30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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奏多の暴走

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 三郎太と瑞季もその雰囲気を感じたらしい。2人がまとう空気が攻撃的になったので花凛はヒヤヒヤする。
 ……しかし奏多はそれを感じていないらしかった。


「……いや俺は、瑞季さんのそういう分け隔てをしない優しい性格を好ましく思ってるよ? だけど俺の妻となるのならある程度付き合う人間は考えた方がいい」


 あー、この人子供の頃からちっとも変わってない! 激しい主張をせず優しそうに見えて実は鞍馬の上下関係に凝り固まっていた。確かにこういうアレな発言をする人だったなー。

 花凛がそう思い出していると、瑞季は我慢ならないといった風に言い放つ。


「───は? それならそれは私に関係ないわね。アンタなんかの妻になる予定なんかないんだから」

「まったくじゃ。それになんじゃ、その失礼な態度は!! 南は今の当主になってから全く品というものが無い」


 三郎太も苛ついていたらしい。それに、もしかして南家の当主と仲が悪いのだろうか?


「……な! 南の当主である父の事まで……、それは失礼が過ぎるでしょう! たかだか末席の力もない娘のことで──」


「花凛は私のとても大切な幼馴染よ? 貴方とは重みが違うわ。花凛をそんな風に言う奴なんて許さない!」


「仮にも『次代の南の当主』が例え末端であったとしても一族の者を馬鹿にするなどあってはならぬこと。南の当主勝治殿にも本家当主様にも報告させてもらう。
……勝治からきちんとした謝罪があるまではワシらは南との付き合いもやめさせてもらう」


 瑞季と三郎太の完全なる拒絶に、流石の奏多も慌てたようだった。


「ちょっ……、ちょっと待ってください、先生! 父や本家まで持ち出すなんて大袈裟でしょう? 
僕は南の正式な次期当主で、本家の当主にもなれる力の持ち主なんですよ? ……そんな馬鹿げた事を言うのなら僕にも考えがありますよ」


 最後強気になった奏多は脅しの為かその手に力を纏わせた。


 ……まさか、こちらに『力』を使う気? 例え脅しでも一族を相手に流石に許される事じゃないでしょう!?


 花凛も思わず警戒態勢になったが、その前にさりげなく三郎太と瑞季が立つ。


「───ほう。我ら相手に力をな。コレは完全に八千代様への報告案件じゃな」

「そんなもの、俺の力で黙らせれば問題ない!」


 初めは本気で力を使う気が無かったのかもしれないが、2人の対応を見て思わずといったふうにそう叫んだ奏多はこちらに向かって炎を繰り出した。……が。


 その攻撃は瑞季の『力』によって簡単に跳ね返され、三郎太の『力』によって奏多はあっけなく身体を拘束される。


「な……何をするっ! 俺は南の次期当主だぞっ!」


「そちらから攻撃しておいてよく言えたものだ。……ワシはコイツを本家に連れて行くから、花凛は瑞季としていくがいい」


 ……『しっかり修行していけ』、って事ですね。……はい。

 花凛は苦笑いしつつ頷いた。


「お父さん! 婚約者のいる私にやたらと言い寄って来てた事も本家に話しておいてよね!」


 瑞季はそれが相当嫌だったらしい。確かにあんな風に勘違い発言をしながらしつこく迫られるのは気分が悪かっただろう。


「瑞季さんっ! 誤解だ! ちゃんと話をさせてください、先生!」


 叫び続ける奏多を軽くいなし三郎太は本家へ連れて行った。


「───大丈夫かしら? ……なんかごめんね。私のせいで変にもめさせちゃって」


 2人の関係性は不明だが、きっかけは自分の存在だったので謝罪した。 


「花凛のせい? 全っ然違うわよ! 私ずーっとアイツにムカついてたんだから! でもどれだけ断ってもしつこくって……。私と婚約する事で本家当主になれるって思い込んでるのよ。本気の大馬鹿だしそれって私の事も馬鹿にしてるわよね。
まあコレでアイツも少しは大人しくなるでしょうよ。一族相手に攻撃しようとしたなんて、相当罪が重いわよ」


「そうかもしれないけれど、きっかけは私だったから……。
……でも奏多様は学生の頃から変わらないなあ。一族至上主義、とでもいうのか」


「そうそう。まあ南の当主もそんな感じの方だからね。百合様と結婚したのも一族の血を濃くする為だって堂々と言っちゃうくらいなんだから。子供達もそれに影響されちゃうんでしょ。
それで今鞍馬家で奏多と年齢の近い『力』を持った一番強い女子は私だと思ってるから、余計私にこだわってるんでしょうね。……花凛がもしも力の事を公表したらどうなるか分からないわよ」

「え。……私も奏多様は無いかな」


 奏多は一歳年上で小さな頃から存在は知ってたけれど、彼にはずっと『鞍馬の分家の一番下』扱いされてきた。一族の人はそんな感じの人も中にはいるからそんなに気にはしていないけど、結婚相手としては有り得ない。

 瑞季達の東家やうちの北家はそんな事はなかったけどね。

 瑞季もそれは分かったのか頷いた。


「まーそりゃそーだわね。なんかあの人って自分が得する事ばかり考えて動いてるのよ。周りの事考えてないの。まるで大局が見えてない。……いくら『力』を得たってあれじゃ本家の当主なんて有り得ないわよね」


 そんな風に2人で一通り話をしながらゆっくり過ごした。その後夕方になって、三郎太先生に叱られる! と慌てて今日の予定の修行ノルマを済ませたのだった。


 
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