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第153話 出陣じゃ!

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 そして迎えた出陣式当日。

 遂にこの日が来たといわんばかりに、多くの兵士達が城の城門前にある広場に集まっていた。

 「スゴい人数だな。二万人以上はいるんじゃないか?」

 隣にいるリネットに聞いてみる。

 「これでも全然少ないって言ってたから、実際にはもっと多いはずよ。それよりもちゃんと話を聞いてなさいよね」

 俺達は広場に設けられた大きな壇上に上っていて、そこから美しく整列された兵士達を見下ろしていた。

 壇上には各国の偉い人やエクシエルさん達
、それにディアナ達も並んでいて、いよいよ出陣式が始まるようだ。

 まず進行役のウラガン団長が挨拶をした後に今回の主旨を説明にする。

 「みんなで一緒に頑張ろうね」といった内容の話を二十分くらい掛けて話す。

 「……ということで、共に本当の敵を討ち取りましょう! では続いて、それぞれの代表者から挨拶をお願いします!」
 
 ウラガン団長が一人ずつ中央に呼び、各々今回の戦いに対する意気込みを語る。

 一人一人の挨拶が小一時間程続き、最後のエクシエルさんが話を終えて列に帰ってくる。
 
 ふう……ようやく終わったか……。口には出せないけど、一人一人の話が長すぎだよ。
 
 「えー、それでは最後に、今回作戦の指揮を取ってくれるソウタ殿のご挨拶となります。ソウタ殿前へ!」

 「へっ? 俺ですか?」

 エクシエルさんで最後だとばかり思っていたので、突然呼ばれて焦ってしまう。

「もしかして……何も考えてなかったの?」 

 隣で立っているリネットからそう言われ素直に頷く。
 
 「と、とにかく前に出て何か言った方がいいわ。何も考えてないと思われないように堂々とね!」
 
 俺はリネット言う通り、胸を張って中央にある拡声器付きスタンドの前に立つ。

 緊張と混乱でどうしたら良いか分からず、とりあえずよくある挨拶をしてみる。

 「ほほ、本日は、お、お日柄も良く、お、お足元がお悪い中お集まり頂き、誠にありがとうございました!」

 「ちょっとソウタ! 何訳の分からないこと言ってるのよ!」

 後ろからリネットの怒号が飛んできて周囲に失笑が漏れる。
 
 「みんなが見てる前でそんなに怒鳴るなよ! 恥ずかしいだろ!」

 「恥ずかしいのはその変な挨拶よ! 気のきいた言葉なんていらないから、思ったことを口にすればいいの! 頑張って!」

 「分かってるって!」

 リネットからの励ましにより、肩の力が抜けていることに気付く。

 そうだな。思ったことを話すのが一番だよな。

 「えー……どうも今紹介されたソウタです。伝えたいことは他の皆さん言ってくれたので、手短に話したいと思います」

 俺に注目が集まる中、コホンと咳払い一つして話を続ける。

 「これから戦う皆さんにはそれぞれ色々な気持ちがあると思います。ですが、これは相手に報復をするために戦うわけではありません。この戦いの目的は人々の解放とここで憎しみの心を洗い流すことです」

 ここまで言ったところで少々上手くまとまりすぎてると思い、自分の言葉も足すことにする。

 「……とは言っても、そんな綺麗事では片付けられないって人もいると思うので、そんな人は今までの怒りを相手にぶつけちゃって下さい! 結局何が言いたいかって言うと、全てを吐き出してスッキリしましょうってことです! ではこれで終わりたいと思います」

 俺は一礼してリネットの隣に戻る。

 「うむ! つまり後悔のないよう戦ってくれということですね! ありがとうございましたソウタ殿!」
 
 ウラガン団長が俺の言葉に軽く補足をしてくれて、出陣式の終わりを告げる。

 音楽隊が鳴らすマーチと共に広場にいた兵士達がそれぞれの場所へと散っていく。

 俺達も壇上から降りて端から見ていたアリエルのところに行く。

 「待たせたなアリエル」

 「気にするな。しかし、随分と緊張していたようだな」

 「あんなの慣れてないからな。でもリネットのおかげで緊張がほぐれたよ」
 
 「まさか何も考えてないとは思わなかったわ」

 「俺は挨拶はしないでいいと思ってたからな。まあ、するのを分かってたところでそんなに変わらなかっただろうけど」

 「最後のは中々良かったんじゃない?」

 「後腐れなく終わって欲しいからな。じゃないといつまで経っても負の連鎖が広がるだけだ」

 プリムが馬車を手配してくれてるはずなのでその足で城の城門前に行く。

 城門前にはフィオやプリム達がいて俺達を見送ってくれる。

 「待機していた馬車を呼んだからそろそろ着くはずよ。私とキニングはちょっと遅くなるけど先に行って待ってて」

 プリムが馬車が来る方を見ながら言う。

 「これだけの人数もいるし、先に片付けておくよ」

 「アルパルタの軍にも伝えに行ってるからすぐに合流するはずよ」

 「フレールさんのところも他の国に要請してるって言ってたから期待できるな」

 「他にもいくつかの国から返答があって、協力してくれるって。あっ、来たみたいよ」
 
 先程プリムが見ていた方向から二頭の馬が走ってくる。

 「ほほお! 馬が二頭なんて豪華な馬車だなあ!」
 
 「ムングスルドまでは遠いからね。中も広いから少しゆったり出来るわ」

 「それはありがたいな! じゃあ、少し寂しいだろうけどここで待っててくれよなフィオ」

 「ううん! ウィスちゃんもいるし、アナちゃんもしばらくいるって言うから寂しくないよ!」

 「二人共しばらくの間フィオをよろしく頼むな」

 一緒に見送りに来てくれていたウィステリアとアナにお願いをする。

 「はい、皆様が行ってる間は私の部屋にいてもらいますので心配は無用です」

 「お世話になるのは私の方ですわ。フィオさん達と一緒に皆さん帰りを待ってます」

 みんなもフィオ達と軽く話して馬車に乗り込む。

 「みんな頑張ってね! 私も後で行くかもよ!」

 フィオはポムリンの手だか羽をフリフリと振って俺達送ってくれる。

 「さあて、またしばらくサルブレムとはお別れだな」

 「次に帰ってくるときは全部終わらせてからね。そうそう、皆に渡すものがあったのよ」

 リネットは自分の荷物の中から五個のお守りを出してみんなに手渡す。

 「ありがとう……でもどうしたんだこれ?」

 「この間ラスネルさんと町に行ったとき買ったのよ。必勝祈願のお守りだって」

 「あのとき買ってきてくれたのか。そういえばグラヴェールにあるやつも早く取りに行かないとな」

 「そうなのよ。あそこに大事な荷物を置いてるから早く行かないと家が無くなっちゃうわ」

 「ムングスルドが片付いたら行ってみよう」

 そして、出発してから一週間程馬車を走らせ、ムングスルドの隣国であるモンバルサス国のガーシュという町に着く。
 
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