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セイラ vs マリアンネ
その日、学園にマリアンネの怒りの声が響いた。
「……貴女ッ! マルクス様は私の婚約者ですのよ! お離れなさい!」
その日セイラはマルクスにぺったりと寄り添うように歩いていた。アルベルトとブルーノの2人もいるのだが、今セイラは特にマルクスを落とそうとしているようだった。
そんなセイラを見て、最近はアルベルト殿下のする事に遠慮して近寄る事を我慢していた、マルクスの婚約者であるマリアンネの堪忍袋の緒がとうとうキレた。
「うふふ。でもマルクスは私と居たいんだってぇー。……ねぇ? マルクスぅ~」
セイラはそう言って更にマルクスに寄り添った。
いつもなら女生徒にそんな風にされるのを嫌がるマルクスだが、今日はセイラのされるがままになっている。……目は死んでいるようだが。
「ッ!! 何をしているの! 子爵令嬢風情が!! 侯爵家に逆らうと言うの!? マルクス様も早くその女から離れて!」
マリアンネは血管が切れるんじゃないかと心配になる程ブチギレていた。
しかし、マルクスはセイラを庇うように立ちマリアンネを睨み付けた。マリアンネはショックを受けたようで少し怯む。
それを見て、勝ち誇ったようにふふふと笑うセイラ。
「……だからぁ、マルクスは私と居たいって言ってるの」
大柄なマルクスの陰から顔だけをひょこんと出してふふっと笑いながらセイラは言った。
「なんですって!? 私はマルクス様の婚約者よ! ……貴女なんて侯爵家の力でこの学園に居られないようにしてやるわよ!」
「いやぁ、こわぁい。ねぇ、マルクスぅ。こぉんな怖い人が婚約者なのぉ? かわいそ~。だからセイラで癒されたいのよね? それにこの人、『侯爵家』でしかマルクス様を捕まえる事が出来ないのねー」
「ッな……ッ!!」
ある意味事実を突きつけられたマリアンネは言葉に詰まった。そしてセイラを睨むが本人はサッとマルクスの後ろに隠れ、代わりにマルクスが睨み返して来た。
「見苦しいマネはやめるんだ。……セイラは(この婚約を解消する為の)大切な女性だ」
マルクスは真に大切な女性を想い出しながら、彼女を庇っているつもりでマリアンネに対峙した。
「ッ……! マルクス、様……。酷いですわ……」
「酷いのは貴女だ。今まで散々私に近付く関係のない女性にまで牙を剥いて。……そのような女性を愛する事は決してない」
「…………!」
マリアンネは目を潤ませ、走り去って行った。
セイラはマルクスの後ろから出て来てくふりと笑う。
「え~~。かわいそぉ。でもマルクスの方が可哀想よね、あ~んなヒステリー女に縛られて。大丈夫よぉ、セイラが癒してあげるッ!」
そう言って自らの腕をマルクスに絡めようとしたが、マルクスは反射的にそれを避けた。
「……殿下の御前だ」
「……もー、マルクスったら、マジメなんだからぁ! セイラも泣いちゃうんだからねッ!」
そう言ってセイラはぷんぷんっとした様子でそっぽをむくが、マルクスはそんな事は知った事ではなかった。
……おそらく実家であるハルツハイム伯爵家にマリアンネのシッテンヘルム侯爵家から苦情は来るだろう。
しかしマルクスは彼女と婚約が決まった時から父である伯爵にこの婚約が不服であると一貫して伝えている。そしてその事で自分がどういう対応をしても文句を言うなと。
騎士団長を務めるハルツハイム伯爵家に軍務大臣で上司であるシッテンヘルム侯爵は強く責めて来るだろうが、こんな時は『殿下の意向に沿って行動している』と突っぱねるようにと伝えてある。この計画を始める時、殿下とブルーノの3人で取り決めたのだ。
マルクスはチラリとアルベルトを見る。
その視線を受けたアルベルトは静かに頷く。……これは彼らの中での想定内で予定通りの行動。
アルベルトとブルーノは婚約解消について婚約者と本人同士は同意しているが、マルクスの婚約者マリアンネだけは別だ。彼女はマルクスに執着している。だからマリアンネがマルクスに呆れて婚約解消を認めざるを得ないような状況にする必要がある。
だから特にマリアンネの前ではこのような演技を続けなければならない。
そしてもしもシッテンヘルム侯爵家がアルベルトの意向を無視しハルツハイム伯爵家を脅す程の抗議をして来たのなら、マルクス本人の素行不良を理由に婚約の解消を申し出てもいいとは考えていた。……しかし余りにも早くそれを言い出すと今回の演技の事もバレてしまう可能性がある事から、今の段階では向こうから余程強く言い出さない限りは静観する事にはしている。
最終的にはアルベルトは国王にそしてブルーノは祖父である侯爵に、自分達の素行不良を鑑みて婚約の解消を認めさせなければならないのだ。
───今回の計画で『婚約解消』は確実に行われなければならない。慎重の上にも慎重を期していかねばならないのだ。
彼らにはもう、後がないのだから。
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