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第1章 エイゼル領の伯爵
第1章第003話 私が死んだあとの地球とか。
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第1章第003話 私が死んだあとの地球とか。
・Side:ツキシマ・レイコ
このあと赤井さんは、私が死んだ後のいろいろを説明してくれた。
スキャナから得たデータを使ってコンピューター上に再生人格を構築できるシステムが完成するのに、さらに百五十年。
再生された人格をどう扱うかで、社会でいろいろあった。ごく少数とは言え、コンピューターの演算能力をもちネットワークに住み着く新人類だ。当然、生身の人たちとの確執が広がってった。
政治レベルでも扱いが紛糾し、法律的には再生人格の人権は法人格留りとなったため。いろいろあった後、再生人格達は、最初は月面、最終的に水星に拠点を移すことになった。
データであるが故に時間は無制限。資源とエネルギーさえあれば、地球に留まる必要すら無い、通信レベルで交流が続いていればそれでいいと。物理的には袂を分かつことにしたんだそうだ。
再生人格たちが月面で活動し始めた頃、地球の学者と共に大統一理論の完成を目指していた中で、理論の一つとして余剰次元にエネルギーを蓄えてそれを自在に出し入れする技術の可能性が示唆された。あたかも、通常のアップ/ダウンクオークから、より高エネルギーのトップ/ボトムクオークを自在に作れるようなそんな理論。
月面のクレーター一つを丸ごと使った粒子加速器で検証が進み、反物質並のエネルギー物質として完成を見ることになる。
さらに、その周囲を炭素の籠(フラーレン)で覆い、それ自体が擬似原子として振舞い、さらにそれらを連結することでエネルギーの貯蔵と演算回路を併せ持つ分子機械の集合体が開発された。これが疑似物質"マナ"である。
Mass Annihilation drive Nanosize Architecture。質量消失動力によるナノサイズ構造…なんて仰々しい訳もついている。…多分後付けだろうけど。
エネルギーそのものを質量にしているのと同じなので、生成には大量のエネルギーが必要だが。再生人格たちは拠点を水星に移し、太陽の周囲に直径三百万km幅1kmほどリングを五十年ほどかけて建造し、太陽光エネルギーでマナを大量製造して地球に輸出した。
小は体内で活動するナノマシンから、バッテリー内蔵のCPUやら家電の類いまで。大は電気駆動の航空機やらイオン推進のロケット。高密度のエネルギーを安全かつ自在に活用できるこの技術は、瞬く間に地球で普及していった。
しかし。マナが普及した地球上で、原因不明のマナの暴走で地球文明はほぼ壊滅してしまった。
一つの惑星で文明の継続を依存することの危険性を改めて確認した水星の再生人格達は、マナで作った宇宙船に自分たちのコピーを載せ、様々な恒星系に向けて送り出した。
ここまでで約千年。ともかく、海のある惑星を発見した探査船のAIによって、片っ端にテラフォーミングが行なわれ。生存環境が整った惑星から、遺伝情報から地球の生態系を再現した。
そしてちょうど現在。この星に根付いた文明が、地球でも見られたような非線形的な進歩の兆しを見せ始めている。
長く続く第二の人生を新しく始めるには、ここが一番面白い時期じゃ無いかと言うことで、私を再生した…ということだそうだ。
「…ここで赤井さんと暮らすってのは駄目なの?」
「僕も長い間でいろいろあったんだよ。開発したのはこの惑星だけじゃないし、いくつもの文明に関わってきた。このドラゴンの体は、生身の人間と距離を置くためでもあるんだ」
赤井さんが惑星を受け持ったのは、これが初めてではないらしい。というか、他の惑星にも赤井さんがいて、時間差がありながらも、データ通信をしていて意識の統合をしていると言うことらしいけど。
「人類の進歩を最初から見守るにしても。人の歴史は穏やかなスローライフだけで成り立っているわけじゃないからね。人の心をもったまま向き合っていると、耐えがたいことが多々あったんだよ」
赤井さんは、静かに目を瞑って語っている。
「またあとで話すけど、玲子君を今このタイミングで再生した理由や目的ってのはあるし、実験と観察という側面は確実にある。ただそれでも、玲子君に新しい人生を楽しんで貰いたいというのは、本心だ」
眼鏡をクイっとする。
「玲子君。人間社会で生活する以上、今後の生活が楽しい事ばかりとは保障出来ないけど。それでも生き飽きるまでは好きに生きてみるのも、また経験だよ。いつになるかはなんとも言えないけど、将来的には僕らの仲間としていろいろやって欲しいこともあるしね。深刻にならないで良いよ」
夜になってカーテンが閉められた天井の高い部屋。遅くまで死んだ後の世界についての問答が続いた。
それこそ、あの国がどうなったかとかから、あの漫画がどうなったかまで。
…休載ばかりしていたあの漫画、結局完結しなかったのね…
---------------------------------------------------------------------------
マナあたりの設定は、新田真子先生著「RUSH」あたりをインスパイアしております。掲載誌があれでしたけど、夢中で読んでました。
・Side:ツキシマ・レイコ
このあと赤井さんは、私が死んだ後のいろいろを説明してくれた。
スキャナから得たデータを使ってコンピューター上に再生人格を構築できるシステムが完成するのに、さらに百五十年。
再生された人格をどう扱うかで、社会でいろいろあった。ごく少数とは言え、コンピューターの演算能力をもちネットワークに住み着く新人類だ。当然、生身の人たちとの確執が広がってった。
政治レベルでも扱いが紛糾し、法律的には再生人格の人権は法人格留りとなったため。いろいろあった後、再生人格達は、最初は月面、最終的に水星に拠点を移すことになった。
データであるが故に時間は無制限。資源とエネルギーさえあれば、地球に留まる必要すら無い、通信レベルで交流が続いていればそれでいいと。物理的には袂を分かつことにしたんだそうだ。
再生人格たちが月面で活動し始めた頃、地球の学者と共に大統一理論の完成を目指していた中で、理論の一つとして余剰次元にエネルギーを蓄えてそれを自在に出し入れする技術の可能性が示唆された。あたかも、通常のアップ/ダウンクオークから、より高エネルギーのトップ/ボトムクオークを自在に作れるようなそんな理論。
月面のクレーター一つを丸ごと使った粒子加速器で検証が進み、反物質並のエネルギー物質として完成を見ることになる。
さらに、その周囲を炭素の籠(フラーレン)で覆い、それ自体が擬似原子として振舞い、さらにそれらを連結することでエネルギーの貯蔵と演算回路を併せ持つ分子機械の集合体が開発された。これが疑似物質"マナ"である。
Mass Annihilation drive Nanosize Architecture。質量消失動力によるナノサイズ構造…なんて仰々しい訳もついている。…多分後付けだろうけど。
エネルギーそのものを質量にしているのと同じなので、生成には大量のエネルギーが必要だが。再生人格たちは拠点を水星に移し、太陽の周囲に直径三百万km幅1kmほどリングを五十年ほどかけて建造し、太陽光エネルギーでマナを大量製造して地球に輸出した。
小は体内で活動するナノマシンから、バッテリー内蔵のCPUやら家電の類いまで。大は電気駆動の航空機やらイオン推進のロケット。高密度のエネルギーを安全かつ自在に活用できるこの技術は、瞬く間に地球で普及していった。
しかし。マナが普及した地球上で、原因不明のマナの暴走で地球文明はほぼ壊滅してしまった。
一つの惑星で文明の継続を依存することの危険性を改めて確認した水星の再生人格達は、マナで作った宇宙船に自分たちのコピーを載せ、様々な恒星系に向けて送り出した。
ここまでで約千年。ともかく、海のある惑星を発見した探査船のAIによって、片っ端にテラフォーミングが行なわれ。生存環境が整った惑星から、遺伝情報から地球の生態系を再現した。
そしてちょうど現在。この星に根付いた文明が、地球でも見られたような非線形的な進歩の兆しを見せ始めている。
長く続く第二の人生を新しく始めるには、ここが一番面白い時期じゃ無いかと言うことで、私を再生した…ということだそうだ。
「…ここで赤井さんと暮らすってのは駄目なの?」
「僕も長い間でいろいろあったんだよ。開発したのはこの惑星だけじゃないし、いくつもの文明に関わってきた。このドラゴンの体は、生身の人間と距離を置くためでもあるんだ」
赤井さんが惑星を受け持ったのは、これが初めてではないらしい。というか、他の惑星にも赤井さんがいて、時間差がありながらも、データ通信をしていて意識の統合をしていると言うことらしいけど。
「人類の進歩を最初から見守るにしても。人の歴史は穏やかなスローライフだけで成り立っているわけじゃないからね。人の心をもったまま向き合っていると、耐えがたいことが多々あったんだよ」
赤井さんは、静かに目を瞑って語っている。
「またあとで話すけど、玲子君を今このタイミングで再生した理由や目的ってのはあるし、実験と観察という側面は確実にある。ただそれでも、玲子君に新しい人生を楽しんで貰いたいというのは、本心だ」
眼鏡をクイっとする。
「玲子君。人間社会で生活する以上、今後の生活が楽しい事ばかりとは保障出来ないけど。それでも生き飽きるまでは好きに生きてみるのも、また経験だよ。いつになるかはなんとも言えないけど、将来的には僕らの仲間としていろいろやって欲しいこともあるしね。深刻にならないで良いよ」
夜になってカーテンが閉められた天井の高い部屋。遅くまで死んだ後の世界についての問答が続いた。
それこそ、あの国がどうなったかとかから、あの漫画がどうなったかまで。
…休載ばかりしていたあの漫画、結局完結しなかったのね…
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マナあたりの設定は、新田真子先生著「RUSH」あたりをインスパイアしております。掲載誌があれでしたけど、夢中で読んでました。
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