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第8話:ほかほかしっとり角煮まん
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王都生活二日目。
マシロは日の出よりも早く起き出し、薄暗いキッチンで蒸気と格闘していた。
シュシュシュ……という圧力鍋の音が、静寂なアパートに響く。
「パンがないなら、蒸しパンを食べればいいじゃない」
マシロはマリー・アントワネットのようなことを呟きながら、密閉鍋の蓋を開けた。
ボワッ、と広がる小麦の香り。中に鎮座していたのは、小麦を酵母で発酵させた生地を、蒸気の力でふっくらと仕上げた『蒸しパン』だ。
この世界のパンは、保存性を高めるために硬く焼いたライ麦パンが主流で、歯のエナメル質を摩耗させるし消化効率も悪い。だからマシロは、蒸気で柔らかく仕上げることを選んだのだ。
さらに別の鍋では、硬い干し肉を繊維がほどけるまで加圧して煮込んでいる。
こちらの味付けは、砂糖を焦がしたカラメルの苦味と、塩、そして肉汁の旨味を調合した特製ダレだ。本当は麹菌を育てて本物の『醤油』を作りたかったのだが、どうしても上手くいかず、味だけを再現した妥協のニセ醤油である。
付け合わせには、生の野菜の寄生虫対策として、実家から持ってきたザワークラウトを用意した。
「アリサの胃袋は俺が守る……!」
彼は昨日見た屋台のご飯をこれ以上アリサに食べさせるわけにはいかないと、特製の弁当を作っていたのだった。
そして最後の仕上げ。
マシロは弁当箱の底に、小さな袋を二つセットした。ひとつには石灰石を焼いて作った「生石灰」。もうひとつには水。
ふたつの袋は紐で繋がっており、紐を引くと水袋に穴が開き、生石灰と混ざる構造になっている。
「生石灰に水をかけると発熱する。これで食べる直前に温め直せるってわけだ」
いわゆる「加熱式弁当」だ。駅弁で見た仕組みを、中世の技術で再現したのである。
スープ用の容器にも同じ仕組みを仕込み、マシロは満足げに頷いた。
そうして完成した弁当を二人に持たせ、マシロは彼女たちを見送った。
今日から、マシロとアリサは別行動になる。警備隊への顔見せは昨日済んでいるし、なにより契約が特殊だからだ。
マシロの肩書きは「技術顧問」だが、これは正規の雇用ではない。アリサが自分の裁量権で兵士一名分の空き枠を使い、その給与をマシロに横流し……もとい、報酬として支払っているだけだ。
そのため、マシロには勤務時間の拘束もなければ、上官への報告義務もない。数ヶ月に一度、アリバイとなるレポートや発明品を提出すれば、あとは何をしていようが自由、とアリサは言っていた。夢のような契約だ。
とはいえ、それでは一名分少ない人員で仕事を回している第三警備隊のみんなに申し訳ない。
発明品の量産に成功した暁にはまずみんなのところに持っていこうと思う。なんてマシロは考えていた。
そしてお昼頃。
王都第三警備隊の詰所は午前中の市中見回りを終え、腹を空かせた女たちの群れがいた。
「……はぁ。疲れた……やっと昼飯の時間ね!」
アリサは自席でドサリと椅子に雪崩れ込んだ。
何十キロ分の鎧や武器を装備しながら、何時間も歩き回る。慣れたとはいえ、警備隊の任務は過酷だ。
周りの女騎士たちは、家から持ってきた「石のように硬い黒パン」を無表情でかじったり、屋台で調達したスープを流し込んだりと、燃料補給のような食事をしている。
「アリサさん、お疲れ様ですわ。お昼の時間になりましたわよ」
書類仕事の区切りがついたのか、ロッテが自分の鞄を持ってアリサの席にやってきた。
彼女もまた、この過酷な職場で少しやつれた顔をしているが、その瞳には期待の色が宿っている。
「ロッテ……。うん、そうね。回復しないと午後の任務で死んじゃう」
「ふふ、今日はマシロ君が『開けてからのお楽しみ』と言っていましたものね。期待できますわ」
二人は顔を見合わせると、同時に鞄から包みを取り出した。
それはこの薄汚れた詰所には似つかわしくない、汚れの染み付いていない清潔な布だ。ほのかに石鹸の香りが漂っている。
結び目を解き、木箱の蓋に手をかける。
箱の側面から、赤い紐が一本垂れ下がっている。
「この紐を引けって書いてありますわね」
「いくわよ……せーのっ」
グッ、と紐を引く。
プチッ、と何かが破れる小さな音。
直後――。
シュウウウウウ……!!
突然、弁当箱の底から激しい蒸気が噴き出した。
まるで鍋を火にかけたかのような勢いで、白い湯気が立ち上る。
「なっ……!? 火も使ってないのに!?」
「きゃっ! 熱い!?」
二人が驚いて箱を持ち直すと、蒸気は数秒で収まった。
恐る恐る蓋を開ける。
ふわり、と詰所の中に「温かい蒸気」と共に、「優しく甘い小麦の香り」と「濃厚な肉の煮込みの匂い」が爆発的に広がった。
「「「!?」」」
周囲で黒パンをかじっていた女騎士たちが、一斉に動きを止めた。
ピタリ。その動きは、血の匂いを嗅ぎつけた森の狼そのものだった。
箱の中に鎮座していたのは、これは貴族しか食べられないと噂に聞く白パンだろうか。
水分をたっぷり含んで艶めく、雪のように白いパンだ。
その中央には切れ込みが入れられ、とろとろになるまで煮込まれた茶色の肉塊とがこれでもかと挟まれている。
いわゆる、『角煮まん』のスタイルだ。
そして付け合せには、見たことのない鮮やかな黄色の酸っぱい漬物(ザワークラウト)が添えられている。
「……は? なんですの、この雲のようなパンは。それに、この黒光りしているお肉は……」
ロッテが自分の手元にある『角煮まん』を見て目を丸くする。
この世界のパンは、保存性を高めるために硬く焼いたライ麦パンが主流だ。あんなフワフワな物体は、庶民の口には入らない。
「……いただきます」
アリサが『角煮まん』を手に取る。指が沈み込むほどの柔らかさ。
一口食べると、モチモチとした生地の甘みと共に、濃厚で甘辛い肉の旨味が口いっぱいに広がった。
「んぅ……っ!!」
アリサは悶絶した。
美味い。美味すぎる。疲弊した身体に、暴力的なまでの甘みと旨味が染み渡る。
そして何口か『角煮まん』を食べてくどくなった口を、付け合せのザワークラウトで中和する
「……あら。一口目から昇天なさってるじゃありませんの」
ロッテが自分の分を優雅に食べながら、ねっとりとした視線でアリサを見る。
「愛されていますわねぇ」
「ち、違うわよ! あいつはただ、自分が硬いパンを食べたくだけで……!」
「はいはい、ごちそうさまですわ。……で? その銀色の筒は何ですの?」
アリサは顔を赤くしながら、銀色の金属筒に手を伸ばした。
こちらにも同じく紐がついている。
「こっちも引くのね……」
グッ。
シュウウウ……!
またしても激しい発熱。筒が急速に熱くなる。
キュッ、と蓋を回して開けると――。
ボワッ!!
猛烈な湯気が立ち上り、濃厚なコンソメとベーコンの香りが、詰所の汗臭さを上書きした。
朝作ってから5時間以上経っているのに、まるで今鍋からよそったような熱々だ。
「……嘘でしょ。湯気が出てる。どうなってますの、この容器」
ロッテの声のトーンが下がった。これは驚愕ではない。戦慄だ。
「アリサ、貴女……マシロ君に錬金術で何か仕込んでいただきまして? 紐を引いただけで発熱するなんて、聞いたことありませんわよ」
「わ、わかんないわよ! 『冷たいスープは内臓温度を下げて免疫力を落とすから』って……」
「内臓温度? 免疫力?」
ロッテは呆れ果て、そして深いため息をついた。
「……熱いですわ」
「え?」
「愛が、アツアツですわ」
ロッテはスープを指差した。
「いいですか? 朝早起きして、わざわざ貴女の弁当を作って、しかも冷めないよう工夫まで凝らして……。こんなこと、普通の幼馴染がしますの?」
「なっ……!?」
「どう見ても、愛でしょう」
ロッテが肩をすくめる。
だが、事態はロッテのからかいだけでは済まなかった。
ズズズ……。
重苦しい殺気が、四方八方からアリサを包囲したのだ。
「……おい、隊長」
背後から低い声がした。
振り返ると、ガタイのいい隊員が、般若のような形相で立っていた。その手には、半分かじりかけた、岩のように硬いパンが握られている。
「その『王族の食事』……一口、くれないか?」
「え、いや、これは……」
「一口でいい。……昨日、硬いパンをかじって前歯が欠けたんだ。頼む……その柔らかいパンの感触を、俺の歯茎に味あわせてくれ……!」
悲痛な叫びだった。
それを皮切りに、詰所中から怨嗟の声が噴出した。
「いいなぁ……。私なんか、カビが生える寸前のパンを削って食べてるのに」
「ねえ隊長。そのスープ、一口でいいから飲ませてよ」
「あの子、帰ったら毎日あんなご飯作って待ってるの? ……隊長を消せば、その権利は誰の手に渡るの?」
「決闘よ! 隊長、私と決闘して、勝ったらマシロ君の権利をよこしなさい!」
詰所は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
全員が、マシロという「極上の福利厚生」に飢えている。
アリサは震える手で弁当を抱きしめた。
「だ、ダメよ! これはマシロが私のために……っ!」
「これみよがしにそんなもん食いやがって!」
「分配せよ! 富を分配せよ!」
「ひぃぃっ! ロッテ、助けて! ……いないっ?!」
危険を事前に察知したロッテは、鍵のかかる執務室へいつの間にか逃げ帰っていた。
結局、アリサは獰猛な隊員たちに見つめられながら、生きた心地のしない昼食をとる羽目になった。
胃袋は満たされたが、精神はガリガリに削られていく。
おいしい弁当の木箱は、警備隊の連帯にひびをいれるパンドラの箱となってしまったのだった。
マシロは日の出よりも早く起き出し、薄暗いキッチンで蒸気と格闘していた。
シュシュシュ……という圧力鍋の音が、静寂なアパートに響く。
「パンがないなら、蒸しパンを食べればいいじゃない」
マシロはマリー・アントワネットのようなことを呟きながら、密閉鍋の蓋を開けた。
ボワッ、と広がる小麦の香り。中に鎮座していたのは、小麦を酵母で発酵させた生地を、蒸気の力でふっくらと仕上げた『蒸しパン』だ。
この世界のパンは、保存性を高めるために硬く焼いたライ麦パンが主流で、歯のエナメル質を摩耗させるし消化効率も悪い。だからマシロは、蒸気で柔らかく仕上げることを選んだのだ。
さらに別の鍋では、硬い干し肉を繊維がほどけるまで加圧して煮込んでいる。
こちらの味付けは、砂糖を焦がしたカラメルの苦味と、塩、そして肉汁の旨味を調合した特製ダレだ。本当は麹菌を育てて本物の『醤油』を作りたかったのだが、どうしても上手くいかず、味だけを再現した妥協のニセ醤油である。
付け合わせには、生の野菜の寄生虫対策として、実家から持ってきたザワークラウトを用意した。
「アリサの胃袋は俺が守る……!」
彼は昨日見た屋台のご飯をこれ以上アリサに食べさせるわけにはいかないと、特製の弁当を作っていたのだった。
そして最後の仕上げ。
マシロは弁当箱の底に、小さな袋を二つセットした。ひとつには石灰石を焼いて作った「生石灰」。もうひとつには水。
ふたつの袋は紐で繋がっており、紐を引くと水袋に穴が開き、生石灰と混ざる構造になっている。
「生石灰に水をかけると発熱する。これで食べる直前に温め直せるってわけだ」
いわゆる「加熱式弁当」だ。駅弁で見た仕組みを、中世の技術で再現したのである。
スープ用の容器にも同じ仕組みを仕込み、マシロは満足げに頷いた。
そうして完成した弁当を二人に持たせ、マシロは彼女たちを見送った。
今日から、マシロとアリサは別行動になる。警備隊への顔見せは昨日済んでいるし、なにより契約が特殊だからだ。
マシロの肩書きは「技術顧問」だが、これは正規の雇用ではない。アリサが自分の裁量権で兵士一名分の空き枠を使い、その給与をマシロに横流し……もとい、報酬として支払っているだけだ。
そのため、マシロには勤務時間の拘束もなければ、上官への報告義務もない。数ヶ月に一度、アリバイとなるレポートや発明品を提出すれば、あとは何をしていようが自由、とアリサは言っていた。夢のような契約だ。
とはいえ、それでは一名分少ない人員で仕事を回している第三警備隊のみんなに申し訳ない。
発明品の量産に成功した暁にはまずみんなのところに持っていこうと思う。なんてマシロは考えていた。
そしてお昼頃。
王都第三警備隊の詰所は午前中の市中見回りを終え、腹を空かせた女たちの群れがいた。
「……はぁ。疲れた……やっと昼飯の時間ね!」
アリサは自席でドサリと椅子に雪崩れ込んだ。
何十キロ分の鎧や武器を装備しながら、何時間も歩き回る。慣れたとはいえ、警備隊の任務は過酷だ。
周りの女騎士たちは、家から持ってきた「石のように硬い黒パン」を無表情でかじったり、屋台で調達したスープを流し込んだりと、燃料補給のような食事をしている。
「アリサさん、お疲れ様ですわ。お昼の時間になりましたわよ」
書類仕事の区切りがついたのか、ロッテが自分の鞄を持ってアリサの席にやってきた。
彼女もまた、この過酷な職場で少しやつれた顔をしているが、その瞳には期待の色が宿っている。
「ロッテ……。うん、そうね。回復しないと午後の任務で死んじゃう」
「ふふ、今日はマシロ君が『開けてからのお楽しみ』と言っていましたものね。期待できますわ」
二人は顔を見合わせると、同時に鞄から包みを取り出した。
それはこの薄汚れた詰所には似つかわしくない、汚れの染み付いていない清潔な布だ。ほのかに石鹸の香りが漂っている。
結び目を解き、木箱の蓋に手をかける。
箱の側面から、赤い紐が一本垂れ下がっている。
「この紐を引けって書いてありますわね」
「いくわよ……せーのっ」
グッ、と紐を引く。
プチッ、と何かが破れる小さな音。
直後――。
シュウウウウウ……!!
突然、弁当箱の底から激しい蒸気が噴き出した。
まるで鍋を火にかけたかのような勢いで、白い湯気が立ち上る。
「なっ……!? 火も使ってないのに!?」
「きゃっ! 熱い!?」
二人が驚いて箱を持ち直すと、蒸気は数秒で収まった。
恐る恐る蓋を開ける。
ふわり、と詰所の中に「温かい蒸気」と共に、「優しく甘い小麦の香り」と「濃厚な肉の煮込みの匂い」が爆発的に広がった。
「「「!?」」」
周囲で黒パンをかじっていた女騎士たちが、一斉に動きを止めた。
ピタリ。その動きは、血の匂いを嗅ぎつけた森の狼そのものだった。
箱の中に鎮座していたのは、これは貴族しか食べられないと噂に聞く白パンだろうか。
水分をたっぷり含んで艶めく、雪のように白いパンだ。
その中央には切れ込みが入れられ、とろとろになるまで煮込まれた茶色の肉塊とがこれでもかと挟まれている。
いわゆる、『角煮まん』のスタイルだ。
そして付け合せには、見たことのない鮮やかな黄色の酸っぱい漬物(ザワークラウト)が添えられている。
「……は? なんですの、この雲のようなパンは。それに、この黒光りしているお肉は……」
ロッテが自分の手元にある『角煮まん』を見て目を丸くする。
この世界のパンは、保存性を高めるために硬く焼いたライ麦パンが主流だ。あんなフワフワな物体は、庶民の口には入らない。
「……いただきます」
アリサが『角煮まん』を手に取る。指が沈み込むほどの柔らかさ。
一口食べると、モチモチとした生地の甘みと共に、濃厚で甘辛い肉の旨味が口いっぱいに広がった。
「んぅ……っ!!」
アリサは悶絶した。
美味い。美味すぎる。疲弊した身体に、暴力的なまでの甘みと旨味が染み渡る。
そして何口か『角煮まん』を食べてくどくなった口を、付け合せのザワークラウトで中和する
「……あら。一口目から昇天なさってるじゃありませんの」
ロッテが自分の分を優雅に食べながら、ねっとりとした視線でアリサを見る。
「愛されていますわねぇ」
「ち、違うわよ! あいつはただ、自分が硬いパンを食べたくだけで……!」
「はいはい、ごちそうさまですわ。……で? その銀色の筒は何ですの?」
アリサは顔を赤くしながら、銀色の金属筒に手を伸ばした。
こちらにも同じく紐がついている。
「こっちも引くのね……」
グッ。
シュウウウ……!
またしても激しい発熱。筒が急速に熱くなる。
キュッ、と蓋を回して開けると――。
ボワッ!!
猛烈な湯気が立ち上り、濃厚なコンソメとベーコンの香りが、詰所の汗臭さを上書きした。
朝作ってから5時間以上経っているのに、まるで今鍋からよそったような熱々だ。
「……嘘でしょ。湯気が出てる。どうなってますの、この容器」
ロッテの声のトーンが下がった。これは驚愕ではない。戦慄だ。
「アリサ、貴女……マシロ君に錬金術で何か仕込んでいただきまして? 紐を引いただけで発熱するなんて、聞いたことありませんわよ」
「わ、わかんないわよ! 『冷たいスープは内臓温度を下げて免疫力を落とすから』って……」
「内臓温度? 免疫力?」
ロッテは呆れ果て、そして深いため息をついた。
「……熱いですわ」
「え?」
「愛が、アツアツですわ」
ロッテはスープを指差した。
「いいですか? 朝早起きして、わざわざ貴女の弁当を作って、しかも冷めないよう工夫まで凝らして……。こんなこと、普通の幼馴染がしますの?」
「なっ……!?」
「どう見ても、愛でしょう」
ロッテが肩をすくめる。
だが、事態はロッテのからかいだけでは済まなかった。
ズズズ……。
重苦しい殺気が、四方八方からアリサを包囲したのだ。
「……おい、隊長」
背後から低い声がした。
振り返ると、ガタイのいい隊員が、般若のような形相で立っていた。その手には、半分かじりかけた、岩のように硬いパンが握られている。
「その『王族の食事』……一口、くれないか?」
「え、いや、これは……」
「一口でいい。……昨日、硬いパンをかじって前歯が欠けたんだ。頼む……その柔らかいパンの感触を、俺の歯茎に味あわせてくれ……!」
悲痛な叫びだった。
それを皮切りに、詰所中から怨嗟の声が噴出した。
「いいなぁ……。私なんか、カビが生える寸前のパンを削って食べてるのに」
「ねえ隊長。そのスープ、一口でいいから飲ませてよ」
「あの子、帰ったら毎日あんなご飯作って待ってるの? ……隊長を消せば、その権利は誰の手に渡るの?」
「決闘よ! 隊長、私と決闘して、勝ったらマシロ君の権利をよこしなさい!」
詰所は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
全員が、マシロという「極上の福利厚生」に飢えている。
アリサは震える手で弁当を抱きしめた。
「だ、ダメよ! これはマシロが私のために……っ!」
「これみよがしにそんなもん食いやがって!」
「分配せよ! 富を分配せよ!」
「ひぃぃっ! ロッテ、助けて! ……いないっ?!」
危険を事前に察知したロッテは、鍵のかかる執務室へいつの間にか逃げ帰っていた。
結局、アリサは獰猛な隊員たちに見つめられながら、生きた心地のしない昼食をとる羽目になった。
胃袋は満たされたが、精神はガリガリに削られていく。
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