幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

文字の大きさ
21 / 95
心を尽くして

ドキドキ〈日常編〉

しおりを挟む
   翌朝、千香が目を覚ますと隣に藤堂の寝顔が見えた。

「おはよう。平助。 」

朝餉の支度をしようと、蒲団から出て身支度を整える。ふと、蒲団から放り出された手を見ると、千香が渡した組紐が付けてあって。千香は嬉しさで、目を細めた。放り出された手を蒲団の中に入れ、寝巻きから着物に袖を通そうとした時、藤堂が目を覚ました。

「...あれ。ここ...千香の部屋?えええ!俺何処で寝てんだよ!しかも、同じ蒲団!?って、千香!?何で襦袢姿なの! 」

藤堂は自分の置かれている状況に混乱している様子だった。

「平助ね、昨日、私がお風呂入ってる間に、寝ちゃったの。蒲団、一つしかなかったから一緒に寝るしか無くて。ごめんね。 」

半身を起こした藤堂へ、千香の部屋にいる経緯を話す。すると、藤堂は記憶が蘇って来た様で、ああと納得した様に見えた。

「あ、あのさ。早く着物着て欲しいな。言い難いんだけど、透けてる、から。 」

藤堂の言葉に、千香はかあっと顔を赤らめる。

「は、はは早く言ってよ!平助の馬鹿! 」

焦って着物を手にすると、背後から藤堂に抱き締められ。

「警戒心無さ過ぎだから。俺以外の男が見たら、多分襲うよ?こんなんだと心配になるなあ。 」

背中から藤堂の息遣いを感じ。千香はますます顔を赤らめていく。

「ごめん...。えと、着替えたいから離して? 」

千香は腕に回された手を解こうと、説得する。

「駄目。ようく、反省するまでこのまま。 」

藤堂は悪戯っぽく言う。しかし、後ろから感じる鼓動は早くなっていて、千香は、もうどうしようもなく、キュンとした。藤堂もドキドキしてるんだ、と少し安心もして。すると、急にガラリと障子が開いた。甘いムードが一瞬で消え去り、二人ともぎょっとして、障子の方を見る。

「...朝っぱらから何やってんだ。隊の風紀が乱れるだろうが。これだから女は面倒なんだよ。 」

土方は、はあ。と溜め息をつきながら、やれやれ、と言った風な顔をする。

「土方さん。それは男尊女卑です!許せません! 」

千香は近くに置いてあった羽織を肩から掛けて、立ち上がる。

「はあ?だんそんじょひ?何だそれは。 」

「男尊女卑とは、男性を敬い女性を下に見ることです!同じ人間なのに、女は駄目だみたいな言い方は可笑しいです! 」

「女が男に従うのは当たり前だろうが。何言ってんだよ。 」

土方の言葉に、千香は思い出す。この時代は、これが普通だ、と。だから、幾ら言っても無駄だと悟る。

「...もう、この話は止しましょう。それで、此処へ来たのは何か用があるんでしょう? 」

話を変えるべく、千香は土方に尋ねる。まだ朝も早い様に見えるのに、何だと言うのだろう。

「藤堂に用があって来た。昨日の夜、此処へ入っていくのを見たきり、出て来る気配が無かったからな。 」

「俺に、ですか? 」

藤堂は未だ平常心を取り戻せていない様で、発した声が小さかった。

「ああ。山南さんにお前を呼ぶ様にと、言付けされてな。...ところで、森宮はいつまでそんな格好しているつもりだ? 」

「そう思うんなら、出て行っていただけますか。土方さんが居たんじゃ、着替えられません。 」

千香はムスッと怒った顔をして、土方を追い出そうとする。

「誰かさんと違って、俺はお前の着替えを見たところでどうもしねえが、出てってやろう。 」

フ、と意地の悪そうな笑みを浮かべて、土方は部屋を出て行った。足音が遠ざかる頃合いを見計らって、千香が愚痴を零す。

「土方さん、よくあんなので女の子から恋文貰えるわね。あの素っ気ないのがいいって言うのかな。 」

千香は土方が去って行った方を見て呆れた。藤堂も、溜め息混じりに千香に賛同して。

「本当。もっと女子には優しくないといけないと思うよ。...さてと、俺は山南さんのところに行って来るね。また、朝餉で。 」

「うん。 」

藤堂が部屋を出た後、千香は着物を着て厨房へ向かう。ようやく日常が戻って来た、と感じられた一時だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...