人は動きが止まる。

 リネットはそのまま走りながらノルデを呼ぶ。

 「青き双翼を持つ我が半身よ! その青き羽根を刃となしその力を示せ!」

 リネットのブレスレットが光輝くと、ノルデが徐々に二つの短剣へと変貌していきリネット手の中に納まる。

 リネットは羽を想わせるメタリックブルーの短剣を握りしめて跳躍する。

 高く跳んだリネットは木人の頭付近に短剣を突き立てる。

 やったか? 

 木人は短剣が刺さったまま不気味な笑みを浮かべる。

 「今のも良い攻撃だったわ。けど、私を倒すまではいかないわね」
 
 木人は触手でリネットを振りほどき、倒れたところに追い討ちをかける。

 すかさず俺はリネットの元に駆けつけ、触手を切断して攻撃を阻止する。

 しかし、切ったさきから再生を始めて攻撃をしてくるのできりがない。

 このままだとじり貧だな……。

 こっちの体力もそう続かないし、どうやったら倒せるんだ。

 「中心に核があるはずよ! 多分それ生物じゃなくて誰かに造られたか、木に命を吹き込んで操ってるの!」

 気を失っていたサーシャが意識を取り戻して、大声で俺達に伝える。

 それを聞いたリネットが俺の脇をすり抜け「フォローお願い」とだけ告げて、木人に向かっていく。

 俺もすぐさま後を追い、リネットを狙ってくる触手を受け流しながら一緒に木人本体を狙う。

 弱点がバレてるからか、徐々に距離が縮まってくると後ろに下がりながら攻撃してくる。
 
 「やらせるかぁ!」

 木人はそう叫んで触手を枝分かれさせる。
 
 枝分かれした触手が伸びてきて俺達に絡み付いてこようとするが、それをなんなく避ける。
 
 「動きが雑になってきてるぜ木人さんよ」

 俺は低姿勢で木人の懐に潜り込み、触手の根元を切り落とす。

 「絶対許さないんだから! ラファル」
 
 リネットの足元から風が巻き起こり一気に加速し、襲いかかってくる枝を掻い潜りながら懐に入る。

 そして核があると思われる中心に短剣を突き刺す。
 
 木人は「ふぐぅ」っと呻いた後、動きが止まり、刺した部分から黒い煙が吹き出し始める。

 「くっ、まあいいわ。あなた達の実力は分かっただけても十分よ」

 「うるさいわね!」

 リネットは怒りに満ちた顔で同じ部分をもう一度刺す。

 怒りが収まらないのか、フンッと鼻息を荒くして更に止めの一撃を加える。
 
 ……あまり怒らせないようにしよう。

 「あんた私達を知ってるの? なんで命を狙うわけ?」

 「ふふっ、次はちゃんと殺してあげるわ」

 木人がそう言い終えると、木から顔が消えて黒い煙が収まっていく。

 そして最後に傷が付いただけの普通の木が、大きな音を立てて地面に倒木する。

 すると、先ほどまで暗かった周囲に光が差し込んできて辺りが明るくなる。

 なるほど。あいつ仕業だったのか。

 俺がその場に座り込むとリネットも同じようにお尻を地面につける。

 「ふぅ、なんとか終わったみたいだな」

 「そうみたいね。助かったわ、ありがとう」

 リネットが素直に感謝の言葉を述べ、サーシャの方にも声をかける。

 「姉さんもありがとう。弱点を教えてくれなかったらあいつを退けられなかったわ」

 「何者なのかしらね。あのタイプの術者がこの世界にいるってことかしら」

 「わからないけど、イストウィアから私達の邪魔をしに来るとも思えないし……」

 二人して何かを考え始める。

 「とりあえず早いとこ森から出ないか? また襲ってくるかもしれないし、俺もやりかけの仕事があるんだ」

 その提案に二人とも納得する。

 俺達はさっきまで探していた林道を見つけ、森を抜けて町へと向かう。
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