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ホタル

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2章

とある昼下がり

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優しい日差しの午後になると、リヨンは、いつもミズキの書斎にやってきて、「ミズキ様、今日は、兄から、一本取れたんですよ」とか、「ミズキ様、今日は兄に叱られました」とか、毎日の何気無い事を、話してくれる。

本当に、リヨンは良い子に育ってくれた。
ミズキは、うんうんと、頷いた。

でも、リヨンが来るのは、話をする為だけではなかった、ちゃんと、『おやつ』と言う魅力的な物が、ミズキの手で作られるのを楽しみにしている。
「ミズキ様、今日のおやつは何ですか?」
「今日はね~簡単だけど、とってもおいしい、プリンにしてみたの?リヨン好きでしょう?」
「ハイ、ミズキ様」
美味しそうに食べるリヨンを横目に、グレンが、苦虫を潰したような顔で、こっちを見ている。
「オイ、リヨンを甘やかすな!」
「甘やかしてなんていないわよ」
「甘いものを、やっているだろう」
「剣の運動したら、甘いものが必要になるのよ、筋肉バカにはわからないでしょうけど!」

グレンの額に、青筋が浮くのが見える。
グレンは、ミズキに何か言おうとして止めた、そして、リヨンに向かって、「リヨンも、いい加減にしなさい」
「はい、兄さん・・・ごめんなさい」小さな子犬のようにうなだれる。
「ちょっと、リヨンに当たらないでくれる、私に口で負かるからって、今度は弱いものいじめ?」
ため息をついて「・・・・俺は、外に見回りに行ってくる・・・」
「ミズキ様は、兄さんが嫌いなんですか?ミズキ様は、僕には優しいけど、兄さんには冷たいから・・・・」
しまった、こんな小さな子に、変な気を使わせてしまった。
「そんなことは無いのよ、リヨンは気にしないで、おやつを食べてね・・・私はグレンと、仲直りしてくるからね」
そういって、ミズキは、グレンの後をおって、庭に出た。
「グレン」
「・・・・・・」
「ねえ、グレン」
「・・・・・」
「待ちなさいよ」
「・・・・・・」
「命令よ、待ちなさい」
「なんだ、何の用だ」

命令といって、やっと止まった。
「用があるから呼んでるのよ」
「だから、何の用だ」

ミズキは深呼吸をして、「酷いことを言ってごめんなさい」と言って、頭を下げた。

「・・・・・・・・・」
「ちゃんと誤ったんだから、何か言いなさいよ」
「今度は、何の嫌がらせだ」
コイツ人が、ちゃんと、頭を下げたのに、嫌がらせと、言いやがった・・・・。
でも、落ち着けミズキ、ここでまた喧嘩したら、リヨンが悲しむ。
「リヨンに、悲しい顔を、させちゃったのよ」
「そんな事で、わざわざ、謝りに来たのか?」
グレンは、心底驚いているようだった。
そんなに、私が、頭を下げるのが、不思議か?
「そうか・・・確かにリヨンが悲し顔を見るのは忍びないな」
「そうでしょう、リヨンは、笑っている顔が一番似合っているわ」
「ああ、そうだな、笑い顔が一番だな」

リヨンの事だけは、グレンと意見が一致する。
ミズキは、ニッコリとグレンを見て笑った。
グレンはというと、惚けてミズキをみていたが、すぐに視線をそらして、「謝罪は、受け取った、俺はこのまま、見回りに行ってくる」といって、ミズキからはなれていった。

「謝罪を受け取ったなら、プリンを食べなさいよ~」グレンの背中に向かってさけんだ。

グレンは、片手をあげて「あぁあ、分かった、分った」

※※



それからしばらくして
グレンと一緒に、『ミズキ様を守るんだ』と言ってリヨンが、兄のグレンに剣を習い出した。
そんなリヨンを微笑ましく思う。
その内に、メキメキとリヨンは、剣の腕のを上げていき、剣の筋も良いらしく、最年少で、大会に出る事になった。

「すごいわ~リヨン、ほんとすごいわ~」
ミズキは自分の事のように、喜んだ。
「ミズキ様、あの、お願いがあるんです」
珍しく、リヨンが言い淀んでいた。
「?ん?どうしたのリヨン」
「あの・・・明日、何ですが・・」
「明日が?なに?・・・」、
何が言いたいのか、ますます解らない。

「僕の試合を見にきてほしいんです。ダメですか?」
「・・・・いいわ・・その代わり、一番にならなきゃだめよ!今日はもう、遅いから寝なさい」
「ありがとうございます。ミズキ様、明日頑張りますね、兄さん!ちゃんと見てねぼく、一番になるよ、それじゃあ、ミズキ様、兄さんお休みなさい。」

ふだん、物静かなリヨンが、階段を駆け上がっていった。
「よっぽど、嬉しいのね、貴方が来てくれるの・・・明日は休みよ、リヨンに付いて行ってあげて」

「・・・・断る」

「は?」

「だから。断る」

「リヨンが楽しみに、しているじゃない」

「リヨンが楽しみにしているのは、あんたに来てもらえるからだ、俺じゃない」

「そう?そうだったら、嬉しいけどね・・・それでも、貴方は行くのよグレン」

「断る、俺の仕事の条件は、あんたの護衛だ、まかりなりにも、脅されて、あんたの護衛を引き受けたんだ、それ以外の命令は、聞く必要が無い」

「これは、命令では無く、お願いよ!あっ頭、悪いんじゃ無い?この筋肉バカ!」
ふんと、ミズキは鼻を鳴らしてソッポを向いて「寝る」と言って部屋を出ていった。

1人残されたグレンは、ため息をついた。
これが、『氷の貴婦人』の正体だ。
黙っていれば、そこそこ、美人なのに、口を開くと美人が台無しになる。8割減といったところか?
まあ、王宮では、陛下以外、誰とも喋らないから、彼女の口の悪さがバレない理由の1つでもある。

ミズキは、陛下に対しても、「あんたバカじゃ無い?」とか「一回死んでこい」とか言って、陛下は、苦笑いをしている姿を見る。良くこの態度で、陛下から、不敬罪の罪に問われなのが、不思議でしょうがない。





~~~~~~

ミズキは、自分の寝台に入っても、なかなか寝付けなかった。
剣の大会は、ダリル達の住んでいる家に、とても近い・・・行けるわけがない。
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