幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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夢か現か

歴史は自分の手で作る

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   それから数日後。千香は友達に誘われて母校に来ていた。部活の後輩やお世話になった先生に会いたい、という理由で連れて来られてきたは良いものの。千香自身は高校時代、特に部活に入っていた訳でもなく。ただひたすら部活や行事に身を燃やす同級生らを傍目に、どうしてこんなにも熱くなれるのか。と冷めた目で見ていた記憶しかない。しかし冬に新選組や幕末を好きになってからは、その気持ちが分からなくもなかった。けどそれも卒業直前になってようやっと分かった気持ちだったので、これがもっと早く分かっていればと悔やんでも悔やみきれなかった。何だか貴重な青春を無駄に過ごした様な、もやもやを抱えたまま卒業してしまったのだ。
   友人は部室に行って来ると千香を置いて、グランドの方へ向かってしまった。さてどう時間を潰そうかと日陰の涼しい道をぶらぶらしていると、剣道部の集団だろうか。胴着に袴姿の男子生徒がぞろぞろと歩いてきた。

「暑い!こんな暑いのに胴着着て練習とか顧問ほんまに頭おかしいわ! 」

「ほんまよ!稽古場にクーラーつけて欲しいわ!! 」

「おい魁虎!東京もこんなに暑かったん? 」

「うーん。東京は湿気が多かった。こっちの方が大分過ごしやすいと思う。 」

皆口々に暑さを嘆いており。その中には魁虎の姿を見とめ。

「やば。逃げな。 」

丁度今から来ようとしているのだろう、手洗い場に寄りかかっていた千香は、魁虎との遭遇を避けるべく校舎の中へと駆け込んだ。



















   「はあ、はあ、はあ...。な、何でよりにもよってこの高校なんよ。転校してくるの。 」

千香は胸に手を置いて、呼吸を整えようとした。しかし心臓の音と相まってか、呼吸も落ち着くことを知らなかった。俯いて床を見つめていると。

「...どうして逃げるんですか。 」

びくり、と体を揺らし目線を上に上げると。魁虎が不機嫌そうな表情で千香を見下ろしていた。その拍子に何故か呼吸も自然と落ち着いて。するすると偽りの、強がる言葉を吐き出せた。

「私ら、挨拶する仲でもなかろ。というか逃げてやか無いし。 」

つん、とした態度を現してみるも。

「千香さんは、会いたくないんですか。藤堂、平助に。 」

「一五〇年も前に生きとった人よ?会えるわけなかろ。 」

一向に引き下がらない魁虎に最早目を合わすことも止め、再び床に視線を落とした。

「じゃあ、どうしてあのとき涙を流したんですか。 」

魁虎の拳が震えていた。千香の暖簾に腕押しな態度に憤りを覚えた様に見える。千香は小さく溜め息を吐いた。

「今から色々思い出したとしても、忘れたほうが良えよ。全部思い出してしもたら、その記憶が魁虎君を縛り付けてしまうことになると思うけん。 」

「全てを思い出した後、どうするかは俺が判断することです。自分のことは自分で決めます。...あの頃とは違って、好きに生きられるんですから。 」

あの頃、という言葉に内心驚きつつも、千香は何とか諦めてもらおうと言葉を紡いだ。

「でも、私は前世で辛かった分、魁虎君に幸せになってもらいたくて、 」

「俺の幸せは、側に千香さんが居てくれることです。 」

「え...。 」

魁虎の発言に言葉を失ってしまった。あの頃よりも高い目線に合わせようと見上げるも、容易には届かず。魁虎はその様子に小さく笑い。

「俺あれから、考えたんです。千香さんは、前世の俺の大切な人で、俺を守って死んでいった人。でも変わらず、生まれ変わっても千香さんは俺の大切な人だっていうことが分かりました。今度は俺が守る番です。 」

「折角生まれ変わったんやけん、違う人を好きになった方が幸せになれる思うよ。 」

「そんなこと言わないで。 」

魁虎は手を伸ばし、千香を抱き寄せた。千香は離れようと腕に力を込めるも、力強く抱かれた腕を解くことは叶わない。

「千香さんはいつも一人でも平気だと、耐えられると強がるから、俺が守らないといけないんです。 」

魁虎のふわふわした髪が千香の頬を掠め、その全てで千香を離さないと主張している様に思えた。

「ずっと、待っていたんですよ。こうやって逢えるのを。もう俺たちの間を隔てるものは何もありません。...一つ歳下にはなってしまったけど。 」

「嘘じゃ...。 」

聞けるはずのなかった言葉に、千香の中で堪えていたものが音を立てて崩れ落ちていく。助けるためとはいえ、あんなに辛い思いをさせてしまったのに。

「嘘じゃありませんよ。...現在は、歴史は自分の手で作る物です。俺がこうするのも、自分の意志で動いているからこそ。藤堂平助の意志じゃ、ありません。 」



もう一度、想うことは許されるのだろうか。縛り付けはしないだろうか。魁虎の与えた言葉は、千香の不安な気持ちを溶かすのに十分だった。

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