友達の辞め方、募集します。

浅川未羽

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〈6〉悪いのは私?違います。

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「相談したいことがある」と
彼を学校近くのカフェに呼び出した。

彼は私を見つけるなり
「よっ」と軽く右手を上げた。
そして、席に着くと同時に
「すみません!ブレンドコーヒーひとつ、ブラックで」
と注文をする。

このカフェに来るといつもそう。
この流れが変わったことは一度もない。

「いつもブレンドだよね、他のは頼まないの?」
「んー」と少し考えてから、彼は答えた。
「ブレンドコーヒーがこの店のおすすめってことは、それが1番美味しいってことでしょ?だったら、わざわざ1番じゃないものを頼む必要は無いよ」

(本当に変わった人だな……)

彼との会話には刺激がある。
私には想像もつかないような感性を、彼は持っている。
私には思いつかないような表現で、彼は語ってくれる。

私が彼を慕う理由。


「ごめんね、呼び出しちゃって」

「大丈夫だよ、暇してたし。どうしたの?」

「実はね……」

私は全てを話した。
先輩が行方不明の女の子を連れていたこと。
警察に話すべきか迷っていること。
先輩のことが好きだから信じたいということ。

「私、自分でもどうしたいか分からないの。犯罪かもしれないのに、見て見ぬふりをするのは悪いことだと思う。けど、先輩が、ゆ、誘拐……とか、するわけないし!疑いたくないの!」

「どうしたいか分からない、ねぇ。」
そう言いながら彼は、おもむろに眼鏡を外し、そっとテーブルに置いた。
そして、頬杖をつきながらじっと私を見る。

なんだか、彼のその視線がむず痒い。

「な、なに?」
たまらず、聞いてしまう。

「いや、なんでそんな相談すんのかなって思って」

「そんなの、悩んでるからに決まって……」

「じゃあさ、僕が『それは警察に言いなよ』って言ったら、すぐ警察に行くの?」

「それは……」

「行かないでしょ。だって君が求めてるのは『自分が楽になる方法』だから。好きな人は犯罪者かもしれない、だけど自分からは警察に言いたくない、こんなの1人で抱えたくない、誰かに話して楽になろう、あわよくば誰かに……代わりに話してもらおう……」

「ちがう……違う!!そんなこと思ってない!!」

気付いたら立ち上がって、大声をあげていた。
周りの客の視線が
一気に私に集まるのを感じた。
私は、俯きながらそっと座った。
こんなに感情的になった自分への驚きと、恥ずかしさでいっぱいだった。

俯いたままの私に彼は言った。

「いいよ、僕は。君のそういうところ大好きだから」

ゆっくり顔を上げると、彼はもういなかった。
テーブルの上には1枚の千円札が置かれていた。


1週間後、先輩が逮捕されたと
先輩の友達から聞いた。

私はすぐにネットニュースを読んだ。

美しい少女を誘拐して
衣服も食事も一切与えず、部屋に監禁。
日に日に衰弱していく少女たちを見て楽しむ。
先輩の部屋からは、数人の少女たちの遺体が発見された。

この"遺体"の中に、あの女の子も……橋本凛ちゃんも含まれているのだろうか。

私がもっと早く、警察に言っていれば助かった?

悪いのは私?


悪いのは……


誰?


悪いのは誘拐した先輩。
悪いのは子どもから目を離した親。
悪いのは見つけられなかった警察。
悪いのはこんなニュースを発信したマスコミ。
悪いのは……!!


少し冷静になろう。
こんなの私らしくない。
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