開館、ゼツメツミュージアム!!

あぐり ぶんか

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5.シティモール顕現

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 えんどうシティモール。
 市街地からはちょっと離れた、川のそばにある巨大なショッピングセンター。
 坂を降りて川を越えたところで、ようやく人混みが見えてきた。
 このままだったら館内どころか入り口にも近づけそうにない!!
 どうしよう、って、話しかけようとした瞬間――。
 自転車を乗り捨てるようにして止めるや否や、倉野井さんが走り出す。
 慌てて、人垣をかき分けるようにその後を追いかける。
 へし合い押し合いに負けまくるぼくを尻目に、倉野井さんはまるで魔法みたいに大人たちの隙間を走り抜けて――気づけば、倉野井さんは、人混みの中心まで進み出ていた。
 シティーモールの入り口前では、地元tv局のアナウンサーが深刻な顔で生中継をしている。

『ライオンに似た生物が目撃されたえんどうシティモールは、現在、全館閉鎖が行われています。従業員・利用客の全員避難も先ほど完了したとのことで……えー、それではライオンを実際目撃した方にお話しを伺いましょう――って、え、あ、ちょっと!!』

 倉野井さんは、カメラなんてまるで気にしない様子でつかつかと歩いていくと――呆気に取られているアナウンサーさんのマイクを奪い取った。
 群衆が息を飲む。
 どうにか最前列まで抜け出してきたぼくだって、目の前で起こっていることに息が止まりそうなのに――倉野井さんは、一回深呼吸をしてから、まっすぐ前を見て。
 それから、堂々と言い放った。

「みなさんご迷惑をおかけして申し訳ありません、わたしは、明日開館するえんどう市立博物館のもので――」
 ぼくの、群衆の、あるいは、テレビの向こう側にいる何千何万人の人々の。
 無数の視線の中心に立ち、倉野井さんはまるで、帰りの会で男子を糾弾するあの時みたいに、静かな声で続けた。
「今まで起こったことは――今から起こることも、すべて、当博物館のオープニングイベントです」

 絶句したままなにもできないでいるぼくを押しのけるように、警備員さんが飛んでくる。
 気づけば、大の男が数人、倉野井さんの周りを取り囲んでいた。
「ちょっと!!誰なんだきみは……」
「わたしは倉野井千咲くらのいちさきです!!」
 はがいじめにされながら、叫ぶように言った倉野井さんは、そのまま、周囲を睨んだ。
「祖父は倉野井日向吾くらのいひゅうご、母と父の名前も言いたいですが、2人ともいま仕事中っぽいのでやめときます!!」
「なんなんだきみは――っていうか、誰なんだそれは!!」
「だいたい、それが何なんだよッ!!」

 身がすくむような怒号の中で――ゆったりと顔を上げた倉野井さんはなぜか、得意げに笑った。

「なんでもないよ――なんでもないけど、わたしはそういう風に生まれたの」

 一度、息を吸うとポケットに手を突っ込む。なにごとかと周囲が身構える。

「――そして、それが、けっこう好きなの」

 周囲を見渡した視線が、そして、ぼくを捉える。
 あ、目が合った、と思ったのもつかの間。

「………力を貸して」

 倉野井さんが小さな声でつぶやいた瞬間、ぼくは一回まばたきをして――そして。
 そこにいたのは。
 本当に驚いた時って、人は悲鳴すら出ないものだ。
 倉野井さんの後ろ、現れたばかりの月を遮るようにして立つのは、街中のシティーモールの、だだっ広い駐車場にははあまりに不釣り合いな――。

「マンモス………」

 誰かの悲鳴が、耳元で聞こえた。
 呆然としていた群衆が、爆発したような悲鳴とともにぐりんと動き出す。
 人垣に押し流されそうになったのも一瞬、ぼくは何かに引っ張られるように逆らって走り出す。一瞬、壇上ではがいじめにされている倉野井さんと目が合った。

「行って!!!!」

 瞬間、倉野井さんが何かを投げる。
 それが、なんなのかも分からないまま必死で手を伸ばすと、つかめたのかどうかも定かでないまま手を握った。
 ぼくはそのまま、手のひらの中を確認することもせず――確かに聞こえた倉野井さんの声に背中を押されるようにして、一直線に走り出した。

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