玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第1章 エイゼル領の伯爵

第1章第008話 ドラゴンもいろいろ大変だったんだよ

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第1章第008話 ドラゴンもいろいろ大変だったんだよ

・Side:ツキシマ・レイコ

 次の日は室内で、この惑星についていろいろ座学です。

 この星のテラフォーミングにはいろいろ苦労したらしいです。
 改造するにも、海がある惑星というのは必須条件とかで。気温気圧の安定もだけど、プレートテクトニクスや、太陽風や宇宙線を防ぐ磁場の発生にも、実は海が必須なんだって。そう言えば、海の無い火星や金星には磁場がほとんど無いと聞いたっけ。
 海の無い惑星に、星系外縁部から彗星でも落して海を作るのは不可能では無いし、いくつか実施中だけど。単に水が溜まれば良いと言う物でも無く。それこそ何億年先のための準備…と。時間がかかりすぎてすでに想像の埒外です。

 さらに。海や大気を生物に適した状態に「浄化」するのは、かなり時間がかかるんだそうで。
 金属イオンのスープのような海に、二酸化炭素どころか硫化水素も多い高圧の大気。浄化のために散布されたマナを含むナノマシンは、一部の地域では堆積し一部は生物の代謝に取り込まれ、現在もいろいろ活動しているそうだ。マナの鉱床なんてのも出来ているとか。

 マナは、この星に済む人々にとっては魔法みたいな物質だけど。赤井さん曰く、化石燃料が少ないこの世界に対する補償という意味もあるらしい。文明を進歩させられるだけの資源は、ある程度赤井さんが用意しているそうです。
 この辺は、いきなりマナの高度な使い方を説明してもこの星の社会に好影響とはならないので。私にも色々トライしてみてねとのこと。ストレートに使うと、兵器転用まっしぐらという感じのテクノロジーですからね。

 次は、この星での言葉について。
 私は、生前には日本語と英語は喋れたけど。当然、この星でそれらは使えないそうだ。しかしなんと、私はこの星の言葉と文字はすでに学習している状態だそうな!。
 試しにタブレットでこの世界の文字を読んでみたら、問題なく意味が理解できた。声に出しても読めるよ! これはありがたいですね。



 それから一週間ほど。
 昼間は、身体機能に慣れる訓練をして。夜には、私が死んでから地球で起きたことの概要とか、思い出話とか、いろいろ語った。
 重要な話として、赤井さんたちの活動の目的があります。何を目的に、三千万年もの時間をかけてきているのか…

 「メンター?」

 MENTOR? 指導者とかいう意味だっけ?

 「まぁ、もともとはそんな偉そうな意味じゃなかったんだ。」

 事実上、地球から水星に追い出された再生人格達は、マナを発明し、水星を拠点にして、太陽の近くにそのプラントを建造した。

 「そのプラントを地球のためにメンテナンスする張り付きのエンジニアという意味で、メンター(MAINTER)という造語が作られたんだ。半分自虐だね。語呂が良いのでそのまま定着したんだけど」

 私が死んでから何百年も先の話だそうです。言葉は変化するものなので、そういうこともあるのでしょう。

 「それで。他の恒星にまで進出するようになったメンターの目的だけど…」

 …なんと、赤井さん達は"神"を探しているんだそうな。

 神と言っても、宗教で扱うような人間に都合の良い存在ではない。

 人間の脳内の情報処理を研究しているうちに、脳がある程度の量子演算をしていることが発見された。その所作を研究しているうちに、どうしても計算以上の処理能力を持っているとしか思えない事象がいくつか確認出来たそうだ。
 最初は人間の脳の未知の能力かと思われていたけど。スキャンした人のデータをコンピューター上で再現した"者"にも、同じとしか思えない処理能力の増強があることが分かった。ただ、単なる人工的なアルゴリズムでは、同じような処理をさせても所定以上の性能は出てこない。
 いくつかの推論と仮説を重ねたものでしかないが、「思考する意識にのみアクセスできる量子の向こうに何かいる」と言う結論に至る。逆に言えば、それらにアクセスできる情報処理プロセスが「意識」として、単なるプログラムとは区別できる…というわけだね。
 それに神としての意志や目的と呼べるものがあるのかは、まったくの不明だけど。いつかは熱的な死を迎えるこの宇宙に縛られない存在の探求。永遠に生きるメンターだからこそ、それを真に実現することが彼らの存在意義となっていた。

 「余剰次元の向こうというか余剰次元に張り付いてというか、確かに何かが存在していてこちらに干渉している。これを神だと呼び出す者が出るのは、すぐだったよ。ただ、その事実に感じたのは、希望とかではなく畏れ。常に何かに見られているのでは? 考えや行動が彼らに誘導されているのでは? 最初の印象は、ともかく不気味だった」

 神と意識、どちらが先でどちらが主導か?ということね。

 「向こうが人間の意識に干渉しているのなら、こちらから向こうに干渉出来るのではないか。"連絡"できるのではないか。いろいろ手段が検討されて、なんとか捕らえようとしていた」

 …とは言っても。三千万年経った今でも、行き当たりばったりで試行錯誤するしかないのが現状だそうで。
 私を再生したのは、その思索の一環らしい。
 いつかは至る可能性を少しでも上げられるよう、メンターの多様性のために。
 時間はまだ沢山ある。テストケースは多い方が良い。いくらでも。

 「他の沢山の惑星でも、文明を自発的に起こすように誘導して。それらが自力で量子コンピューターを立ち上げ、それぞれのアプローチでさらにその先を…期待したんだけどね。ところが、文明の自滅率が異様に高いんだ。ありがちなところで核戦争とか。宗教が文明の進歩を邪魔して、確率的にいつか必ず起きる惑星規模の災害や疫病に対応できずに滅亡。メンターとして助けることもあるけど。そうなった場合、介入して矯正すべきなのか、放置すべきなのか。嫌な話だけどこの辺も試行錯誤だったよ」

 「…あまりきもちのいい話じゃないけど。自業自得なら仕方ないのかな?」

 たくさんの文明を起こして自滅するのを観察してきたってことですか。
 無常ではあるけど。ただ、その全ての人々に手を差し伸べるなんてことも、想像できない規模の話です。

 「この星の場合は、ある程度干渉した方が効率が良いんじゃないか?ということになって、玲子君を送り出すのなら今がベストタイミングだと判断したわけ。ただ、早死にした玲子君に人生の続きを楽しんで貰えたらというのも、本当の気持ちだよ。一市民としてのらりくらり過ごすのもあり、バリバリ干渉して好きな世界にしてしまうのも良し。うん」

 ドラゴンの顔でちょっと申し訳なさそうな表情をする赤井さんだった。好きにして良いと言われても、それは逆に不自由だなぁ…

 「というところで。この星の未来に何かが起こる、または何かを見つけてくれる、数多の試行の一つ。そこにメンター候補である玲子を放り込む。何かが起きるかもしれない。起きないかもしれない。行き当たりばったり感は強いけど。"目的"に関して今話せるのはこのくらいかな」

 とりあえず自由に生きろってことなんだろうけど。…なんとも話がでかくて、ピンとこない。



 「にしても、小学生くらいの女の子とこんなレベルの話をして会話が成立するってのも、絵面的にシュールだね。娘が今の君くらいの頃、ちょっと難しい話をすると、お父さんまたわかんないこと喋ってる~って言われたの思い出したよ。…なつかしいな…うん…」


 さいですか。…まぁ前世でも、理系バリバリな会話をしていると女性扱いされないのでは?という危惧はしておりましたですが。頭の悪い会話をする男は、好みではないのですよ。お父さんがあれでしたから。

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