上 下
38 / 180

第38話 ジュラールの目的

しおりを挟む
 俺はその場を立ち去ろうとするガレインさんを必死に呼び止める。

 「ちょっと待ってください! 確かに俺は勇者候補で召喚されましたけど、勇者にはなれなかったんです。それにジュラールって人を倒すのが目的ではないんです」

 「どういうことだ? お前が勇者じゃなければジュラールを探す理由はないはずだ。いずれにせよ、これは俺達エルソールの問題でお前には関係ないことだろう」

 「その……。本当はジュラールを探してるのに、それを言わないで何か手掛かりを掴もうとするのは卑怯だと思って。それに俺にも関係があることなんで、話だけでも聞いてもらえませんか?」

 「勇者じゃないのにジュラールを探してるわ、異世界の人間なのに自分と関係があるとか言いだすわ、いよいよもってわけのわからんやつだなお前は」

 ガレインは「うーん」と少し迷いながらも、アナスタシアと一緒に付いてこいと言いどこかへ歩きだす。

 付いていくとニフソウイのものだと思われる国旗が飾ってある部屋へと入っていく。

 「ここは騎士団長である俺の部屋だ。二人とも適当に座ってくれ。で? 聞いてほしい話ってのはなんだ?」

 「俺はなにかの手違いでサルブレム国に召喚されてしまったらしくて、元の世界に帰るまで間サルブレムの客人扱いになったんです。それでちょっとした出来事があってジュラールのことを知りました。そして、このままだと勇者達では彼を止められないし、盗まれた強力なギフトが使用されれば俺達の世界にも被害が出ることが分かったんです」

 「その出来事ってのはなんだ? それに、どうしてギフトが使用されればお前達の世界に被害を及ぼすってことが分かるんだ? まあ、勇者ごときじゃあいつを止められんのは自明だがな」

 「……すいません。それは俺だけの判断では言えないんですけど、そのギフトの使用を止めるためにジュラールを探していたんです。勝手が良いことを言ってるのは分かってます。でも、剣を合わせてみてガレインさんは信用出来る人だと感じたんで、変に探るよりも正直に聞いた方がいいだろうと思いました」

 「へっ、生意気いいやがる。つまり肝心なことは教えないが、俺には知ってることがあれば教えろってことか。だが、仮にジュラールがギフトを使おうとしてたらどうする? やつを止めるにはそれなりの戦力が必要だぞ?」

 「話し合いで解決出来れば一番ですけど、無理そうなら別の方法で阻止しようと思ってます。ガレインさんの話を聞いた後だと戦闘は避けたいところですね……」

 「ふーむ。どうしたもんか……。アナスタシア様はどう思いますか? こいつが信用するに値する人間かどうかは、短いながらも一緒に居たあなたの方が分かるでしょう」

 神妙な面持ちで話を聞いていたアナスタシアは、ガレインさんにそう問われると俺の目を見つめながら質問してくる。

 「少しショックではありましたけど、私がジュラールを探してるというのは知らずに助けてくれたんですよね?」 

 「もちろんだ。あの状況ならとりあえず助けるし、アナがお姫様だってことすら知らないから本当にたまたまだよ」

 「私の話を聞いて彼に会いたいとおっしゃってくれたときは嬉しかったですが、それは彼を探していたからなんですか?」

 「いや、あんなに熱心に語るものだから気になってさ。ギフトを盗んだ人間ということくらいしか知らなかったから、話を聞いてみてどんな人なのか会ってみたくなったんだ」

 アナスタシアは下を向いて少し考え込んだ後、ガレインの方を真っ直ぐに見つめながらはっきりとした口調で答えを決める。

 「ガレイン。私は彼を信じてみようと思います!」

 ガレインはその返答に少し嬉しそうな表情を浮かべ軽く頷く。

 「そんなに簡単に信用していいんですか? もしかしたらあなたの大切なジュラールがこいつにやられるかもしれないですよ?」

 「もう! こんなときに茶化さないで。一緒にいたのは一日くらいでしたけど、ソウタ様は私の身を案じてくれました。私達を騙すような人ではないと思います。それにどことなくジュラールに似てる気がしますから」

 「はっはっは! また怒らせてしまいましたな。なら私はそんな姫様を信じるとしましょう。しばらくここで話をしますから、姫様は一度父上に顔を見せに行ってください」

 「そうでしたわね。ではソウタ様後ほど」

 「信じてくれてありがとうアナ!」
 
 アナスタシアは微笑みながら一礼して部屋から出ていく。

 「さて……。とは言っても俺達も依然として捜索中だから、やつの居場所までは分からんのだ。だが一つヒントをくれてやるとすれば次に現れそうな場所がグラヴェールだということだ」

 「この間グラヴェールにあるアステルダムって町に行ったんですが、そこで勇者達がジュラールの仲間にコテンパンにやられるのを見ましたよ」

 「やつの宣戦布告といったところだろうな。実際のところやつが何を考え何を成そうとしてるか分からんが、俺の予想だとそこで再びギフトを強奪するか或いは……」

 「でもジュラール本人はいなかったですし、誰かに罪を擦り付けられてるとかないんですか?」

 「それはないだろう。盗まれたギフトはムングスルドって国のものだが、やつが現れた時に色んな人間がその姿を見てるからな」
  
 やはりあいつらはジュラールの仲間ってことで間違いないのか。いや、って言ってたから、ジュラールがあいつ達に指示をしていたと考える方が自然だろうな。

 「俺はまだこの世界ことそんなに詳しくないんですけど、そもそもどうしてギフトを盗んだりしたんでしょうか?」

 「この世界はな、SSランクのギフトを所持する四大国、サルブレム、グラヴェール、ムングスルド、そしてアルパルタが事実上この世界を支配してると言ってもいい。理由は簡単だ。もし戦争にでもなったら勝てないし、ギフト云々以前にそもそも国力が他の国に比べて桁違いだからな。とはいえ、少し前までは小さな争いは多々あるがそれなりに平和だったんだ」

 「何となくわかります。俺の世界も似たようなものですから。結局のところ軍事力とか経済力がある国の方が強いってことですか」

 「嫌な話だがそういうことだ。ところが最近ムングスルドの王子が国の技術開発責任者になったんだが、どうにもグラヴェールと裏でなにかやってるらしいんだ。と言ってもどの国だってやましいことの一つや二つやってるんだろうがな」

 「その事とジュラールがギフトを盗んだことが何か関係してるってことですね」

 「……どこから話すかな」

 そう言って椅子から立ち上がり、何かを思いだすかのように国旗を見ながら話始める。
しおりを挟む

処理中です...