93 / 95
夢か現か
歴史は自分の手で作る
しおりを挟む
それから数日後。千香は友達に誘われて母校に来ていた。部活の後輩やお世話になった先生に会いたい、という理由で連れて来られてきたは良いものの。千香自身は高校時代、特に部活に入っていた訳でもなく。ただひたすら部活や行事に身を燃やす同級生らを傍目に、どうしてこんなにも熱くなれるのか。と冷めた目で見ていた記憶しかない。しかし冬に新選組や幕末を好きになってからは、その気持ちが分からなくもなかった。けどそれも卒業直前になってようやっと分かった気持ちだったので、これがもっと早く分かっていればと悔やんでも悔やみきれなかった。何だか貴重な青春を無駄に過ごした様な、もやもやを抱えたまま卒業してしまったのだ。
友人は部室に行って来ると千香を置いて、グランドの方へ向かってしまった。さてどう時間を潰そうかと日陰の涼しい道をぶらぶらしていると、剣道部の集団だろうか。胴着に袴姿の男子生徒がぞろぞろと歩いてきた。
「暑い!こんな暑いのに胴着着て練習とか顧問ほんまに頭おかしいわ! 」
「ほんまよ!稽古場にクーラーつけて欲しいわ!! 」
「おい魁虎!東京もこんなに暑かったん? 」
「うーん。東京は湿気が多かった。こっちの方が大分過ごしやすいと思う。 」
皆口々に暑さを嘆いており。その中には魁虎の姿を見とめ。
「やば。逃げな。 」
丁度今から来ようとしているのだろう、手洗い場に寄りかかっていた千香は、魁虎との遭遇を避けるべく校舎の中へと駆け込んだ。
「はあ、はあ、はあ...。な、何でよりにもよってこの高校なんよ。転校してくるの。 」
千香は胸に手を置いて、呼吸を整えようとした。しかし心臓の音と相まってか、呼吸も落ち着くことを知らなかった。俯いて床を見つめていると。
「...どうして逃げるんですか。 」
びくり、と体を揺らし目線を上に上げると。魁虎が不機嫌そうな表情で千香を見下ろしていた。その拍子に何故か呼吸も自然と落ち着いて。するすると偽りの、強がる言葉を吐き出せた。
「私ら、挨拶する仲でもなかろ。というか逃げてやか無いし。 」
つん、とした態度を現してみるも。
「千香さんは、会いたくないんですか。藤堂、平助に。 」
「一五〇年も前に生きとった人よ?会えるわけなかろ。 」
一向に引き下がらない魁虎に最早目を合わすことも止め、再び床に視線を落とした。
「じゃあ、どうしてあのとき涙を流したんですか。 」
魁虎の拳が震えていた。千香の暖簾に腕押しな態度に憤りを覚えた様に見える。千香は小さく溜め息を吐いた。
「今から色々思い出したとしても、忘れたほうが良えよ。全部思い出してしもたら、その記憶が魁虎君を縛り付けてしまうことになると思うけん。 」
「全てを思い出した後、どうするかは俺が判断することです。自分のことは自分で決めます。...あの頃とは違って、好きに生きられるんですから。 」
あの頃、という言葉に内心驚きつつも、千香は何とか諦めてもらおうと言葉を紡いだ。
「でも、私は前世で辛かった分、魁虎君に幸せになってもらいたくて、 」
「俺の幸せは、側に千香さんが居てくれることです。 」
「え...。 」
魁虎の発言に言葉を失ってしまった。あの頃よりも高い目線に合わせようと見上げるも、容易には届かず。魁虎はその様子に小さく笑い。
「俺あれから、考えたんです。千香さんは、前世の俺の大切な人で、俺を守って死んでいった人。でも変わらず、生まれ変わっても千香さんは俺の大切な人だっていうことが分かりました。今度は俺が守る番です。 」
「折角生まれ変わったんやけん、違う人を好きになった方が幸せになれる思うよ。 」
「そんなこと言わないで。 」
魁虎は手を伸ばし、千香を抱き寄せた。千香は離れようと腕に力を込めるも、力強く抱かれた腕を解くことは叶わない。
「千香さんはいつも一人でも平気だと、耐えられると強がるから、俺が守らないといけないんです。 」
魁虎のふわふわした髪が千香の頬を掠め、その全てで千香を離さないと主張している様に思えた。
「ずっと、待っていたんですよ。こうやって逢えるのを。もう俺たちの間を隔てるものは何もありません。...一つ歳下にはなってしまったけど。 」
「嘘じゃ...。 」
聞けるはずのなかった言葉に、千香の中で堪えていたものが音を立てて崩れ落ちていく。助けるためとはいえ、あんなに辛い思いをさせてしまったのに。
「嘘じゃありませんよ。...現在は、歴史は自分の手で作る物です。俺がこうするのも、自分の意志で動いているからこそ。藤堂平助の意志じゃ、ありません。 」
もう一度、想うことは許されるのだろうか。縛り付けはしないだろうか。魁虎の与えた言葉は、千香の不安な気持ちを溶かすのに十分だった。
友人は部室に行って来ると千香を置いて、グランドの方へ向かってしまった。さてどう時間を潰そうかと日陰の涼しい道をぶらぶらしていると、剣道部の集団だろうか。胴着に袴姿の男子生徒がぞろぞろと歩いてきた。
「暑い!こんな暑いのに胴着着て練習とか顧問ほんまに頭おかしいわ! 」
「ほんまよ!稽古場にクーラーつけて欲しいわ!! 」
「おい魁虎!東京もこんなに暑かったん? 」
「うーん。東京は湿気が多かった。こっちの方が大分過ごしやすいと思う。 」
皆口々に暑さを嘆いており。その中には魁虎の姿を見とめ。
「やば。逃げな。 」
丁度今から来ようとしているのだろう、手洗い場に寄りかかっていた千香は、魁虎との遭遇を避けるべく校舎の中へと駆け込んだ。
「はあ、はあ、はあ...。な、何でよりにもよってこの高校なんよ。転校してくるの。 」
千香は胸に手を置いて、呼吸を整えようとした。しかし心臓の音と相まってか、呼吸も落ち着くことを知らなかった。俯いて床を見つめていると。
「...どうして逃げるんですか。 」
びくり、と体を揺らし目線を上に上げると。魁虎が不機嫌そうな表情で千香を見下ろしていた。その拍子に何故か呼吸も自然と落ち着いて。するすると偽りの、強がる言葉を吐き出せた。
「私ら、挨拶する仲でもなかろ。というか逃げてやか無いし。 」
つん、とした態度を現してみるも。
「千香さんは、会いたくないんですか。藤堂、平助に。 」
「一五〇年も前に生きとった人よ?会えるわけなかろ。 」
一向に引き下がらない魁虎に最早目を合わすことも止め、再び床に視線を落とした。
「じゃあ、どうしてあのとき涙を流したんですか。 」
魁虎の拳が震えていた。千香の暖簾に腕押しな態度に憤りを覚えた様に見える。千香は小さく溜め息を吐いた。
「今から色々思い出したとしても、忘れたほうが良えよ。全部思い出してしもたら、その記憶が魁虎君を縛り付けてしまうことになると思うけん。 」
「全てを思い出した後、どうするかは俺が判断することです。自分のことは自分で決めます。...あの頃とは違って、好きに生きられるんですから。 」
あの頃、という言葉に内心驚きつつも、千香は何とか諦めてもらおうと言葉を紡いだ。
「でも、私は前世で辛かった分、魁虎君に幸せになってもらいたくて、 」
「俺の幸せは、側に千香さんが居てくれることです。 」
「え...。 」
魁虎の発言に言葉を失ってしまった。あの頃よりも高い目線に合わせようと見上げるも、容易には届かず。魁虎はその様子に小さく笑い。
「俺あれから、考えたんです。千香さんは、前世の俺の大切な人で、俺を守って死んでいった人。でも変わらず、生まれ変わっても千香さんは俺の大切な人だっていうことが分かりました。今度は俺が守る番です。 」
「折角生まれ変わったんやけん、違う人を好きになった方が幸せになれる思うよ。 」
「そんなこと言わないで。 」
魁虎は手を伸ばし、千香を抱き寄せた。千香は離れようと腕に力を込めるも、力強く抱かれた腕を解くことは叶わない。
「千香さんはいつも一人でも平気だと、耐えられると強がるから、俺が守らないといけないんです。 」
魁虎のふわふわした髪が千香の頬を掠め、その全てで千香を離さないと主張している様に思えた。
「ずっと、待っていたんですよ。こうやって逢えるのを。もう俺たちの間を隔てるものは何もありません。...一つ歳下にはなってしまったけど。 」
「嘘じゃ...。 」
聞けるはずのなかった言葉に、千香の中で堪えていたものが音を立てて崩れ落ちていく。助けるためとはいえ、あんなに辛い思いをさせてしまったのに。
「嘘じゃありませんよ。...現在は、歴史は自分の手で作る物です。俺がこうするのも、自分の意志で動いているからこそ。藤堂平助の意志じゃ、ありません。 」
もう一度、想うことは許されるのだろうか。縛り付けはしないだろうか。魁虎の与えた言葉は、千香の不安な気持ちを溶かすのに十分だった。
0
あなたにおすすめの小説
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる