幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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国が揺らぐ

伝えたいこと

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   九月一九日。今日は今朝から土佐藩が制札事件のことを落ち着かせようと祇園に近藤、土方、伊東、吉村を呼んでいる。

   「実はこの後も土佐藩とはあんまり良え関係にはなれんのやけどね...。 」

千香は掃除が一段落付いて、女中部屋の文机に頬杖をついていた。久し振りに自由な時間ができたものの、することが見つからず手持ち無沙汰な状態である。

「千香?入っても良い? 」

「あ、良えよ。どうぞ。 」

藤堂の声が聞こえ、少しもやもやとした気持ちがこみ上げてきた。少し前に訳も話さず怒りをぶつけ、そのままになっていたからである。

「暇そうだな。 」

藤堂はにこりと爽やかな笑顔を見せながら、部屋へと入ってきた。悪びれもしない、その笑顔にまた少し苛立つ。

「暇そうで悪かったねえ。これでも毎日頑張っとんやけどね。 」

顔を背けて、ムスッと頬を膨らませた。それに藤堂はしゅん、として。

「...ごめん。怒らせるつもりはなかったんだ。あと、伊東さんが帰ってきたときも、何か気に触ることをしちまったみてえだし。 」

藤堂の心は、黒く渦巻いている伊東の思惑に気付けない程、綺麗で純粋なのだろう。けれどもそれが、後に苦しみを生んで、命をも奪ってしまう。この透き通る様に綺麗な瞳は、邪なものを捉えることは出来ないのかもしれない。

「私こそごめん。色々あって平助に当たってしもた。いかんね。こんな歳になってまで自分を律することが出来んとか。 」

「いや、俺はそれがしょっちゅうだから。思い込んだらそのまま突っ走っちまう。だから千香もそんなに謝らないで。 」

「うん...。 」

それでもやっぱり、目を合わせられない。伊東のことやこの先新選組が分裂することを言うべきなのに、言えないからだ。それなのに、自分の中の怒りのみが顔を出して。

「ねえ。平助。ぎゅってして。 」

「え...。千香?一体どうし...。 」

「ええけん。 」

千香は突然のことに固まっている藤堂を引き寄せた。久し振りの温かさにほっとして。

「何か最近、どうしたら良えか分からんようになってきたんよ。 」

「どうしたんだよ。話してみろよ。 」

行為とは裏腹に千香の弱々しい声に気付き、頭に手を置いた。

「あのね。前にね、言うたやん。伊東さんのこと。 」

「...うん。 」

「前は有耶無耶になってしもたけど、今度こそは言わせて欲しい。全然、伊東さんのことを悪く言う気は無いけん。 」

「それ、俺のために言おうとしてる? 」

少し声が、低くなる。

「それもあるし、新選組全体のためでもある。 」

「新選組の、ため? 」

ふと藤堂が千香から離れようとした。それに気付いた千香は離すまいと回した腕に力を込め。

「顔見たら、言えんなるかもしれんけん、このままで。 」

「あ、ああ。 」

千香は大きく息を吸って、気持ちを落ち着かせようと試みて。恐々としながらも口を開いた。

「...実は来年の弥生の二〇日、新選組は分派するんよ。伊東さんが別の組織、御陵衛士っていう組織を立ち上げて。未来ではそれに、平助はついて行くってなっとる。 」

「新選組が、分派...。 」

「ほんでそれからお互い色々揉めて。...霜月の一八日。その日に油小路で伊東さんも、平助も、斬られてしまう。 」

「...嘘、だろ? 」

「私が知っとる限りでは、これだけよ。ほやけん、前に私は伊東さんに関わらんといてって言いたかったんよ。絶対、御陵衛士に誘われる思うし。 」

あまりにも想像を逸脱した千香の言葉に、藤堂は頭が真っ白になってしまう。唯、そうか。としか言えなかった。

「私がこの時代に来たのは、本来なら亡くなってしまう人の命を救うためやと思うんよ。ほやけん、斬り合わんくても解決出来る方法は無いか探したいって思とる。 」

「...。 」

「そのためなら、命なんか要らん。 」

その瞬間。力を込めた筈の腕はいとも簡単に離され、代わりに顔が近付いたのでぎゅっと目を瞑るも。与えられたのは額に響く痛みだった。

「い、たあぁ...。 」

千香はあまりの痛さに額に手を当てて、下を向き唸ってしまう。すると今度は優しく、こつん、と額を当てられ。

「...馬鹿だ。千香は大馬鹿だ。そんなことして誰が喜ぶってんだよ。もしも千香が、死んじまったら、俺は、一体どうすりゃいいんだよ。 」

「へ、いすけ...? 」

近くなった藤堂の瞳を見てみると、ゆらゆらと揺れていて。伏せているので、見られていることには気付いてないらしい。

「そりゃあ、俺は明日も知れない身だ。けどな、千香の命と引き換えに生きたって、そんなの、意味がねえよ。千香がいるから、俺は生きられるんだよ。 」

「けど、私は皆を守りた...んん! 」

「これ以上喋るな。伊東さんのことは、俺が気をつけておくから。 」

「ふあッ...。 」

言葉を制する様に、藤堂は何度も何度も千香に口付けた。逃げられない様に後頭部と腰を抑え。次第に息が苦しくなり、とんとんと胸を叩くも、その嵐は止まず。身体に力が入らなくなり、押し倒されてしまった。

「絶対一人でなんか、背負わせねえ。こんなに細い腕で何が出来るって言うんだよ。 」

両手を床に押さえつけ、藤堂は千香を見下ろした。千香は刺さる様な視線に耐えられず、目を逸らして。

「でも、皆を助けれるとしたら、私だけやけん。 」

「じゃあせめて、自分の命を蔑ろにしようとしないでくれ。たった一つしか無いんだから。もっと自分を大事にしてくれ。それに、この間の沖田さんとのことだって一歩間違えば大変なことになってたんだぞ! 」

「多分、なんやけどね。私はこの時代で死んだとしたら、元居った時代に帰ると思うんよ。ほやけん、大丈夫。 」

「...もう、いい。黙って。 」

藤堂は再び千香の口を塞いだ。そうして、千香の頭上に片手で千香の両手を抑え、着物の合わせを肩まで下ろし。

「平助!やめ、んん! 」

「こうでもしないと、千香はずっと俺から離れていこうとするだろ。唯一繋ぎとめられるとしたら、俺にはこれしかねえんだよ。 」

藤堂は露わになった肌に手を這わせ、口付けを落としていく。

「ひ...。いやあ!やめ、て。 」

足先からなぞる様に撫で上げ。外に人が居るのに。聞かれてはまずい。

「今日は土方さんたち居ないから。...なあ。こうやって肌を合わせても、俺の気持ちは伝わってないのか? 」

藤堂の手が、千香の太腿へと向かい。蹴出けだしが捲られ、湯文字が露わになり。とうとう湯文字も捲られてしまった。

「ううぅ...。やめて、お願い。こんなのいつもの平助やない。 」

千香の上に居たのはいつもの優しい藤堂ではなかった。いくら訴えてもやめてくれない。気付くと涙が頬を伝っていた。

「どんなときだって俺を忘れないでいて欲しい。お願いだから、離れていかないでくれ。一人にしないでくれ。 」

「へ、すけ。私はどこっちゃ、行かんよ。 」

際限無く与えられる刺激に身を震わせながらも、千香は言葉を紡いで。

「私は、ほかッの、だれ、よりも、へい、ッすけが、好きなけんッ。 」

「千香、千香。俺も、だ。  」















   次第に日が暮れ、藤堂は眠ってしまった千香を蒲団に寝かし寝顔を眺めていた。

「新選組が分派するとき、千香はどうするんだ。俺に、ついて来てくれるか。 」

少し乱れた髪を撫でつけながら、千香にそう尋ねるも。

「いや、俺が連れていかねえと守れねえ。いつか帰っちまうそのときまで、一緒に居れりゃあ良い。 」

すやすやと眠る千香の唇に口付けを落とし、藤堂は千香は体調が優れないと伝えるべく厨房へと向かった。





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