30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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32年前の謎

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「おじいちゃんが始祖様のお孫様の『祠』の守り手……。お参りをしてたって事ですか?」


 祠の掃除や手入れをしていたって事かな?
 けれど両親や孫である私達を連れて行ってくれた事はなかった。


「私も詳しくは知らないが、定期的に力を注入するのだと聞いた事がある。それで中におられる末の孫様を抑えているのだと。……もう千年以上昔の話なのだがね」


 今も力を? お参りだけでなく『力』が必要なら、それは確かに義理の息子である父には無理で受け継がれなかったはずだ。


「鞍馬家にはそういう形式的な儀式もたくさんあるって事ですね」


 千年も前の末の孫様の墓ともいうべき『祠』に力を注ぎ続けるのは、末の孫様の鎮魂の為だろうか?


「いいえ、そうとも言い切れないわよ。私も子供の頃はそう思っていたけれど、どの儀式にもそれぞれ意味合いがあってそれをしないと後でとんでもない事が起きたりしたものよ。
……その『祠』も昔の守り手が力をきちんと入れなかった時、中からおかしな音がしてくると噂になった事があったわ」

「それ本当? 俺も昔『祠』に行った事はあるけど、静かなもんだったけどなぁ」


 奏多は聞いた事がなかったらしく、母である百合に向かって問いかけた。


「お母さんが子供の頃の話よ。……先先代の北家の分家に吾郎さんて人がいて、その人がしょっちゅうお酒を飲んで『祠』の儀式をサボっていたらしいの。すると中から変な声が聞こえるって一時噂になっていたわ。子供達が肝試しみたいな事をして大人たちに随分と怒られてたわよ」

「……その『祠』の中の今も封じられた末の孫様が外に出ようとしている、って事ですか?」


 なんだか急にホラーな話になって来た。花凛は身震いしながら聞いた。


「……まさかそんな事はないでしょうけれど。末の孫様の霊がきちんと儀式が行われないから苦しんでおられたのかしら。
あの頃、肝試ししようとしていた子供達は本家で当時の当主だったお祖父様に大目玉を喰らっていたわ。
…………そうだわ、特に叱られていたのは西家の楓さんだった。周りの子供達を煽動して連れて行ったらしいの。昔から危ない事に首を突っ込むタイプだったのね」



「……『祠』……、そうだ、きっとそれだ! あの時治仁様が仰っていたのは!」


 百合の話をジッと聞いていた勝治が急に叫んだ。百合は驚いて勝治に聞いた。


「!? 何? 勝治さん、治仁兄様が何を言っていたの?」

「ほら、治仁様が楓殿を追いかけると仰った時聞き取れなかった言葉だ! 『楓が……こらに向かったらしい』、その言葉が聞き取れなくて……、きっと『祠』と仰ったのだ。
楓殿は自分の強い力を示す為に『祠』の中にいる末の孫様を完全に倒そうとしたに違いない!」

「!? そんな、そんなのは正気の沙汰ではないわ。当時始祖様でも封じるしかなかった末の孫様を倒そうだなんて! ……そもそも千年以上経っているのだから末の孫様はもうこの世の方ではないのに!」

「いやしかしそれしか考えられん! 子供の頃に聞いたという『祠』からの物音の正体を暴き解明するだけでも彼女の名声になり得る。
……そしてそこで何事かが起きたのだ」


「勝治さん。だけどそこからアオイさんへの流れに繋がらないわ。治仁兄様が楓さんを止めた後、帰り道で偶然アオイさんと出会って結婚、という事?」

「う……うむ。その辺りは分からぬが、あの時楓殿がその時『祠』に行ったというのは間違いがないと思う」


 夫婦の会話がひと段落ついたようなので、花凛は言った。


「その『祠』って、楓さん達が行った後も正常に護られているんでしょうか。その当時はおじいちゃんが守りをしていたんでしょうけど……」


 相当大きな力を持っていたという楓がその祠に何かをしに行ったのなら、そこで何か起こっていなかったのだろうか。楓が何かをする前に治仁が止める事が出来たのだろうか?


「当時の守りだった元太は何も言っていなかったし、その時には何も起こっていないはずだ。
……治仁様が無事楓殿を止めその後喧嘩別れをして……、その後偶然花凛様の母上に出会ったという事か……?」

「今の所そうとしか考えられないわよね。アオイさんへの流れだけが少し不自然だけど……」


 確かにそうだ。
 鞍馬に昔から伝わる『祠』にまで手を出そうとした楓に呆れた治仁が彼女を見限った、というのは話としては分かる。しかし何故そこにアオイという存在が突然現れたのが分からない。……もしかして治仁は以前から密かにアオイと付き合っていたのだろうか?


「治仁さんは……、それより前からアオイさんと付き合っていたんでしょうか……?」


 花凛は父治仁がやはり前から婚約者楓を裏切っていたのではないかと申し訳ない気持ちになった。


「花凛様……。私はそうは思いません。当時治仁様は楓殿に振り回され困惑されておいででしたが、将来の伴侶として尊重しておられましたしそれまで他にそのような相手が居られる様子はありませんでした」

「同じ家に住んでいた私も、兄に他に好きな人がいたようには全く思えなかったわ。だからこそ、兄がアオイさんを連れてきた事にあれ程皆が驚いたの」

「百合さま……」

 花凛を思いやってくれる2人の気持ちに、ジンとくる。


「当時何があったのかは分からないけれど、楓さんと揉めた後に兄はアオイさんと出逢い、……恋に落ちた。結果的に楓さんを裏切る事にはなってしまったのかもしれないけれど……。でもきっとあの時の楓さんの行動がなければ、そういう事になってなかったんじゃないかしら」


 花凛は2人を見ながら静かに頷いた。当時の治仁の様子を知る2人がそう言うのだ。……私はそれを信じておこう。それに真実はきっとあの2人にしか分からない……。


「……ありがとうございます。
あの、私一度その『祠』に行ってみようと思います。昔住んでいたという家も見たいですし……」


 花凛は顔をあげて言った。
 花凛が生まれた時、両親と住んでいたはずの家。そしてたった今知った、かつて義祖父が管理し治仁が婚約者を止めに行ったという『始祖様の末の孫様の祠』。

 
「花凛様……。そうですな。
それでは、是非奏多をお連れください。……本当は私もご一緒したいのですが……まだその場に行って治仁様に向き合う勇気がないのです。代わりに、是非奏多を」

「あなた……。治仁兄さんはきっとあなたを恨んでなんかいないわよ。
花凛さん、道案内も必要でしょうから良かったら奏多を連れて行ってちょうだい」


 またしても側にいる奏多に確認も取らずにそう勧める両親に奏多は苦笑する様子を見せながらも、奏多は花凛の目を見て言った。


「花凛様。私も子供の頃行った位ですので今夜その地のことを詳しく調べておきます。明日用意をして一緒に参りましょう」

「皆さん……。ありがとうございます」


 花凛は3人にお礼を言って頭を下げた。


 
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