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最終話 始まりの終わり

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 「はぁ、なんとか間に合ったな。それにしてもプリムは他の世界にも送れるんだな?」

 「世界観と座標さえ分かれば呼ぶことも送れることも出来るわ」

 プリムは持っていた黄金の杖を部屋の隅に置いて俺達の方に向き直る。

 「なら俺達が向こうに行くときはプリムにお願いするかな」

 「この後マグナ君達も送る予定だし、そこは任せておいて」

 「ああ頼む! じゃあ俺達はこれで一旦家に帰るな」

 「あっ、待って! ついでに用事があるから、ちょっとみんな付いてきてくれないかな?」

 俺達はそれに同意してプリムの後に付いていく。
  
 付いていった先は、何度か足を運んだこともあるロムル王と謁見する部屋だった。 
 
 プリムに促されて中に入ると、ロムル王とネルデルさん、それにフレールさんが俺達を待っていた。

 「おお、ソウタ君達! 帰ってきたか! 待っておったぞ」

 「今日帰って来たんですよ。何でも俺達に用事があるとか?」

 「そうじゃ。ネルデル王もフレール女王も国に戻らず、ずっとソウタ君達の帰りを待っておったんじゃ」

 「俺達の帰りを待っていたんですか!? なんだかすみません……」

 「ホッホッ。ずっとは言い過ぎじゃが、二人とも帰らず待っていたのは本当じゃぞ。それでな、来てもらったの褒美のことについてなんじゃ」   

 「褒美ですか?」

 「君達異世界人の活躍でこの世界の混乱が収まったわけじゃし、褒美を与えるの当然のことじゃ。して、何が良いかの? 何でも申してくれ」

 俺達は早速輪になって話を始める。
 
 「ど、どうする? 三国からの褒美だから大抵のものなら貰えるぞ!? やっぱり金がいいかな?」

 「そうねえ……お金は向こうの世界じゃ使えないから、宝石とか金の方がいいかもしれないわ」

 「私はプール付きの家が欲しいよ!」
  
 リネットとフィオがそれぞれ欲しいもの挙げていく中、マリィが呆れた様子で口を開く。

 「まったくお前達ときたら……。ソウタはともかくとして、私達は任務でこっちに来たんだ。褒美など受け取るわけないだろう」

 「マリィの言う通りよ。私達はご褒美を貰うためにこの世界に来たわけじゃないでしょ?」

 「わ、分かってるわよ……。でもせっかくなんだし……ちょっとは……ねえ?」

 「ダメです! 欲しいものがあるんだったら私に言いなさい! フィオも同じよ!」

 リネットとフィオは二人から半ば強引に諭される形となり、すっかり意気消沈する。

 「ホッホッ。ワシ等は礼と褒美のことを早く伝えたかっただけじゃから、そんなに慌てなくも大丈夫じゃよ」

 「では、今度またエルソールに来たときにでもお願いします。ネルデルさんとフレールさんもお待たせてしまってすみませんでした」

 「我がムングスルドを取り戻せたのは君達の力があったからこそだ。いつでもまた言ってくれ」

 「私なんて命を救って頂きましたからね。どうやってその恩をお返ししたらいいか分かりません」

 「いえ、全ては皆さんがお互いに協力したから出来たことです。俺達の力なんて微々たるものですよ」

 「これからまたどこかに行かれるんでしょう? 私もこの身じゃなければ皆さんに付いて行きたいくらいだわ」
 
 「はい、この世界が落ち着いた頃にでも戻ってくると思うので、その時は美味しいものでも食べさせてください」

 「ふふっ、では私達もちゃんと国を建て直して、皆さんの帰りを待っておかないといけませんね」

 こうしてロムル王達との話が終わり、帰りにウラガン団長達のところに顔を出して家に帰る。

 それから数日後にはマグナ達がイストウィアに帰ることになり、それを見届けに城へ向かう。
 
 ルルカが最後まで俺のことを凝視していたのが気になったが、マグナ達とまた会う約束をして六人を見送る。

 「マグナ達も帰ったか……。あまり重たい罪にならなければいいけどな」

 「向こうにはノーマ達もいるから大丈夫でしょ」

 「どうせすぐに会うことになるしな。じゃあ俺達も行くとするか」   

 俺達はエクシエルさんとイネス先生を誘って、プリムとアリエル行き付けのお店に向かう。
  
 プリムの案内でカフェのような雰囲気が漂う居酒屋に着き、アリエルとディアナ、それとキニングが待つ席に行く。

 「三人共待たせたな。ちょっと話をしてたら遅くなったよ」

 「なに、アリエル達と先に一杯やっておるから気にするな。とりあえずお前達もはよ座れ」
  
 「実は朝から何も食べてないから腹ペコなんだ。よーし! 今日は食うぞ!」

 俺達も席に着いてそれぞれ飲み物と料理を注文する。

 「それにしても、これでようやくエクシエルさんとイネス先生も帰れますね」

 「本当よね。こっちでの生活が長かったから向こうに帰ってから心配だわ」

 「そうですね……。俺も自分の世界に帰ったら、元の生活に慣れるまで時間が掛かりそうです」

 「ソウタ君はイストウィアでまた慣れない環境になるからそれも大変よね」

 「そういえばイストウィアに行くのは俺とアリエルだけなのか?」

 俺は届いた飲み物を口にしながらアリエルに聞いてみる。

 「ああ、三人にはこっちに残ってちょっとやってもらいたいことがある」

 「どっちにしろプリムとディアナはまだやることあるし、キニングにも無理はさせられないからな」

 「サーシャ達もいるから問題なかろう。なにより向こうにはフィオちゃんもいるからな!」

 「そうだ、アリエルには言ってなかったけど、フィオはこっちの世界に残るって」

 「なんだと……? そんな聞いてないぞ?」

 「うん、だから言ってなかったからな」

 「……ならば仕方ない、私もここに残るとするか。頑張れよロイ!」

 アリエルは清々しい顔をして俺の肩を叩く。

 「ダメに決まってんだろう! そもそもイストウィアに行くのは自分から言い出したことなんだからな」

 「フィオちゃんが残るなら私が面倒を見なければなるまい!」

 「キニングの家にしばらく居候するから心配するな。それにプリム達とディアナもいるんだから大丈夫だ」

 「私が知らぬ間にそこまで話が進んでいたのか……」 

 アリエルが羨ましそうにキニングを見る。 

 「うちの孫達と同じくらいの年じゃからな。ちょうどええじゃろ」

 「……じいさん」

 イネス先生が食べようとしていた揚げ浸しを皿の上に置いて、キニングの方に向き直る。

 「ん? なんじゃ婆さん?」

 「フィオは私にとって孫みたいもんなんだ。迷惑をかけるかもしれないけどよろしく頼むよ」

 「任せておけ! ついでに鍛えておいてやるわい」
 
 この後、届いた料理に舌鼓を打ちながら、みんなとエルソールの思い出話に花を咲かせる。

 そして、その数日後にいよいよリネット達が帰る日がやってくる。

 城の門前には沢山の人が見送りに来ていて、サルブレムの勇者達なんかは泣きながらイネス先生と話をしている。
 
 「では、皆さんお世話になりました! セレーナさんに通信機器を渡してあるので、何かありましたら言ってください」

 エクシエルさんはそう言って集まった人達全員にお辞儀をする。

 「いえ、エクシエル殿達にはこちらの方がお世話になりました。またいつでもお越しください」

 ウラガン団長はエクシエルさんと握手をして頭を下げる。

 「それでは、皆さん二人をよろしくお願いしますね」

 プリムがリネット達に会釈して俺達のことをお願いする。

 「ええ、二人が問題行動を起こしたらすぐにプリムさんに連絡するわ」

 「そのときは強制的にこっちに連れ戻しますね。それからフィオちゃんは、私とウィステリアが責任を持って預からせてもらうわ」

 「すみませんけどフィオのことをお願いします。フィオもいい子にしてるのよ」

 リネットはプリムとウィステリアに軽く頭を下げ、見送りに来ていたフィオの頭を撫でる。

 「うん! 分かったよ! みんなも私が帰るまで待っててね!」
  
 「当然じゃない! それじゃあ、そろそろ時間だから行くわ。またね!」

 リネットはフィオと集まった人達に手を振りながら、エクシエルさん達と木の中に入っていく。

 残った俺とアリエルもウラガン団長達と挨拶をすませて、初めて俺がこの世界に召喚されたときの部屋に行く。

 「んじゃ、ファクルやアークの人達にもよろしく言っておいてくれディアナ」

 「ファクル達もお前に会いたがっていたが、まだムングスルドで後処理をしているんだ。帰ってきたら伝えておくよ」

 「こんなに早く発つなんて思ってなかっただろうしな。ついでにアリエルのお店も頼んだぞ」

 「分かった。お前達も気を付けてな」

 「プリムもディアナも夜はあまり出歩くなよ? いくら強いとはいえ女一人歩きは危険だからな」  

 「分かった」

 「それとよく知らない人間に付いていくなよ? 何かと物騒な世の中だし、護身用の武器とかあった方がいいかもしれないぞ?」

 「……分かった」
  
 「あーっと、それからだな……」

 「もうええじゃろ! さっさとこの二人を送ってしまえプリム!」

 「そ、そうね! これじゃあいつまで経っても終わらないわ!」

 なぜかキニングが突然怒りだし、プリムもそれに強く同意して黄金の杖を俺達にかざす。

 すると魔方陣から光が放出し始め、その光が俺とアリエルの全身を包み込む。

 そして、アリエルの「フィオちゃん……」と言う言葉を最後に、俺達はその場から消え去る。
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