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第9章 帝国の魔女
第9章第009話 ロトリー国の王都ラスターナ
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第9章第009話 ロトリー国の王都ラスターナ
・Side:ツキシマ・レイコ
ロトリー国の王都ラスターナ。街割りの基本はエイゼル市と似ていますかね。
まず、町の中央の丘に、城壁に囲まれたお城…中央の建物に各種施設が並んでいるあたりは、ネイルコードの王城に似てますか。
お城として一つの建物がドカンと鎮座して、施政も王族の生活もまとめてそこで…なんてのはちと効率も悪いでしょうし、実際には希なのでしょう。
その周囲には、おそらく石かレンガで建てられたと思われる街。貴族街か富裕層の街ですかね? なぜここから見えるかというと、その周囲の壁がけっこう低いからです。
建物の一階分よりちょっと高いくらい。おもしろいのは、その壁が格子状になっているところです。
「あそこ、面白い壁ですね」
ラクーンなら通れるのでは?というくらいの格子上に石か煉瓦が組まれています。矢も穴から素通りしそうですし。戦争の防壁にしては心許ないです。
「あれは、ハーティーを想定した壁てす」
カララクルさん。が説明してくれます。
「壁の穴は、普通のロトリーなら通れます。たた、大きめのハーティーは通れませんし。あそこを通れる程度の小さいハーティーなら、私たちにも楽に対抗てきます」
結果。大きいハーティーは、目の前で小さい群れの一員が殺されるのを見るわけです。大型のハーティーは、あまり飛び上がったり壁を登ることは出来ないそうで。結果、あの格子に頭突っ込んでなんとか突破しようとするんだそうです。
「頭たけ出すハーティー、たたの的。よってたかって倒せる。そのうちハーティーは街に近つかなくなる」
トクスラーさんが槍を突く仕草をします。なるほど、資材も節約も出来て一石二鳥ですね。風通しも良さそうだし。
そして、学習したハーティーは、仲間が殺されるような場所には近づかなくなると。彼らも生きるための狩りです。狩りの都度、仲間が何匹も死ぬような狩りはしないということですね。この辺、大神と同じです。
「ハーティーか攻めてきたら、倒さない限り私たちも外に出られません。畑も外にあります。たから誘き寄せて狩るための仕掛けがあの壁てす。もっとも、この街かハーティーに襲われたことは無いです。ても、ここに最初に来たロトリー達は、真っ先にこの壁を作りました」
となると、もう八百年前の壁ですか。現在では、壁の外にも市街地が広がっています。
もうこの辺では、ハーティーを知らないラクーンの方が多そうですね。
馬車に併走して楽しそうに小走りしているセレブロさんを見ます。
なんだかんだで、セレブロさんにも長い旅行に付き合わせてしまいました。まぁマーリアちゃんとは切っても離せない仲ですし。私から見ても家族同然ですが。
「少なくとも、セレブロは退屈していないわよ」とはマーリアちゃんは言っていますけどね。
テッテテと歩きながら、彼女も異国の空気と風景を楽しんでいるように見えます。
ただ…
「街のロトリー達は、セレブロさん見てパニックにならないですかね?」
ネコ科ではありますが、見た目は銀色の巨大なオオカミです。ハーティーを知らないラクーンからすれば、恐怖の対象とならないでしょうか?
「セレブロさんは、白というより灰てすし。ハーネス付けてますから、野生動物とは思われないと思いますか…」
「多分、ほとんどのロトリーは、ハーティーと区別つかない。街につく前に、キュルックル様とマーリア様、背中に乗せた方がいい。皆安心する」
トクスラーさんのアイデアを採用することになりました。
王都に近づき、街並みの最外周に入っていきます。この辺は平屋の家が多いですね。庶民地区ってところですか。
ここで一端止まって。セレブロさんの背中に、アライさんとマーリアちゃんが乗ります。
アライさんが目立った方がいいだろうと言うことで、アライさんが前に。というより、マーリアちゃんが抱っこしているように見えますね。
セレブロさんのゴルゲッドも、普段使いの革製ではなく、銀で装飾されている豪華なバージョンに交換です。これで野生のハーティーと見られることは無い…で大丈夫かな?
あと。レッドさんもセレブロさんの頭に載っています。
…レッドさんも普段から連れ回していますけど。実はあまり目立っていないんですよねこの子。
赤竜神の眷属と言っていい見た目ですから、小竜神としっかり認識されれば驚かれますが。「赤いドラゴンの子」って、ぱっと見で驚くには現実味が薄いみたいです。余り騒がれなくてありがたいですけどね。
猫みたいに活発に動けばまた違うんでしょうが。基本大人しいですし。
王都中央に向かう道も結構整備されていて、馬車での移動にも問題ないです。道幅が広いのは、防火にも役立ちそうですね。
馬車は右側通行。そのさらに横をセレブロさんに歩いてもらいます。
さっそく見つけたラクーンがびっくりしています。目がまん丸です。ただ、慌てて逃げ出すとかは無く、呆然として見ていますね。
「思ったより、皆慌てないですね」
「ハーティーは、火筒のおかけで南の大陸で押さえ込まれています。かなり昔からなのて、この街てハーティーを見たことかあるロトリーはほとんといないてす。危機感もないてす」
火縄銃は、ごく最近の発明という訳では無いようです。
びっくりしてこちらを見ているラクーンにアライさんが手を振ります。とりあえず、パニックになるラクーンがいないので、成功ですかね?
街中を一行は進みます。
ここから見る分には、スラム的な場所も無いようです。港町のオラサクから出るときにも、そういう場所は見当たりませんでした。
壁の向こうの街並みと比較するに、ロトリーでも貧富の差はそれなりにあるようですが。エイゼル市と同じく、底辺で燻るしかない…という層は無さそうです。
『いい街並みですね。皆、穏やかな感じで』
『元来ロトリーは、何世帯か集まって巣を作ります。小さい巣だと十人くらいから、でかい巣だと千人なんてところもありますが。皆がその中で助け合って生きています。誰でも親はいますからね。故意に選択しない限り孤独になるなんてことはありませんので、極端な貧困もありません。皆、なにかしら巣に貢献しつつ生きています』
私の質問の意図を解してくれたカララクルさんが説明してくれます。人の言葉では難しかったのか、ロトリー語で話してくれました。
日本では核家族なんていわれてましたが。昔は家同士の横のつながりも強かったようです。そんな感じですか。
『個人の素行も巣で見られているわけですから、そうそう悪事に染まることもありません。治安もいいですよ』
両親だけでは無く、大勢の大人で一緒に育てる。学校的でいいかもしれませんね。
「巣ですか…レイコ殿の家みたいなものですかな?」
同乗しているネタリア外相の感想です。
エイゼル市の私の家が、二世帯プラス、私とレッドさんとマーリアちゃんとアライさんですからね。
元々は、私と親しい人たちの安全を考えての同居でしたが。今ではしっかり家族って感じです。なるほど、家というよりは巣ですか。
「なんか、エイゼル市が懐かしくなってきました」
「そうですね。春には戻りたいですね…」
件の格子状の壁の門を越えて。ゆったりカーブした大通りを進んでいくと。城壁が見えてきました。
先ほどの壁とは意匠が違います。
「あれは帝国時代の城壁てす。私たちかここにたとり着いたとき、朽ちた所以外は大した損傷か無かったのて、今も直しながら使っています」
「というと、千年前の壁ですか…」
ネタリア外相が感心しています。万里の長城が二千年前でしたから、石造りなら千年保ちますか。
土地の起伏に併せてで高さが変化しますが。最低でも五メートル、高いところは十メートルはありそうです。厚みもあって、上には胸壁が並ぶ本格的な城壁ですね。
同時に。これが必要となるような外敵も想像が出来ます。国同士の戦争とか、そういうのが想定された壁ですね。帝国とは、そういう時代の国だったのでしょう。
城壁の門を超えて。
ネイルコードの王宮と大差ない意匠の建物の前に着きます。
「馬車での移動、ご苦労様でした。ロトリー国王都ラスターナの王宮に着きましてございます」
カララクルさんが頭を下げました。
・Side:ツキシマ・レイコ
ロトリー国の王都ラスターナ。街割りの基本はエイゼル市と似ていますかね。
まず、町の中央の丘に、城壁に囲まれたお城…中央の建物に各種施設が並んでいるあたりは、ネイルコードの王城に似てますか。
お城として一つの建物がドカンと鎮座して、施政も王族の生活もまとめてそこで…なんてのはちと効率も悪いでしょうし、実際には希なのでしょう。
その周囲には、おそらく石かレンガで建てられたと思われる街。貴族街か富裕層の街ですかね? なぜここから見えるかというと、その周囲の壁がけっこう低いからです。
建物の一階分よりちょっと高いくらい。おもしろいのは、その壁が格子状になっているところです。
「あそこ、面白い壁ですね」
ラクーンなら通れるのでは?というくらいの格子上に石か煉瓦が組まれています。矢も穴から素通りしそうですし。戦争の防壁にしては心許ないです。
「あれは、ハーティーを想定した壁てす」
カララクルさん。が説明してくれます。
「壁の穴は、普通のロトリーなら通れます。たた、大きめのハーティーは通れませんし。あそこを通れる程度の小さいハーティーなら、私たちにも楽に対抗てきます」
結果。大きいハーティーは、目の前で小さい群れの一員が殺されるのを見るわけです。大型のハーティーは、あまり飛び上がったり壁を登ることは出来ないそうで。結果、あの格子に頭突っ込んでなんとか突破しようとするんだそうです。
「頭たけ出すハーティー、たたの的。よってたかって倒せる。そのうちハーティーは街に近つかなくなる」
トクスラーさんが槍を突く仕草をします。なるほど、資材も節約も出来て一石二鳥ですね。風通しも良さそうだし。
そして、学習したハーティーは、仲間が殺されるような場所には近づかなくなると。彼らも生きるための狩りです。狩りの都度、仲間が何匹も死ぬような狩りはしないということですね。この辺、大神と同じです。
「ハーティーか攻めてきたら、倒さない限り私たちも外に出られません。畑も外にあります。たから誘き寄せて狩るための仕掛けがあの壁てす。もっとも、この街かハーティーに襲われたことは無いです。ても、ここに最初に来たロトリー達は、真っ先にこの壁を作りました」
となると、もう八百年前の壁ですか。現在では、壁の外にも市街地が広がっています。
もうこの辺では、ハーティーを知らないラクーンの方が多そうですね。
馬車に併走して楽しそうに小走りしているセレブロさんを見ます。
なんだかんだで、セレブロさんにも長い旅行に付き合わせてしまいました。まぁマーリアちゃんとは切っても離せない仲ですし。私から見ても家族同然ですが。
「少なくとも、セレブロは退屈していないわよ」とはマーリアちゃんは言っていますけどね。
テッテテと歩きながら、彼女も異国の空気と風景を楽しんでいるように見えます。
ただ…
「街のロトリー達は、セレブロさん見てパニックにならないですかね?」
ネコ科ではありますが、見た目は銀色の巨大なオオカミです。ハーティーを知らないラクーンからすれば、恐怖の対象とならないでしょうか?
「セレブロさんは、白というより灰てすし。ハーネス付けてますから、野生動物とは思われないと思いますか…」
「多分、ほとんどのロトリーは、ハーティーと区別つかない。街につく前に、キュルックル様とマーリア様、背中に乗せた方がいい。皆安心する」
トクスラーさんのアイデアを採用することになりました。
王都に近づき、街並みの最外周に入っていきます。この辺は平屋の家が多いですね。庶民地区ってところですか。
ここで一端止まって。セレブロさんの背中に、アライさんとマーリアちゃんが乗ります。
アライさんが目立った方がいいだろうと言うことで、アライさんが前に。というより、マーリアちゃんが抱っこしているように見えますね。
セレブロさんのゴルゲッドも、普段使いの革製ではなく、銀で装飾されている豪華なバージョンに交換です。これで野生のハーティーと見られることは無い…で大丈夫かな?
あと。レッドさんもセレブロさんの頭に載っています。
…レッドさんも普段から連れ回していますけど。実はあまり目立っていないんですよねこの子。
赤竜神の眷属と言っていい見た目ですから、小竜神としっかり認識されれば驚かれますが。「赤いドラゴンの子」って、ぱっと見で驚くには現実味が薄いみたいです。余り騒がれなくてありがたいですけどね。
猫みたいに活発に動けばまた違うんでしょうが。基本大人しいですし。
王都中央に向かう道も結構整備されていて、馬車での移動にも問題ないです。道幅が広いのは、防火にも役立ちそうですね。
馬車は右側通行。そのさらに横をセレブロさんに歩いてもらいます。
さっそく見つけたラクーンがびっくりしています。目がまん丸です。ただ、慌てて逃げ出すとかは無く、呆然として見ていますね。
「思ったより、皆慌てないですね」
「ハーティーは、火筒のおかけで南の大陸で押さえ込まれています。かなり昔からなのて、この街てハーティーを見たことかあるロトリーはほとんといないてす。危機感もないてす」
火縄銃は、ごく最近の発明という訳では無いようです。
びっくりしてこちらを見ているラクーンにアライさんが手を振ります。とりあえず、パニックになるラクーンがいないので、成功ですかね?
街中を一行は進みます。
ここから見る分には、スラム的な場所も無いようです。港町のオラサクから出るときにも、そういう場所は見当たりませんでした。
壁の向こうの街並みと比較するに、ロトリーでも貧富の差はそれなりにあるようですが。エイゼル市と同じく、底辺で燻るしかない…という層は無さそうです。
『いい街並みですね。皆、穏やかな感じで』
『元来ロトリーは、何世帯か集まって巣を作ります。小さい巣だと十人くらいから、でかい巣だと千人なんてところもありますが。皆がその中で助け合って生きています。誰でも親はいますからね。故意に選択しない限り孤独になるなんてことはありませんので、極端な貧困もありません。皆、なにかしら巣に貢献しつつ生きています』
私の質問の意図を解してくれたカララクルさんが説明してくれます。人の言葉では難しかったのか、ロトリー語で話してくれました。
日本では核家族なんていわれてましたが。昔は家同士の横のつながりも強かったようです。そんな感じですか。
『個人の素行も巣で見られているわけですから、そうそう悪事に染まることもありません。治安もいいですよ』
両親だけでは無く、大勢の大人で一緒に育てる。学校的でいいかもしれませんね。
「巣ですか…レイコ殿の家みたいなものですかな?」
同乗しているネタリア外相の感想です。
エイゼル市の私の家が、二世帯プラス、私とレッドさんとマーリアちゃんとアライさんですからね。
元々は、私と親しい人たちの安全を考えての同居でしたが。今ではしっかり家族って感じです。なるほど、家というよりは巣ですか。
「なんか、エイゼル市が懐かしくなってきました」
「そうですね。春には戻りたいですね…」
件の格子状の壁の門を越えて。ゆったりカーブした大通りを進んでいくと。城壁が見えてきました。
先ほどの壁とは意匠が違います。
「あれは帝国時代の城壁てす。私たちかここにたとり着いたとき、朽ちた所以外は大した損傷か無かったのて、今も直しながら使っています」
「というと、千年前の壁ですか…」
ネタリア外相が感心しています。万里の長城が二千年前でしたから、石造りなら千年保ちますか。
土地の起伏に併せてで高さが変化しますが。最低でも五メートル、高いところは十メートルはありそうです。厚みもあって、上には胸壁が並ぶ本格的な城壁ですね。
同時に。これが必要となるような外敵も想像が出来ます。国同士の戦争とか、そういうのが想定された壁ですね。帝国とは、そういう時代の国だったのでしょう。
城壁の門を超えて。
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