30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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ハグレ鞍馬

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 私は今日も三郎太先生の所へ行き、先生と瑞季に稽古をつけてもらっていた。


「お父さん、ちょっと待った! そろそろ休憩にしようよ~」

「全く瑞季は……。花凛様は弱音など吐かれてないというのに……」


 三郎太はそう言いつつも息を切らす瑞季を見て休憩を入れることにした。


「瑞季、私も少し休みたかったし助かったよ~」


 私達は色々話をしながら座ってお茶を飲む。


 今は魔法を使う実地訓練をしている。敵と相対する場合に如何にして素早く力を発動させるか、状況によってどの力を使うか、どのように攻撃するのが効果的かなどである。

 三郎太先生は、お茶をグイと飲み干し私をチラリと見て尋ねてきた。


「……花凛様は大学に進学してから約12年間一族の集まりなどには参加されなかった。今回『力』を得た事が大きな理由だとは思いますが、何故このような中途半端な時期に長期の休暇を取られたのですか?」

「あ、私もそれを知りたかったのよねー! 花凛て結構真面目だから、いつもなら周りに迷惑をかけるからって突然の長期休みなんて取ったりしないでしょ?」


 三郎太と瑞季に今回の帰郷についての質問をされた花凛。……少し気まずい思いをしながらも正直に答える事にした。 



「───という訳でね。私がちょーっとだけ良いなと思っていた男性と結婚した社長の身内の女性が、『自分のお陰で純潔が守れたんだから感謝するべきだ』って言って来て……。社長の身内と少し揉める形になっちゃったし、職場の人達の勧めもあって思い切ってお休みを取る事にしたの。ちょうど魔法の検証もしたかったしね」


 花凛がそこまで話すと瑞季は身を乗り出した。


「花凛。───ちょっと待って。その『社長の身内の女性』って、何者? どうして花凛の純潔を守れた感謝を求めて来たの? それってもしかして───」


「……まるで、我ら一族の秘密を知っているかのようですな」


 瑞季と三郎太の言葉に、花凛は頷いた。


「……そうなの。それにその後社長は私に『力を得たのか』とまで聞いてきたわ。
……私は『純潔云々』なんて個人的な情報をあんな場所で言われたから、絶対に何も話さない! って決めてすっとぼけて『セクハラだー』って言ってやったんだけど。
……で、社長とも揉めた形になったから、どちらにしても仕事ももう辞めなきゃいけないのかなーと思っているんだけど」


「そんなの、さっさと辞めてもうこっちに帰って来ちゃえばいいじゃない! 仕事だってあるわよ。この鞍馬の街は本家を中心とした企業でまわってる。あちこちに進出もしててやり甲斐もあるしお給料も良いわよ。だから鞍馬の人間は大学出てもこっちに帰って就職するのよね。
とにかく、今はリモートワークだってあるんだしなんでも出来るでしょ!」

「……しかし気になるのはその社長の一族ですな。……力の事を知り更にその力に固執しているのなら、おそらくは彼らはその昔に鞍馬一族から離れたという『ハグレ鞍馬』なのかもしれません。……しかし彼らが今どうして本流の鞍馬に関わろうとするのか」


 そう言って三郎太は考え込んだ。そこに怒りを落ち着ける為かお茶を飲みながら瑞季が言う。


「得体の知れない事件がたくさん起こって来たから、こちらと合流してとにかその『闇』をなんとかしたいんじゃないの?」


「…………彼らは本流の鞍馬が今もここに住む事を知っているはず。それならば何故直接こちらに来て協力を仰がないのか?」


 瑞季は今度はやけ食いのようにお菓子をポイポイ口に放り込みながら答えた。


「うーん、……『プライド』、ってヤツじゃない? 自分達でやっていくって出て行ったのにこちらの協力を仰がなきゃいけないなんてプライドが許さない! ……とか? だからちょうど会社にいた『鞍馬一族』の花凛から手懐けようとしたのかな?」

「『プライド』、のう……」


 三郎太先生は黙り込んでしまった。


 ……2人の話を聞いて、瑞季達から見てもやっぱりあの『西園寺咲良』さんや社長は本当に『力』の事を知っているという事なんだと確信する。
 そして三郎太先生達の言う通りなら彼らは『ハグレ鞍馬一族』という事になるのかな。


 だとしたら、私はこれから彼らと協力して『黒い霧』をなんとかしていかなきゃいけない?

 そしてあの『金の瞳の青年』も何者なんだろう?


「……三郎太先生。私、ハグレとはいえ一族かもしれないあの人たちと、これから協力していった方がいいんでしょうか」


 私は恐る恐ると言った様子で尋ねた。

 私はあの時社長や咲良さんに対して怒り『力』を持つ事を認めなかったけれど……。『闇』に対抗する為には協力していった方がいいのかもしれない。
 でもあの考え方の彼らと力を合わせていくのは私にはかなり難しい気がした。


「……いえ、まずは彼らの動向を我らが調べます。その上でご当主様にこの先の方針をご判断いただくのが良いかと思います」


 確かに自分はこの本流の鞍馬一族の人間。その一員として動くのなら当主の意向を仰ぐべきなのだ。


「……私、お休みは今週いっぱいなので会社を辞めるとしても来週には一度はあちらに戻らなければなりません。それまでに当主様の答えは出るでしょうか」


「それは難しいでしょうな。調べるだけでももう暫くはかかるでしょう」


 先生がそう言うと、瑞季は困ったように言った。


「……とりあえず知らぬ存ぜぬ、で通しておくしかないわよね」


 2人に言われて私はとりあえずはホッとした。当主である八千代様次第ではあるけれど、私としては彼らと共闘戦線を組む所が今は想像出来なかったから。


 『私の為に隼人を奪って純潔を守ってくれてありがとう、そのお陰で力を得たので協力します』なんて絶対に言えないし思えない。


 花凛は小さくため息を吐いた。



 ……その時、この家の使用人が現れ三郎太に耳打ちした。


「───三郎太様。今、南の奏多様がお見えになりました」



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