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第3章 ダーコラ国国境紛争
第3章第019話 オルモック・タリサイ将軍
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第3章第019話 オルモック・タリサイ将軍
・Side:オルモック・タリサイ(ダーコラ軍将軍 伯爵位)
くそっ! 王都から付けられた軍監のカプチャがやりたい放題だ。なにが、巫女様をネイルコード国からお救いする聖戦だ。
だが。カプチャは宰相直属の監察部隊に属している。私の方が階級も爵位も上だが、こいつにあること無いことを報告されては、王都にいる家族にも危険が及ぶ。
戦の前の口上の現場に、ネイルコード国のカステラード王子が直々に出てきたようだ。
私も、最前列から少し下がったところで観察していたが。相手が王族ならば、カプチャでは格が不足するだろう。ここは私が出る必要があるか?と思っていたところ、カプチャが見せ場とばかり派手な鎧をガチャガチャ響かせながら前に出た。
お前が出てどうする?
本来の立場として、お前には軍の指揮権も交渉権も無いだろ。
…まぁ、こいつが失敗するのなら、それはそれで良しか。
遠目では、王子の側に子供が一緒にいるのが見える。しかも女の子?。なんで最前線に子供を…と思ったのだが。
なにやらやり取りがあった後、その子供が前に出てきた。
パパパッ!
河に水しぶきが上がる。マナ術か? こんな速度で連射?
北のエルセニムの民でも、ここまでの能力のマナ術師はいないぞ。
と思っていたら、次は上流方向の離れたところにある中州で爆発が起きる。
ドカン! ドカン! ドカン! ドカン!
あんな威力のマナ術があるのか?! 陣の一部の兵が逃げ出している。
ネイルコード側の街に続く支流を堰き止めている堰に爆発が近づくと、堰を警備していた兵達も逃げ出したのが見えた。
踊るようにマナ術を連発する子供。そう言えば報告書には、巫女様は十歳くらいの少女だとあったな。あのとんでもないマナ術、間違いない、あれが巫女様なのだろう。
ドッコーンっ!
最後に、カプチャの命令で作らせた堰が爆砕される。…人足達と兵士達がかなりの手間をかけて作ったのだがな。一瞬で灰燼に帰した。
ネイルコード国と行き交う商人からの報告にあった、巨大な岩を一撃で破壊したマナ術。現実離れなその威力に眉唾物であったが、もうこれは信じるしかない。
あれをこちらの軍勢に撃ち込まれたら…抵抗することなども出来ずに、あっという間に全滅だ。
さすがにカプチャも、撤退を飲まざるを得まい…
と思ってたが。あの馬鹿、徹底抗戦を命じてきた。
当然反対するが。国への忠誠に命をかける気概はないのか! 赤竜教への信仰心はないのか! このまま逃げたら反逆罪だ! 郎党諸共で連座だ! と喚く。
…こ奴にそれが出来るかはともかくとして、あの宰相なら最悪やりかねない。見ていない人間に巫女様のあの力を説明したところで簡単には納得しないだろうし。敗戦の責任を誰かに取らせようとするだろう。
ここから逃げざるを得なかったと上に理解させるには、一度全滅して見せないといけないというわけか。八方塞がりではないか。
…いっそ、カプチャをここで始末するか。
赤竜騎士団…カプチャ達の自称だが、こいつらは侍従を含めても十人もいないし、今はなぜか四人だけだ。敵前逃亡とか、独断先行して自滅したとか、後から理由は付けられるだろう。実際、自分だけ逃亡する気は満々だろうしな。
決心して部下と目配せをする。…とそのとき、前線からの伝令が来る。
「巫女様が、本陣に直接交渉に訪れました!」
…この子が巫女様か。黒髪だが整った顔立ちの少女だ。肩につかまってるのが、小竜様か。小さいが、本当にドラゴンなのだな。
巫女様が投降してきたと喜ぶ馬鹿共。向こうの方が有利なのに、そんなことがあるわけないだろ。
巫女様の目的は、停戦の勧告。
ありがたい。赤竜神の巫女様の仲裁ともなれば、撤退の十分な大義名分となる。
…しかし、ここで馬鹿が激高する。馬鹿の部下に巫女様を捕らえさせようとするが、簡単にいなされる。
馬鹿が剣を抜いた!まずい!
「カプチャ卿!巫女様に何をする!」
私も剣を抜こうとするが。
「ぐぎゃぁぁーーっ!」
なんと。巫女様は馬鹿の持つ無駄に豪華な装飾の剣を素手で握り砕き、斬りかかってきた馬鹿の手首を砕き、返しで蹴られた馬鹿の膝を逆に折り曲げてしまった。これでは騎士としてはもう再起不能だろう。まぁもともと大して騎士としての能力も無い馬鹿だが。
「…オルモック将軍、あなたはどうされます?」
転がり叫んでいる馬鹿たちを尻目に、覚めた目で巫女様がこちらを見る。
「…この馬鹿…いや…軍監が失礼した。私が話を聞こう。」
交渉の場には、再度カステラード王子も参加していた。
国境線を三角州の中間に設定と、両軍の後退。ダーコラ国の面子については、ここから上塗りすればなんとかなるか。
巫女様については、ネイルコード国とは直接は関係ない独立した存在だということを文章にして、双方で確認するように求めてきた。
それでも、巫女様がネイルコード国と友好的なのは間違いないのだろう。出来れば我が国とも誼をと思うが、馬鹿のせいでその辺は台無しだ。王都に帰ったら、この辺の責任追求は成されなければならない。
なんと。馬鹿が斬りかかったことに関する抗議書も、巫女様とカステラード王子が連名で出してくれた。ありがたい。これがあれば、撤退しても馬鹿以外に累が及ぶことはあるまい。
軍の後退を始める。こちらの軍は、西へ戻るのに中州の河を複数越えていかなくてはいけない、早く動かねば。
カプチャ達は、治療もそこそこに縛られて、荷馬車に放り込まれている。巫女様からの抗議書がある限り、こやつはもう犯罪者だ。
万事安心とはまだならないが、なんとかなるだろう。
このくだらない出兵も終わりだ。
・Side:オルモック・タリサイ(ダーコラ軍将軍 伯爵位)
くそっ! 王都から付けられた軍監のカプチャがやりたい放題だ。なにが、巫女様をネイルコード国からお救いする聖戦だ。
だが。カプチャは宰相直属の監察部隊に属している。私の方が階級も爵位も上だが、こいつにあること無いことを報告されては、王都にいる家族にも危険が及ぶ。
戦の前の口上の現場に、ネイルコード国のカステラード王子が直々に出てきたようだ。
私も、最前列から少し下がったところで観察していたが。相手が王族ならば、カプチャでは格が不足するだろう。ここは私が出る必要があるか?と思っていたところ、カプチャが見せ場とばかり派手な鎧をガチャガチャ響かせながら前に出た。
お前が出てどうする?
本来の立場として、お前には軍の指揮権も交渉権も無いだろ。
…まぁ、こいつが失敗するのなら、それはそれで良しか。
遠目では、王子の側に子供が一緒にいるのが見える。しかも女の子?。なんで最前線に子供を…と思ったのだが。
なにやらやり取りがあった後、その子供が前に出てきた。
パパパッ!
河に水しぶきが上がる。マナ術か? こんな速度で連射?
北のエルセニムの民でも、ここまでの能力のマナ術師はいないぞ。
と思っていたら、次は上流方向の離れたところにある中州で爆発が起きる。
ドカン! ドカン! ドカン! ドカン!
あんな威力のマナ術があるのか?! 陣の一部の兵が逃げ出している。
ネイルコード側の街に続く支流を堰き止めている堰に爆発が近づくと、堰を警備していた兵達も逃げ出したのが見えた。
踊るようにマナ術を連発する子供。そう言えば報告書には、巫女様は十歳くらいの少女だとあったな。あのとんでもないマナ術、間違いない、あれが巫女様なのだろう。
ドッコーンっ!
最後に、カプチャの命令で作らせた堰が爆砕される。…人足達と兵士達がかなりの手間をかけて作ったのだがな。一瞬で灰燼に帰した。
ネイルコード国と行き交う商人からの報告にあった、巨大な岩を一撃で破壊したマナ術。現実離れなその威力に眉唾物であったが、もうこれは信じるしかない。
あれをこちらの軍勢に撃ち込まれたら…抵抗することなども出来ずに、あっという間に全滅だ。
さすがにカプチャも、撤退を飲まざるを得まい…
と思ってたが。あの馬鹿、徹底抗戦を命じてきた。
当然反対するが。国への忠誠に命をかける気概はないのか! 赤竜教への信仰心はないのか! このまま逃げたら反逆罪だ! 郎党諸共で連座だ! と喚く。
…こ奴にそれが出来るかはともかくとして、あの宰相なら最悪やりかねない。見ていない人間に巫女様のあの力を説明したところで簡単には納得しないだろうし。敗戦の責任を誰かに取らせようとするだろう。
ここから逃げざるを得なかったと上に理解させるには、一度全滅して見せないといけないというわけか。八方塞がりではないか。
…いっそ、カプチャをここで始末するか。
赤竜騎士団…カプチャ達の自称だが、こいつらは侍従を含めても十人もいないし、今はなぜか四人だけだ。敵前逃亡とか、独断先行して自滅したとか、後から理由は付けられるだろう。実際、自分だけ逃亡する気は満々だろうしな。
決心して部下と目配せをする。…とそのとき、前線からの伝令が来る。
「巫女様が、本陣に直接交渉に訪れました!」
…この子が巫女様か。黒髪だが整った顔立ちの少女だ。肩につかまってるのが、小竜様か。小さいが、本当にドラゴンなのだな。
巫女様が投降してきたと喜ぶ馬鹿共。向こうの方が有利なのに、そんなことがあるわけないだろ。
巫女様の目的は、停戦の勧告。
ありがたい。赤竜神の巫女様の仲裁ともなれば、撤退の十分な大義名分となる。
…しかし、ここで馬鹿が激高する。馬鹿の部下に巫女様を捕らえさせようとするが、簡単にいなされる。
馬鹿が剣を抜いた!まずい!
「カプチャ卿!巫女様に何をする!」
私も剣を抜こうとするが。
「ぐぎゃぁぁーーっ!」
なんと。巫女様は馬鹿の持つ無駄に豪華な装飾の剣を素手で握り砕き、斬りかかってきた馬鹿の手首を砕き、返しで蹴られた馬鹿の膝を逆に折り曲げてしまった。これでは騎士としてはもう再起不能だろう。まぁもともと大して騎士としての能力も無い馬鹿だが。
「…オルモック将軍、あなたはどうされます?」
転がり叫んでいる馬鹿たちを尻目に、覚めた目で巫女様がこちらを見る。
「…この馬鹿…いや…軍監が失礼した。私が話を聞こう。」
交渉の場には、再度カステラード王子も参加していた。
国境線を三角州の中間に設定と、両軍の後退。ダーコラ国の面子については、ここから上塗りすればなんとかなるか。
巫女様については、ネイルコード国とは直接は関係ない独立した存在だということを文章にして、双方で確認するように求めてきた。
それでも、巫女様がネイルコード国と友好的なのは間違いないのだろう。出来れば我が国とも誼をと思うが、馬鹿のせいでその辺は台無しだ。王都に帰ったら、この辺の責任追求は成されなければならない。
なんと。馬鹿が斬りかかったことに関する抗議書も、巫女様とカステラード王子が連名で出してくれた。ありがたい。これがあれば、撤退しても馬鹿以外に累が及ぶことはあるまい。
軍の後退を始める。こちらの軍は、西へ戻るのに中州の河を複数越えていかなくてはいけない、早く動かねば。
カプチャ達は、治療もそこそこに縛られて、荷馬車に放り込まれている。巫女様からの抗議書がある限り、こやつはもう犯罪者だ。
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