やちむん通りのマグカップ

戸浦 隆

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一、やちむん通り

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 ぼくは「やちむん通り」に住んでる。
「やちむん」って「焼きもの」のことだよ。そう、この石だたみの通りの両側には焼きもののお店がずらり。通りの入口にはりっぱな「焼きもの博物館」があって、その屋上には焼きものの神さまを祭るお宮がある。
 近くには昔ながらの「登りガマ」も残ってるし、通りからひとすじ入るとツタの垣根で囲まれた路地がある。路地にはいくつか焼きもののカマ元もあって、集落の神さまを祭るところもある。
 路地をぬけると、また通りにつながる。行き着いたところがガジュマルとサニン(月桃)に囲まれた「アガリヌカー」。「アガリ」は東、そのはしにある泉のわき出る井戸を「カー」というんだ。

 家の入口や屋根にはシシの姿をした守り神「シーサー」がすわってて、大きな口で悪いものをすい込んでくれる。
 路地の曲がり角のヘイやカベには、魔よけのおフダがはめ込まれてる。おフダには「石敢當(いしかんとう)」って書いてある。マジムンという黒牛みたいな魔ものがいて、こいつは真っすぐ突進して来るんだ。だから突き当たる場所におフダを置いて、石の力ではね返す。
 こんなふうに神さまやわき出る泉に囲まれて、人々は焼きものを焼き、暮らして来た。その「やちむん通り」に、ぼくは住んでる。つい最近のことだけれどね。

「やちむん通り」の店のほとんどは、昔から伝わる焼きものを売ってる。うわ薬をかけないアラヤチ(荒焼)で作った、水や味噌を入れるカメ。うわ薬をかけるジョーヤチ(上焼)で作った、魚の絵がらのお皿やお椀や湯のみ。
 ダチビンというのがあって、これは泡盛というお酒を入れて腰にゆわえるもの。いつでもどこでもお酒を飲みたいんだね、おとなって。
 カラカラっていうのもある。これも泡盛を入れるもので、中に玉が入っていて注ぐとカラカラ音がする。お酒を飲むのもそうだけど、暮らしを楽しみたいんだ。
 シーサーも売ってる。観光客向けのかわいらしいマスコットみたいなね。

 でも、ぼくの店ではこういうのは置いてないんだ。若い作家さんたちの現代ふうなものが多い。店の女主人は、若い人たちを応援したいんだって。そういうわけで、ぼくはこの店にいる。
 ぼく? ぼくは店番じゃないよ。ぼくは、その若い作家さんたちのひとりが作ってくれたマグカップ。上半分はしぶい青みがかった色、下半分はクリーム色。下の部分のぐるりに赤い点がポッポッポッ、ホタルが飛んでるみたいに付いてる。オシャレだろ?
 だけど見た目は現代ふうでも、ぼくはずいぶん昔の土で出来てるんだ。

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