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助けられた猫
しおりを挟む───ガツッ!!
「ニャ!! ……ニャ?(痛っ! ……くない?)」
アダムスに投げられそうになったシャーロット猫が恐怖でギュッと瞑った目をソロリと開けると、自分を掴むアダムスの手が何者かに掴まれていた。
「自分達の自業自得で追い詰められて、それを猫のせいし暴力を振るおうとするとは……。貴族の風上にもおけない」
シャーロット猫が呆然としてる間に、アダムスを掴んだ手とは違う方の手が彼女の身体を丁寧に抱き上げた。
「ニャ……?(誰……?)」
シャーロットはその手の主の胸元にポスリと収まる。その手の優しさに、安心して力が抜けた。
「ニャア……(良かった……)」
……でもいったい誰だろう? 顔が見たいけど、見えない……。
しっかり胸元で抱っこされているので、その人の顔が全く見えない。猫になったからか、凄く大きな人に思えた。服からして騎士なのかもしれない。
……そしてふわりとムスクの良い香り。猫は犬ほどではなくても人間よりも鼻がきくのね、と感心しながらスンスンとその香りを嗅ぐ。
その時後ろからは悔しげに叫ぶ男の声。
「クソ……クソッ!! その猫のせいで! 俺の人生はもう終わりだ!」
アダムスは座り込み拳で床を叩く。
シャーロットはびくりと震える。
……人生が終わり……。私、もしかしてやり過ぎた? アダムスがアマリアにした不貞行為は許されないけど、私も彼に許されない行いをしてしまった……?
シャーロットはさっきまでの暴力と自分のした事で1人の人生を狂わせてしまった事実に恐怖した。
「───いや違いますね」
アダムスたちとシャーロットは視線を上げる。シャーロットからはその声の主の顔は見えなかったけれど。
「コレは貴方がたが招いた、起こるべくして起きた事態です。他の誰のせいでもない、貴方達の行いの結果です」
「ニャ……!(……!)」
「───くッ……! あああ……」
「───ううう……」
そして、アダムスと未亡人は泣き崩れそのまま衛兵に連れて行かれた。親族に引き渡されるのだろう。その後の彼らの行く末は考えるまでもない。
シャーロットはその後ろ姿をジッと眺めた。
「───さて」
浸っていると、両手でぐいと抱き上げられその手の主と目を合わせられる。水色の綺麗な瞳。
「ニャ……?(うん? この人……?)」
「お前はどなたの飼い猫だ?」
アーモンドのような美しい形の水色の瞳に金の巻き毛、そしてガッシリとした筋肉隆々な体格。
「ニャニャア!(この人、近衛師団長じゃない!)」
昨年若くして近衛の団長になった、セリエ侯爵家令息、クラレンス!
アマリアが『あの筋肉がたまんない~! 今度婚約者にするならああいう寡黙でストイックなタイプがいいわね!』とやたらと筋肉……イヤ彼を褒めていたから覚えている。
……確かに、いい筋肉ね。
シャーロットはペシペシとその前脚で彼のしっかりと筋肉のついた手首を叩いた。
クラレンスはこそばゆそうに目を細める。そして近くにいた衛兵に言った。
「───この白い猫が高貴な方々の猫かどうかを調べよ。それまでは私が預かる」
「? 団長が、ですか? 猫はお嫌いなのでは?」
「───大丈夫だ」
クラレンスはそう言ってシャーロットを胸に抱えたままアダムス達の事後処理をした。
「ゥナァー(これ私を連れてく必要ある?)」
そう思って呼びかけるのだが、クラレンスは声に反応して撫でてくれるもののシャーロット猫を離すことはなかった。
「団長。妃殿下や王族の方々に確認いたしましたが、今白い猫は飼って居ないとの事です」
暫くすると1人の衛兵がクラレンスの所に報告に来た。
「む……。ではこの猫は迷い猫という訳か……。しかし後で届けがあるやもしれん。とりあえず私が預かることとしよう」
「ニャ!?(そうなの!?)」
とりあえず、この猫の姿での暫くの寝床と食事は保証されたという事だろうか。……じゃあそれまで私もこの筋肉を堪能しよう。
シャーロット猫はその小さな前脚でたしたしとクラレンスの筋肉を触る。クラレンスは少しくすぐったそうに口元を緩めたが、部下の次の言葉に表情を固くした。
「───そして、オルコット公爵令嬢は未だ発見されておりません」
「……ご令嬢があの高さから落ちて怪我をされていないはずはない。それなのにこれだけ王宮内を捜索しても見つからないとは……。何者かに連れ去られた可能性もあるな」
「ニャー……(ここにいるんだけどね……)」
シャーロットはそう呟いたが彼らに分かるはずもなく。
「……そして陛下はエドワルド殿下とその側近達を別室にて待機状態とされているようです。……そうでなくともパーティーでの殿下の行動に対して貴族達の反発は激しく……」
「なにせ多くの貴族達の目の前での出来事。王妃様は気を失われ、兄である王太子殿下も事態の収拾に奔走されているようだ」
衛兵とその後ろの副官と思われる男性の言葉にクラレンスは少し考えてから言った。
「───オルコット公爵閣下はどうされている?」
「───一刻も早く娘を返すようにと。王家の責任は重いと強く仰っておられます」
「そうであろうな……」
「ニャー……(お父様……)」
お父様はお怒りになっている。
───いやそれはもっと前、最初に王命でこの婚約が為された時から父は王家に対して怒っているのだ。
オルコット公爵夫人だったシャーロットの母が亡くなり、母を深く愛していた父が失意の中にいる時にその王命は出された。
母の喪に服しているその最中に出された王命。それは一人娘のシャーロットの婿として第二王子であるエドワルドを入れる。いわば乗っ取りに近いこの縁談を王家は無理矢理捩じ込んだのだから。
父が将来的にシャーロットの婚約をどう考えていたのかは分からないが、エドワルドに対して相当不服そうだったのは確かだ。
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