74 / 95
国が揺らぐ
尽きぬ笑み、広がる不安
しおりを挟む
三月二七日。この日、近藤らと別行動をとっていた伊東らが帰って来た。この時伊東は、長州側の人間などを仲間にすべく画策していたとされている。ならば何故そういうことに不利な新選組に入ったのだろうと千香は心底疑問に思った。
「な、なるべく会いたないし、平助も近づけん様にせないかんね。 」
たすきがけを済ませ、ほっかむりを頭に被せると千香は掃除に取りかかった。久しぶりに自分の部屋の姿見を拭いていると、島田髷に結った髪が見え、小さく微笑む。
ここに来たときから今までずっとポニーテールで過ごしていた。けれども、近藤や土方などから女がずっとその髪型でいるのは妙だと言われ、良い機会だと思い元々興味のあった島田髷に髪結いに頼んで結ってもらった。なんだかこれでようやく、この時代の人間らしい外見になったのかもしれない、鏡を覗き込んで襟元を正した。
しかし嫌な予感というのは当たるもので。縁側で丁度藤堂と話している伊東と会ってしまった。
「あ、えと。お茶、持ってきますね。 」
なるべく目線を合わせない様に、そそくさと厨房へと向かった。
「綺麗になったものですね。千香さん。 」
千香の後ろ背を見ながら、伊東が呟いた。
「そうですよね!元々綺麗だったけど、髪をきちんと結えば、より一層...。 」
藤堂はにへにへと頬を緩ませた。
「ああ、前に見たときは総髪だったね。 」
「こほん!...ところで、広島はどうでしたか? 」
未だに緩みきっている顔もそのままに、話題を変えようと藤堂は伊東に話を振った。それにクスリと笑いながらも、伊東は応じる。
「思ったよりも、賛同する人が居なかったよ。 」
「やはり新選組というのが、足枷になっているんでしょうか。 」
「そうだろう。意見自体にはそうでないと感じたからね。 」
「伊東先生はこんなにも素晴らしいのに!新選組だからって、言うのはどうもいけません! 」
厨房から帰って来た千香は、伊東たちの話に顔を少し歪めた。
「...お茶をお持ちしました。 」
「すまないね。ありがとう。 」
「ありがとう...って千香!何暗い顔してんだよ!いつもみたいに笑ってくれよ! 」
茶を受け取りながら、藤堂は千香を肘で小突いた。少しの沈黙の後。口を開いたかと思うと、
「...無理よ。いっつも笑顔で居れる訳無かろがね! 」
千香は湯呑みを乗せていた盆をダン!と両手で床に叩きつける様に置いて、立ち上がった。まるで見せつけるかの様に藤堂と親しく話されると、千香は激しい苛立ちを覚えた。それに気づかない藤堂にも、伊東と藤堂を引き離すことができない自分の無力さにも。
「折角堪えとったのに。...私の気持ちも考えてくれたって良かろ! 」
「ち、千香?待ってくれよ! 」
藤堂の言葉を最後まで聞くことなく、千香は踵を返して女中部屋へと去って行った。
「お国言葉が、出てしまっていますねえ。 」
伊東は千香の後ろ背を見遣って含み笑いをし、静かに茶を啜った。
「伊東先生。千香のあの態度、何故だと思いますか?昨日まで普通だったのに。 」
「女心というのは繊細なものなんだよ。藤堂君。些細なことで心が揺れたりもする。 」
「はあ。そうなんですか?俺、そういうことにはてんで鈍いからなあ。後で謝りに行かないと。 」
藤堂は腕を組みながらううむと唸った。
「もう既に、藤堂君は私の手の内に居るというのに。無駄な足掻きをする気ですかね。感情を露わにすればするほど、滑稽だ。 」
「伊東先生?今何か言いましたか? 」
「いいえ。何も。 」
伊東はまた、静かに茶を啜った。
「な、なるべく会いたないし、平助も近づけん様にせないかんね。 」
たすきがけを済ませ、ほっかむりを頭に被せると千香は掃除に取りかかった。久しぶりに自分の部屋の姿見を拭いていると、島田髷に結った髪が見え、小さく微笑む。
ここに来たときから今までずっとポニーテールで過ごしていた。けれども、近藤や土方などから女がずっとその髪型でいるのは妙だと言われ、良い機会だと思い元々興味のあった島田髷に髪結いに頼んで結ってもらった。なんだかこれでようやく、この時代の人間らしい外見になったのかもしれない、鏡を覗き込んで襟元を正した。
しかし嫌な予感というのは当たるもので。縁側で丁度藤堂と話している伊東と会ってしまった。
「あ、えと。お茶、持ってきますね。 」
なるべく目線を合わせない様に、そそくさと厨房へと向かった。
「綺麗になったものですね。千香さん。 」
千香の後ろ背を見ながら、伊東が呟いた。
「そうですよね!元々綺麗だったけど、髪をきちんと結えば、より一層...。 」
藤堂はにへにへと頬を緩ませた。
「ああ、前に見たときは総髪だったね。 」
「こほん!...ところで、広島はどうでしたか? 」
未だに緩みきっている顔もそのままに、話題を変えようと藤堂は伊東に話を振った。それにクスリと笑いながらも、伊東は応じる。
「思ったよりも、賛同する人が居なかったよ。 」
「やはり新選組というのが、足枷になっているんでしょうか。 」
「そうだろう。意見自体にはそうでないと感じたからね。 」
「伊東先生はこんなにも素晴らしいのに!新選組だからって、言うのはどうもいけません! 」
厨房から帰って来た千香は、伊東たちの話に顔を少し歪めた。
「...お茶をお持ちしました。 」
「すまないね。ありがとう。 」
「ありがとう...って千香!何暗い顔してんだよ!いつもみたいに笑ってくれよ! 」
茶を受け取りながら、藤堂は千香を肘で小突いた。少しの沈黙の後。口を開いたかと思うと、
「...無理よ。いっつも笑顔で居れる訳無かろがね! 」
千香は湯呑みを乗せていた盆をダン!と両手で床に叩きつける様に置いて、立ち上がった。まるで見せつけるかの様に藤堂と親しく話されると、千香は激しい苛立ちを覚えた。それに気づかない藤堂にも、伊東と藤堂を引き離すことができない自分の無力さにも。
「折角堪えとったのに。...私の気持ちも考えてくれたって良かろ! 」
「ち、千香?待ってくれよ! 」
藤堂の言葉を最後まで聞くことなく、千香は踵を返して女中部屋へと去って行った。
「お国言葉が、出てしまっていますねえ。 」
伊東は千香の後ろ背を見遣って含み笑いをし、静かに茶を啜った。
「伊東先生。千香のあの態度、何故だと思いますか?昨日まで普通だったのに。 」
「女心というのは繊細なものなんだよ。藤堂君。些細なことで心が揺れたりもする。 」
「はあ。そうなんですか?俺、そういうことにはてんで鈍いからなあ。後で謝りに行かないと。 」
藤堂は腕を組みながらううむと唸った。
「もう既に、藤堂君は私の手の内に居るというのに。無駄な足掻きをする気ですかね。感情を露わにすればするほど、滑稽だ。 」
「伊東先生?今何か言いましたか? 」
「いいえ。何も。 」
伊東はまた、静かに茶を啜った。
0
あなたにおすすめの小説
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる