23 / 97
奏多の暴走
しおりを挟む三郎太と瑞季もその雰囲気を感じたらしい。2人がまとう空気が攻撃的になったので花凛はヒヤヒヤする。
……しかし奏多はそれを感じていないらしかった。
「……いや俺は、瑞季さんのそういう分け隔てをしない優しい性格を好ましく思ってるよ? だけど俺の妻となるのならある程度付き合う人間は考えた方がいい」
あー、この人子供の頃からちっとも変わってない! 激しい主張をせず優しそうに見えて実は鞍馬の上下関係に凝り固まっていた。確かにこういうアレな発言をする人だったなー。
花凛がそう思い出していると、瑞季は我慢ならないといった風に言い放つ。
「───は? それならそれは私に関係ないわね。アンタなんかの妻になる予定なんかないんだから」
「まったくじゃ。それになんじゃ、その失礼な態度は!! 南は今の当主になってから全く品というものが無い」
三郎太も苛ついていたらしい。それに、もしかして南家の当主と仲が悪いのだろうか?
「……な! 南の当主である父の事まで……、それは失礼が過ぎるでしょう! たかだか末席の力もない娘のことで──」
「花凛は私のとても大切な幼馴染よ? 貴方とは重みが違うわ。花凛をそんな風に言う奴なんて許さない!」
「仮にも『次代の南の当主』が例え末端であったとしても一族の者を馬鹿にするなどあってはならぬこと。南の当主勝治殿にも本家当主様にも報告させてもらう。
……勝治からきちんとした謝罪があるまではワシらは南との付き合いもやめさせてもらう」
瑞季と三郎太の完全なる拒絶に、流石の奏多も慌てたようだった。
「ちょっ……、ちょっと待ってください、先生! 父や本家まで持ち出すなんて大袈裟でしょう?
僕は南の正式な次期当主で、本家の当主にもなれる力の持ち主なんですよ? ……そんな馬鹿げた事を言うのなら僕にも考えがありますよ」
最後強気になった奏多は脅しの為かその手に力を纏わせた。
……まさか、こちらに『力』を使う気? 例え脅しでも一族を相手に流石に許される事じゃないでしょう!?
花凛も思わず警戒態勢になったが、その前にさりげなく三郎太と瑞季が立つ。
「───ほう。我ら相手に力をな。コレは完全に八千代様への報告案件じゃな」
「そんなもの、俺の力で黙らせれば問題ない!」
初めは本気で力を使う気が無かったのかもしれないが、2人の対応を見て思わずといったふうにそう叫んだ奏多はこちらに向かって炎を繰り出した。……が。
その攻撃は瑞季の『力』によって簡単に跳ね返され、三郎太の『力』によって奏多はあっけなく身体を拘束される。
「な……何をするっ! 俺は南の次期当主だぞっ!」
「そちらから攻撃しておいてよく言えたものだ。……ワシはコイツを本家に連れて行くから、花凛は瑞季とゆっくりしていくがいい」
……『しっかり修行していけ』、って事ですね。……はい。
花凛は苦笑いしつつ頷いた。
「お父さん! 婚約者のいる私にやたらと言い寄って来てた事も本家に話しておいてよね!」
瑞季はそれが相当嫌だったらしい。確かにあんな風に勘違い発言をしながらしつこく迫られるのは気分が悪かっただろう。
「瑞季さんっ! 誤解だ! ちゃんと話をさせてください、先生!」
叫び続ける奏多を軽くいなし三郎太は本家へ連れて行った。
「───大丈夫かしら? ……なんかごめんね。私のせいで変にもめさせちゃって」
2人の関係性は不明だが、きっかけは自分の存在だったので謝罪した。
「花凛のせい? 全っ然違うわよ! 私ずーっとアイツにムカついてたんだから! でもどれだけ断ってもしつこくって……。私と婚約する事で本家当主になれるって思い込んでるのよ。本気の大馬鹿だしそれって私の事も馬鹿にしてるわよね。
まあコレでアイツも少しは大人しくなるでしょうよ。一族相手に攻撃しようとしたなんて、相当罪が重いわよ」
「そうかもしれないけれど、きっかけは私だったから……。
……でも奏多様は学生の頃から変わらないなあ。一族至上主義、とでもいうのか」
「そうそう。まあ南の当主もそんな感じの方だからね。百合様と結婚したのも一族の血を濃くする為だって堂々と言っちゃうくらいなんだから。子供達もそれに影響されちゃうんでしょ。
それで今鞍馬家で奏多と年齢の近い『力』を持った一番強い女子は私だと思ってるから、余計私にこだわってるんでしょうね。……花凛がもしも力の事を公表したらどうなるか分からないわよ」
「え。……私も奏多様は無いかな」
奏多は一歳年上で小さな頃から存在は知ってたけれど、彼にはずっと『鞍馬の分家の一番下』扱いされてきた。一族の人はそんな感じの人も中にはいるからそんなに気にはしていないけど、結婚相手としては有り得ない。
瑞季達の東家やうちの北家はそんな事はなかったけどね。
瑞季もそれは分かったのか頷いた。
「まーそりゃそーだわね。なんかあの人って自分が得する事ばかり考えて動いてるのよ。周りの事考えてないの。まるで大局が見えてない。……いくら『力』を得たってあれじゃ本家の当主なんて有り得ないわよね」
そんな風に2人で一通り話をしながらゆっくり過ごした。その後夕方になって、三郎太先生に叱られる! と慌てて今日の予定の修行を済ませたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる