《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

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10年後〜マリアンネの恋心

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「……ああ、王宮も久し振りだわ。十年振り、かしら……」


 馬車から降り立ったマリアンネは、感慨深げに周りを見渡した。……幼い頃から何度も来た、懐かしく美しい故郷の王国の王宮。


 マリアンネが王宮の中へ進もうとすると、当然の如く衛兵に止められる。


「私はシッテンヘルム侯爵家の者。先に侯爵が来ているはずよ。私は少し遅れてしまって……」


 そう言って入口前で立ちはだかった侍従と衛兵にシッテンヘルム侯爵家の紋章の入った腕輪を見せた。
 衛兵は頷き、マリアンネは満足げに王宮のパーティーが開かれる広間へと向かった。


 ───マリアンネが故郷に帰るのは結婚してから初めての事だ。隣国の侯爵に嫁ぐと決まった時、家族から嫁ぎ先に心から尽くすようにと強く言われそれ以来10年間帰国を許されなかった。

 しかし侯爵を引退した父が身体を悪くし、どうしても孫を見たいと懇願されこの度初めて帰る事を許されたという訳だ。


「お父様ったらお悪いというから心配したのに、アレは病気を口実に孫に会いたかっただけよね。今だって『孫とお出掛けする』なんて言って出て行っちゃうんだから……。まあ、そのお陰でここにコッソリここに来られたのだけれど」


 マリアンネはクスリと笑う。


 ───10年前の学園の卒業パーティーで、マリアンネは愛する婚約者から婚約解消を願われた。

 侯爵家の力で婚約を無理矢理決めてから、マリアンネは婚約者を繋ぎ止める為に執着し暴走して大きく評判を落とした。そしてその後王太子の側近だった婚約者も評判を落とし、そんな自分は婚約者に相応しく無いからと公衆の面前で婚約解消を願われたのだ。
 その時、この国の王太子も同じように婚約解消し相手の公爵令嬢もそれを受け入れたのでマリアンネもそれを拒否する事が出来なかった。


 ───あれから10年。

 あの後王太子が新たに婚約した隣国の王女からの声掛けで、マリアンネは卒業して3ヶ月も経たないうちに隣国へと嫁いだ。

 一年程は王国の様子を友人から手紙で教えてもらっていたのだが、その内その友人も結婚して互いに多忙になる内に連絡は途絶えた。
 実家からの手紙からも故郷の大した情報は得られずもどかしい思いをしていたが、自分自身も結婚し新たな環境に子育てと忙しくそれを考える間もなかったのだ。



 ……そして、マリアンネが嫁いだ隣国の侯爵家はある意味貴族らしい貴族だった。

 結婚相手の若き侯爵には既に愛人がいて、結婚式の後『君を愛する事はない』などと何処かで読んだ本のような陳腐なセリフを吐かれたのだ。


 マリアンネはキレた。

 マリアンネだって別に好きでここに来た訳ではない。
 これは貴族同士の結婚だ。貴族の務めだ。そして、これはある意味故郷の国とこの国の二つの国の王命でもある。
 愛する者に言われたのならともかく、あくまでもこれは契約婚。そんな馬鹿なセリフでマリアンネの気高い心を傷付けられはしない!


 ……ふざけてもらっては困りますわ! 侯爵という責任ある立場にある者に無責任は許されないのですわ!


 マリアンネは初め意気揚々と『君を愛する事は……』を告げて来た侯爵に、鬼のように『貴族とはなんぞや』をテーマに懇々と説教をした。

 ……マリアンネは幼い頃自国の王太子の婚約者候補から外され、その後ちょっと(?)周りに愚痴ったら筆頭公爵や周りから睨まれ、一目惚れした男性を強引に婚約者にした後彼を繋ぎ止める為色々やらかしてその後婚約解消され……、そうしてこんな所まで来た。

 数々の修羅場を潜り抜けてきたマリアンネは、強く逞しくなっていた。

 
 そんな訳で夫である侯爵を厳しく躾け、初め自分を『愛人のいる侯爵に嫁いだ憐れな外国貴族の女』扱いしようとした使用人たちをぶった斬って今日まできた。
 そうして今、マリアンネの嫁いだ侯爵家は風通しが良く過ごし易く快適になった。

 夫である侯爵は今は愛人と別れ、マリアンネとの間に可愛い2人の子供もいる。



 ───そんなマリアンネだが、心残りがあった。婚約を解消したマルクスだ。

 9年前の友人からの最後の手紙では、王太子や侯爵令息ブルーノが婚約する中マルクスだけがあの婚約解消後一年近くたっても1人のままだとの事だった。

 ……もしかして、マルクス様は私と別れた事を後悔しているのではないかしら? 
 もしそうならば、せっかく躾けて過ごし易くなった今の家を私は捨てても構わない……! 
 ああ、私も今も貴方を愛しております、マルクス様……! 


 ……マリアンネの隣国での生活が落ち着き色々考える余裕が出来マルクスへの想いが高まっていた時、ちょうど実家の父から『最後に孫が見たい』と帰国を許す手紙が来た。


 そうしてマリアンネはマルクスへの熱い思いを持って帰国しここにやって来たのだ。



 王家主催のパーティーならば、マルクスの今の状況が分かるはず。上手くいけばマルクスと再会し、そして……愛を打ち明けられるかもしれない!  


 ……ああ愛するマルクス様! 貴方のマリアンネはここですわ!


 マリアンネはほんのり頬を染め少女の頃のようにドキドキしながらパーティーの広間の中を見渡す。


 奥の国王の椅子に座るのは、2年前即位されたアルベルト国王陛下。その隣はエディット王妃ね。遠目で見ていても2人は仲睦まじい様子だわ。


 ……お可哀想に、ツツェーリア様。本当ならばあの場所に座っているのはあの方だったはずなのに……。王太子に嫌われ婚約解消され……、新たな婚約者が見つからず確か義理の弟と婚約したとまでは聞いたわ。……ご愁傷様ね。


 そしてまた周囲を見渡すと、そこにはアルベルト国王の側近であの時王子と一緒に婚約解消をしたブルーノ様がいた。隣にいるのは奥方様……かしら。確かあの方は辺境伯の元令嬢だわ。……まあブルーノ様の元婚約者は傲慢な祖父侯爵が決めたというかなり身分違いな子爵令嬢だったから、これは今の奥様の方が身分的な釣り合いはとれてるのね。


 あとは……。


 マリアンネが周りをチェックしていると、そこに懐かしい愛しい男性を見つけた。


 ……ああ! マルクス様……!
 彼は何も変わっていない。10年経って、更に素敵な大人の男性になっているわ……!

 マリアンネは学生のあの頃のように胸がとくりとときめいた。


 ───マリアンネがマルクスに近寄ろうと、足を踏み出した時。


「ッ!!」


 ……愛するマルクスの隣には女性が居た。


 マルクスは愛おしそうにその美しい女性の腰を抱いて2人は寄り添い、そして時々目を合わせては微笑み合っていた。……お互い深く思い合っていると一目でわかる姿だった。


 マリアンネが茫然と立ち尽くしていると、突然後ろから腕を掴まれた。




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