幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

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忠実に生きていくということは

覚悟

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   張り詰めた空気の中、千香はゴクリ、と固唾を飲んだ。

「あ、あの...。 」

いざ沖田に話そうと意気込んでみたは良いものの、自分の一言で人の運命を変えてしまうのだと思い、言葉を詰まらせた。対する沖田は千香をしっかり瞳に捉え、目を逸さず、次の言葉を待っている様だった。それを見て千香は、沖田は自分が未来から来たと言ったことを信じていてくれているのだと悟り、おずおずと口を開いた。

「近々、江戸に新しい隊士を集めに行く予定だと思うのですが...。 」

「はい。確か、平助が先立って出発するとか。 」

「平助、伊東大蔵という人を誘うって言ってませんでしたか? 」

バクバクと心臓が煩い。こういう大事な場面では、心は熱く頭は冷たくだ。焦らずにしっかりと話さなければ。

「ええ。言っていましたよ。何でも試衛館に入門する前に剣を学んだ伊東道場をやっている人だとか。 」

「はい。...その人を新選組に入れないで欲しいんで、す。 」

少し語尾が震えてしまった。足の震えも止まらない。千香は着物の袖をギュッと握った。

「その男が新選組に入ることによって、何か良くないことが起こる、と? 」

コクン、と頷く。

「でも、平助は自分の師で尊敬している人物なので必ず誘うだろうから、貴方は複雑な心境でいる、と。そう言ったところですかね。 」

「はい。平助の大切な方なので、どう言えばいいのか。仮に言ったとしても、信じてもらえないかもしれないと思って...。 」

千香は視線を下に落とし、声のボリュームも小さくなっていく。すると、ポンッと頭に手が置かれ。

「少し、落ち着いて下さい。先程の話で、重要な部分は話し終えたんでしょう?だったら、そんなに恐れる必要なんてない。一旦深呼吸して息を整えましょう。 」

千香は、張り詰めていた気がフッと抜けてしまい涙を零した。どうしてこうも泣いてしまうのだろう。自分が情けなく思えてくる。現代に居た頃は泣くことなんて無かった。こんなに弱くなんて無かった筈なのに。どうしてだろうか。

「ッ、はい。...ご迷惑をお掛けして、す、みません。   」

「なんのなんの。貴方の世話にはもう慣れてますから。ほら、涙を拭いて。伊東のことは、女子の貴方が一人で抱える秘密にしては大き過ぎたんですよ。組の存続に関わることの様な匂いがしますし。...前にも言ったでしょう。何かあれば頼れ、と。どうやら貴方は思っている以上に自分に負担をかけてしまっていた様だ。 」

沖田はくしゃり、と小さな子の頭にする様に、千香の頭を優しく撫でた。






















漸く涙が治ると、千香は事の詳細を沖田に話した。伊東が新選組に入ることによって、起こる事件や亡くなる人間のこと。それらのことについて、自分はどうアプローチしようかと思っていることも。さらに沖田には酷な話だったが、記録が残っている限りの新選組の最期と、沖田自身の最期を伝えた。全て知ってさえいれば、何か策を練ることができるかもしれないからだ。

「私は、戦で散ることが叶わないのか...。病に侵され、武士として命を終えることさえも。 」

沖田は顔に暗い影を落とす。いくら剣豪と呼ばれていても、自分のその末路を聞いては、流石に冷静さを欠いてしまう。

「でも、だから、私がここに来たんだと思うんです。沖田さんや、新選組の未来を変えるために。...私が知る歴史では、既に池田屋の戦いの時に喀血していました。けど、未だ沖田さんには労咳の症状は出ていません。 」

凛とした声で、千香は続ける。その声で沖田はゆっくりと顔を上げ始めた。

「皆さんを助けられるなら何でもしたいんです。そのために、元居た時代で色んなことを勉強してきました。だから、だから、沖田さんの労咳だって、きちんと予防すればきっと大丈夫です! 」

「...うん。森宮さんが居るなら何とかなりそうな気がする。 」

沖田はふわりと笑った。

「千香で、いいです。今、隊士の中に森宮峻三さんという方がいらっしゃいますよね?実はその方、私の曾祖父にあたる方みたいで...。紛らわしいので下の名前で呼んで下さい。 」

千香も沖田の顔を見て、緊張がほぐれて表情を緩くした。

「私は構わないが、平助が文句を言わないだろうか。 」

「大丈夫です!永倉さんと原田さんにも同じことをお願いしましたし、平助には私から言っておくので。 」

千香はにこにこと、いつもの笑顔を見せた。

「分かりました。では、これからは千香さんと呼びましょう。それから、貴方が江戸行きについて行く際私はここに留まらねばなりませんが、局長と土方さん、永倉さんにこのことを伝えて協力を仰ごうと思いますが、宜しいですね? 」

「はい。すみません。本来なら私が直接伝えるべきなのに...。 」

千香は笑顔を崩しシュン、とした。

「いいえ。貴方は、私たちを助けたいと話してくれました。千香さんがしようとしていることは、何人もの命を左右することです。未来を変えるということは、とても勇気の要ることだと思いますよ。もし、森宮峻三を死なせてしまえば、自分の存在すら消しかねないのだから。...この件、幹部の方々には私が貴方の言葉を信じたと言っておきます。それなら文句は出ないでしょう。それに訳を話すのだって、私の方が都合が良いだろうし。...平助のこと、頼んだよ。 」

千香を奮い立たせるのには充分な言葉を残して、沖田は去って行った。

「勿論です。命に代えても。もう、泣いたりなんてしない。自分のことで涙を流す甘ったれじゃ、皆を救うことなんて出来ないもの。 」

ふつふつと熱いものが、胸の奥から込み上げてくる。

「沖田さんだって、死なせやしないんだから。 」

その目は覚悟を決めた者の目だった。
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