引きこもり☆新婚生活

十 的

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 俺はうささんを頭の上に乗せて、いざ外に出た。
 待て。なぜ頭の上にウサギが乗っている?
 いや、ダメだ。これ以上考えてはいけない。今は外を歩くことに全集中するのだ。
 さてここは、住宅街か? 家ばかりだ。
 人が通らないかビクビクしながら、端を歩く。うう、緊張する。怖い。でも、うささんも一緒だし、まだなんとか耐えられる。
「ああー、いいっすねー外。風も気持ち良いし、お日様もポカポカ。家の中とはまた違った良さっすよー」
「そうか。うささんが上機嫌なら、良かった」
 うささんはどうやら外の散歩も好きらしい。俺の頭上から全く動かないが、それでもいいようだ。
「あ、清太。この先丁字路みたいですね。折角なので右に曲がりましょう」
「了解」
 うささんの指示通り右に曲がる。これ、迷子にならないよな?
 大丈夫だろう、たぶん。
 そのまま歩くと、国道っぽい道に出た。お店がいっぱい並んでいる。
 車通りも多い。なんだか居づらいなあ。
「うささん。そろそろ戻ろうか」
「何言ってんですか清太。まだ五分も経ってないですよ。それに、まだ良き風景とも出会っていません。私は更なる散策を希望します」
「はい」
 大人しくうささんに従う。そうして歩いていると、すぐそばに車が止まった。
「ねえ、そこのお兄さーん。ちょっと私と子作りしないー?」
 何かと思えばナンパか。
 俺は無視する。すると後ろで音がして、何事かと思うと女性が車から降りてきていた。
「折角男が目の前にいるんだもの。捕まえなきゃ!」
 い、いけない。美人の女性から鬼気迫るものを感じる!
「に、逃げるぞうささん!」
「清太、頑張ってくださいー。私は上から応援してますのでー!」
「ちょっとは軽くなるからおりろ!」
 俺、ひたすらダッシュ。すると、すぐ疲れたけど、女性からは逃げられた。
「ぜえ。ぜえ。なんとか、なった」
「清太、よくやった。流石は私が見込んだ男だ!」
「結局、俺の上からどかなかったね。うささん」
「うん」
 俺はそこで立ち止まり、あたりを見回す。
「結局走っちゃったけど、元の道へは戻りづらいよなあ。どうにかして家まで帰れないかなあ?」
「おや、もう帰るのですか、清太」
「うん。だって、疲れたし。外はもうこりごりだよ」
「まあまあそう言わず。私へのご褒美だと思って、もう少しお散歩しましょうよ」
「いや、もうダメ。家に帰る。部屋でじっとする」
「はあ、そうですか。だったら、私の言う通り歩いてください。そうすれば私の嗅覚で、家まで無事に帰してあげましょう」
「本当か、うささん。助かる」
「ではまずはあっち」
「うん」
「そのまままっすぐ」
「うん」
 歩いていると、また近くで車が止まった。
「あら、あなた男じゃない? ねえ、私といいことしない?」
 ああ、またダッシュだ!

 もう完璧に疲れたと思った時、目の前に公園が現れた。
「おお、ここですここ。さあ、ここで一休憩しましょう」
「うささん、お前まさか、俺を騙したな?」
「やだなあ、人聞きの悪い。ちゃんとお家までご案内してさしあげますよ。その前に、公園で思い出作りです」
「はあ。わかった。もう、とことん遊べ。うささん」
「やったー! わーい!」
 うささんは俺の頭上からとびおり、公園へと駆けて行った。
「今頃おりるのかよ。あのウサギ」
 まあ、いい。しばらくここでゆっくりしよう。ベンチでもないかな。ペンキぬりたてじゃないやつ。

「ひゃっほー!」
 うささんは滑り台で遊んでいた。あれ何十回もやっているぞ。飽きないのか?
 そして俺は近くのベンチで一休み。幸い今は、誰もいない。ふう、落ち着く。
「滑り台たっのしー!」
 うささんは元気だ。そして幸せそうだ。だから、まあいいか。今回の目的としては合っている。
 家にも、たぶん、頑張れば帰れるだろう。自分の足でここまでこれたのだ。きっと帰宅は不可能ではない。うささんも鼻が利くと言っているし、無事帰れることを祈る。
「あら?」
 そしてぼーっとしていると、俺は人の気配に気づくのに遅れた。緑色の髪の、眼鏡をかけた女性が、ベンチに座る俺の近くで立ち止まったところを、ようやく目撃する。
「あっ」
「こんにちは」
 女性は笑顔でおじぎした。俺もおじぎし返す。
「こ、こんにちは」
「お散歩ですか? それとも日向ぼっこ?」
「さ、散歩です。あそこにいるウサギ、俺のとこのです」
「え、ウサギ?」
 女性はそこで初めて、滑り台で遊ぶうささんに気づいた。
「わあ、ウサギが滑り台で遊んでる。珍しい。写真撮っちゃお」
 そこで女性がスマホを構え、そこでまた俺に視線がむく。
「あの、おたくのウサギさん、写真撮ってもいいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。では」
 女性がそう言って、うささんに近づく。
「!」
 その時、うささんは滑り台の上でピンと耳をたてて、女性の方を向いた。次の瞬間、滑り台をすべったっきり遠くへと行ってしまう。
「あらら。怖がらせてしまいました」
 女性はそう言ってから、俺の方に戻って来た。
 俺、ちょっと緊張する。
「あの、少しお時間、いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「あなた、この星の方じゃないですよね。ひょっとして最近見つかったという噂の、地球人?」
「はい。そうです」
「まあ、やっぱり。お写真撮らせていただいてもよろしいですか?」
「ああ、はい」
 俺は女性に写真を撮られた。俺の写真なんて、いらないと思うけど。
「あ、よければお名前をお聞かせください。私の名前は、シュミーです」
「俺は、清太です」
「清太さん。ふふ、ステキなお名前ですね」
「どうも」
「隣に座っても、よろしいですか?」
「あ、はい」
 シュミーが俺の隣に座る。俺は出来る限り、シュミーから離れる。
「清太さんは私のこと、お嫌いですか?」
「い、いえ」
 そもそも、会ったばかりだし。
「では、私ができるだけ、清太さんに近づいても?」
「あ、あの、俺、もう妻がいますから」
「はい、そうですか。でも、オールガール星人にとって男は引っ張りだこです。男の又貸しなんて、しょっちゅうですよ?」
 シュミーがそう言って、俺に近づく。
 そして、耳元でささやいた。
「あなたさえよければ、私に赤ちゃん恵んでくださらない?」
「!」
 俺は思わず、立ち上がり、ダッシュで去る。
「し、失礼します!」
 俺は立ちあがり、走り去ろうとする。しかし俺の手はシュミーにつかまれてしまった。
「あらやだ、いきなり立ち去ろうとするなんて、私傷ついてしまいます。そんなに私は、可愛くないですか?」
「す、すみません。でも、俺、ネーリのことしか、愛してないので」
「ネーリ?」
「本当に、失礼します!」
 俺はシュミーの手を振り払い、ダッシュした。
「あら、行っちゃった。けど、可愛かったあ。それに、まだ私の胸、ドキドキしてる。清太さん、かあ。ふふっ」

 はあ、危ない危ない。シュミーも落ち着いた雰囲気だったけど、俺の遺伝子目当てだったな。
「やあやあ、清太。ちゃんとあの女から逃げられましたな。よくやったとほめておきます」
 いつの間にか、俺の足元にうささんが戻ってきている。
「ああ、びっくりした。うささん。もう帰ろう。ここも危険だ」
「仕方ありませんなあ。まあ、結構楽しめたから、いいですよ。よっと」
 うささんは俺の足にひっついて、よじ登ろうとする。
「こら、うささん。もうお前の足は汚いだろ。自分で歩け」
「ちぇっ。清太のいじわる」
「じゃあ今晩はごはん抜きか?」
「ああ、うそうそ。清太大好きー。超性格良いー!」
「まったく」
「さあて、そうと決まれば。清太、道案内は任せてください。まずはこっちです!」
「ああ、うん」
 うささんは確かに俺が来た方向へと誘導してくれるけど、なんだろう。少し疑ってしまう。
「うささん、今度こそ家につく?」
「もちろんうさ。私を信じろ!」
「まったく。調子だけはいいなあ」
 その後、なんとか俺は家に帰ることができた。
「よっし。到着ー!」
「おお、うささん。本当に帰れて少しびっくりだ」
「ほら、ご褒美になでろうさ」
「よしよし」
「うさうさー。あと、動いてお腹空いたからお昼ごはんいっぱい食わせろプリーズ!」
「わかったよ」

 俺はタブレットのインターネット検索機能を使って、ジュエルラビットに関する情報を調べた。
 すると、驚くべきことが判明した。
「ジュエルラビットって、食用なのか」
「うさ?」
 俺は無垢な顔を向けるうささんをなでる。
「肉は美味。額の宝石は高価。毛はコートに使われる。しっかりと育てられれば、一気に数百万稼げる。か。そうか。うささん納品したら、素材にされちゃうのかあ」
「あれ、思ったより私の寿命って残り少ない?」
「でも、納品するまでが仕事だしなあ。これがうささんの運命、と割り切れる程、俺もなんとも思わないわけじゃないけど」
「だったら話は簡単だ。このままずっと私を飼えばいい」
「そうしたいのはやまやま、なのかなあ。うーん、それもどうかと」
「あれ、思ったより私、愛されてない?」
「結局、俺は何か仕事をしないといけないんだよ。それがこの家にいられる最低条件だとも思う。でも、折角一緒に暮らしたうささんを殺したくもない」
「そううさ。もっと私を大切に扱えうさ!」
「うーん。そうだなあ。ん、いや、待てよ?」
 もともと、ウサギは需要が高いと思われる。ネーリだって好きだったくらいだ。飼いたい人はいるだろう。
 そこに、こじつけでも、付加価値をつけるっていうのはどうだ?
「よし。ものは試しだ。かけあってみよう」
「よくわからないが、やれ、清太」
「うささん。俺、ちょっと頑張るよ」
「うん。ちょっとだけでも、私、うれしい」
 俺は最後に少しうささんの頭をなでてから、タブレットのメール機能を使った。

 ジュエルラビットの飼育を終えたいと思います。
 ジュエルラビットの額の宝石が、1センチまで育ちました。
 ですが、ジュエルラビットについて確かめたいことがあります。
 ジュエルラビットを飼っている間に、私は外に出て、ウサギを散歩させようと思いました。
 ですが私は引きこもりです。普段は外に一歩も出ない人間です。
 これは、ありえない事態なのではないでしょうか?
 もしかしたら、ジュエルラビットには飼い主の気分を変える、リラックス効果のようなものがあるのかもしれません。
 もしその効果を確かめるために、こちらのジュエルラビットで実験してもらい、更に可能であればリラックス用のウサギとして使われるのであれば、私は喜んでジュエルラビットを引き渡し、更に新しいジュエルラビットの飼育を続けたいと思います。
 ですが、可愛いジュエルラビットが食用肉等にされてしまうようなら、私は妻と相談して、ジュエルラビットを飼いウサギとして引き取りたいと思います。
 どうか、ご考慮ください。

「よし。こんなもんか」
 俺はメールを送信する。
「うささん。俺の希望通りになれば、うささんはこれからも生きられるよ」
「何、本当。流石は清太だ。頼もしい。正に私の守護神!」
「良かったね。俺に出会えて」
「うん」
 俺はまたうささんをなでながら、ぼーっとするのを始めた。
 すると夕方になる前くらいに、この家に客が来た。

「こんにちは。私はジュエルラビットファームの社員、ウエル・コルカムです」
 おっかなびっくり出迎えてみたら、金髪に逆三角形眼鏡装備の、ミニスカスーツ女性が玄関前に立っていた。
「はあ、どうも」
「失礼ですが、まず、宝石が1センチまで成長したジュエルラビットを見せてください」
「はい。わかりました。でも、その前に。あなたはうささんを生き永らえさせてくれるんですか?」
 俺がそう訊ねると、ウエルは真顔でうなずく。
「はい。私共もジュエルラビットの価値を上げるチャンスがあるのならば、喜んで尽力したいと心がけます。あなたの案を会社で、検証させてもらいます」
「そうですか。それでは、よろしくお願いします」
 俺は頭を下げてから、部屋で待っているうささんを迎えに行った。
 持って来たうささんの額に、ウエルが定規をあてる。
「むむ。これは、1センチ5ミリですか」
「あれ?」
 朝より大きくなってる?
「ではあなた、お名前をお聞かせください」
「うささん」
「うささん。あなたはジュエルラビットに何をしたのですか?」
「あ、うささんはウサギの方です。俺は清太です」
「ごほん。失礼。清太。基本ジュエルラビットは、全く宝石を額に生まないし、成長もさせません。努力して宝石を額に出せたとしても、どんなに早くても三日は必要なのです。それなのにあなたは、三日で宝石を1センチ5ミリにまで成長させました。これは、どういうトリックなのですか?」
「え、あの、えっと」
 やばい。ウエルの威圧感がちょっと辛い。
「清太、落ち着くのだ。私のために頑張れ」
 その時うささんにそう言われ、自然と俺は落ち着くことができた。
「うん。ありがとう。うささん」
「?」
 俺は、うささんに話しかけている俺を見て、不思議そうな顔をするウエルに、ちゃんと説明する。
「ウエル。俺は本当に、うささんに特別なことはしていません。強いて言うなら、うささんは俺の匂いが好きなことと、俺に毎日なでられていることくらいです」
「匂い?」
 ウエルは俺に顔を近づけると、くんくんと鼻を動かして、それから顔を赤くした。
「まあ、オスの良い香り。じゃなくて」
 しかしすぐに、表情をひきしめる。この人、他の女性達と違うな。好印象だ。
「清太。もしあなたの言っていることが確かなら、私達は更なるあなたの協力を求めます」
「というと?」
「あなたの匂いをください」
 これは、セクハラ?
「あなたの匂いがあれば、ジュエルラビットの宝石を大きくさせやすくすることができるかもしれないのです。お願いです。試しに、今あなたが着ている服を全部ください」
「ぜ、全部、今?」
「はい。そのかわりに私達は、あなたが飼育したジュエルラビット全てを寿命で永眠させることを誓います。あなたが起こした奇跡には、それだけの価値があるのです」
「き、奇跡って」
 なんだか大変なことになってしまったぞ。
 更にウエルは、俺なんかに頭を下げた。
「お願いします、この通りです。この計画が上手くいけば、あなたに追加報酬をあげることも約束します!」
「追加報酬」
 それは、良いんじゃないか?
 お金が予想以上に手に入るなら、ネーリも喜ぶだろう。
 ええい、折角相手がこう言ってくれているんだ。ここは、のれ、俺!
「わかりました。そこまで言うのなら、協力します」
「わかっていただけますか。ありがとうございます清太!」
 ウエルは満面の笑みになって喜んだ。
「それでは、早速服を脱いでください。ああ、なんならついでに私と子作りしてもよいですよ?」
「いいえ、ひとまず着替えてきます」
 やっぱりこの人も肉食獣だったか。
 そして俺は、慌てて着替えて、脱いだばかりの服をウエルにあげた。

「確かに。清太の服とうささんをお預かりしました」
 ウエルがうやうやしく頭を下げる。
「それでは、よろしくお願いします」
「そして、こちらが新しい飼育用のジュエルラビットです」
「え?」
 虚をつかれた直後、俺はウエルに二つのケースを見せられる。
 そのどちらにも、ウサギが入っているようだった。
「おーい、早く出せー!」
「狭いんだよここよー!」
 しかも、こちらの二羽の言葉もわかってしまう。
「では、よろしくお願いします」
「あ、あの、ところで、ジュエルラビットの言葉がわかる人って、います?」
「? そんな人、世界中のどこを探してもいませんよ?」
「そう、ですか」
 そうか。
 なら、このことは黙っていよう。
「ああ、忘れるところでした。これがジュエルラビットの飼育報酬、百万です」
 そして俺は、ウエルから札束をもらう。
「わあ、こんなに。ありがとうございます」
「それでは今後も、ジュエルラビットの飼育をよろしくお願いしますね。清太」
 ウエルはそう言って投げキッスをすると、玄関にジュエルラビット二羽を放った後、帰っていった。
「うおー、どこだここー!」
「おお、こいつから良い匂いがするぞー、くんかくんかー!」
 俺はひとまず、片手ずつ使ってジュエルラビット二羽を持ち上げる。
「ひとまず、お前はうさいちで、お前はうさにだ。よろしくな」

「と、いうことがあったんだ」
 俺はネーリ、ウサギ二羽と一緒にごはんを食べながら、今日の出来事を語った。
「ふうん。そんなことがあったんだあ。とにかく、うささんがすぐ殺されなくて良かったね!」
「うん」
「そして、こっちが新しい家族かあ。うさいち、うさに、よろしくね!」
「うるせー、女なんかお呼びじゃねえんだよー!」
「もっとニンジンよこせー!」
 まあなにはともあれ、俺の内職が上手くいって良かった。
「うさに、ごはんはそれまで。量を制限するのも大事なんだよ」
「ええーっ。ていうかやっぱり、お前俺達の言葉がわかるのかー?」
「お前すげえなー。じゃあお前をウサギとして認めてやるよー」
「いいや、俺はウサギにはならない」
「? 清太がウサギの格好したら、可愛いかもね!」
 ネーリは相変わらず、笑顔がステキだ。
 まあ、そう言う俺は、もうネーリに食べられた後なんだけどね。
 なんて思ってないで、ごはん食べよ。
「あ、そういえばネーリ、もらった百万はどうする?」
「んー。ひとまず半分だけもらうね。後の半分は清太が好きに使ってー」
「でも俺、出かけたりしないよ」
「ネット通販があるじゃん。それに、お金が必要なこともあるだろうし、ひとまず持ってなよ!」
「ああ、うん」

 それから三日後。
「うさいちとうさにも、宝石が1センチになったな」
 調べてみたら二羽の額の宝石が1センチに。うさいちの宝石が黄色で、うさにの宝石が青色だ。
「一応引き渡しのメッセージ出しとくか」
 メールを打って、後はいつも通り、うさいちとうさにの頭をなでながらぼーっとする。すると少し経ってから、メールが送られてきた。
 メールの内容は、ジュエルラビットの引き渡しを一週間後にするという報せだった。
 なんでも、更に俺が飼育したら、ジュエルラビットの宝石の成長がどれくらいになるか見てみたいらしい。納品日を遅らせることで報酬を上乗せしてくれ、更に宝石の大きさによって追加報酬も検討するそうなので、大人しくその時を待つ。
「うさいち、うさに、あと一週間だけ一緒にいような」
「ええー、やだー。俺ずっと清太と一緒にいるー!」
「清太の匂いから離れたくないー。すんすんすんすんすんー!」
 ただウサギをなでるだけの仕事と言ってもいいので、毎日楽だ。
 と思っていたら、三日に一度、半日以上着た私服をジュエルラビットファームに送ってほしいという依頼もくる。この依頼の報酬もそれなりに高い。
 だが、俺は引きこもりだ。そんなことできるはずもない。
 なので相談したら、ネーリが毎朝郵便局に行って俺の服を送ってくれるということになった。ありがたい。
 こうして俺は、ちょっとは忙しいけど、それなりに快適なひきこもり生活を楽しんだ。

 ある晴れた日。うさいちとうさにの納品日がきた。
「清太。ジュエルラビットを引き取りにきました」
 ウエルの声だ。まあ知り合いの方が、会いやすいか。
「はーい。うさいち、うさに、行こう」
「いやいや、もっと清太といるー!」
「清太ー、俺達を捨てないでー!」
「俺も寂しいけど、約束だからね」
 俺はウサギ二羽を抱きかかえながら、玄関に行く。
 そしてウエルに二羽を見せると、ウエルは目を見開いて驚いた。
「お、大きい、ステキ!」
「ええ、俺も驚きました」
 なんとうさいちとうさにの宝石は、9センチにまで大きくなっていた。
 更に宝石が大きくなるにつれ、ウサギの体自体も大きくなっていた。
 今では本当、持ち上げるのも一苦労だ。
「これだけ大きければ、大金の値がつきますわ」
「そう言っていただけると、何よりです」
「確か9センチの宝石の引き取り値は、2憶だったかしら」
「へ?」
 2、2憶?
 ていうことは、1億が二つ、いや二羽だから四つ?
「そ、そんなにもらえません!」
「いえ、しかしこれは規則です。絶対に払わせていただきます。ただ、用意するのにしばらくお時間がかかります。ひとまずは事前に二千万まで用意させていただきましたので、そちらをお納めください」
「は、はい」
 そう言われて、ぽかんとしながらもうなずく。
 二、二千万が、簡単に手に入っちゃった。
 俺はただウサギ達とぼーっとしてるだけなのに、どうなっているんだ?
「ではひとまず、ジュエルラビット二羽をお引き取りします」
「はい」
「あー、清太ー!」
「なんでだー、何で俺を手放すんだー!」
「大丈夫だよ、うさいち、うさに。新しい家でも、上手くやっていけるさ」
 俺は育てた二羽が見えなくなるまで、手を振ってやった。そしてウエルだけが戻ってくる。
「清太様。こちらが二千万です」
 うわ、なんて分厚い封筒だ。
 ていうかウエル、俺のことを様扱いし始めたな。まあ、気にしないけど。
「あ、ありがとうございます」
「それと、清太様。これからすぐにカードを作ってください。今後はそこにお金を振り込みます。ああ、それとも、こちらで用意しておきましょうか?」
「あ、ああ。たぶんその方が助かります」
「承りました。そしてこちらが、新しいジュエルラビットです」
「あ、どうも」
 今回は、3羽か。じゃあ、うささん、はもうつけたから、うさし、うさご、うさろくだな。
「それでは後日、また連絡します」
「はい」
 こうして俺の成果は、予想の斜め上をいった。
 ジュエルラビット、おそるべし。

 ウエルが帰って、ウサギ3羽を交互になでながらぼーっとしていると、夜になってネーリが帰って来た。
「ただいまー清太ー!」
「おかえり、ネーリ」
「えへへー清太ー。今日もくたくたー。お帰りのチューして?」
「はい。ちゅ」
「ちゅ。やった。えへへっ。元気回復!」
「ああ、そうだ。ネーリ。今日ウエルっていうジュエルラビットを扱っている会社の人が来て、うさいちとうさにを引き取ったよ」
「あ、そっか。もうそんな時期かあ。じゃあ今うちには、また新しいウサギさんがいる?」
「うん。いるよ。でもその前に、うさいちとうさには、本来なら二億ずつで引き取るって言われた」
「二、二億!」
「でもそんな大金は用意できないから、また後日用意するって。あと、今後俺の大金を簡単に入金できるように、カードを作ってくれるって言ってくれた」
「ふーん。それはたぶん、良かったね?」
「う、うん」
「それじゃあ清太は、もう超お金持ちなんだ」
「いや、もらえる半分はこれまで通り、ネーリにあずかってもらうよ。それを生活費にして」
「え、でもそんな大金、もらえないよ!」
「でも俺の妻は、ネーリだから。それに俺は、ウサギの飼育しかできないし」
「んー、わかった。じゃあ、貯金する!」
「貯金?」
「そう。貯金しておけば安心でしょ。もしもの時のために備えよう!」
「うん。ありがとう、ネーリ」
 ネーリは、大金が手に入るって聞いても、これまで通り変わらないんだな。
 ネーリは凄い。
 俺はこんな凄いネーリに、愛想をつかされないようにできるだけ頑張ろう。
 まあ、俺はウサギを飼うことしかできないんだけどね。
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