鳶職人×異世界転生_俺の手が世界を建てる~鳶職人、異世界で伝説の塔を築く~

もしもノベリスト

文字の大きさ
8 / 24

第8章 職人の矜持

しおりを挟む
ゴルドを伴い、王都に戻った蒼太は、早速現場に案内した。

「ここが、天空の塔の建設予定地だ」

更地になった広大な平地。その中央には、すでに足場の骨格が組み上がり始めている。作業員たちが忙しく動き回り、朝礼の声が響いている。

ゴルドは腕を組んで、現場を見渡した。

「……思ったより、まともだな」

「当たり前だ。俺が管理してんだから」

「口の減らない奴だ」

ゴルドは足場に近づき、じっくりと観察した。支柱を叩き、横木を揺すり、縄の結び目を確認する。

「木材の選び方は悪くない。組み方も、基本は押さえている。だが——」

「だが?」

「この足場だけでは、三百メートルは無理だ。百メートルを超えたあたりで、自重で崩壊する」

「分かってる。だから、お前に来てもらった」

蒼太は図面を広げた。王都の設計士が描いた、塔の完成予想図だ。

「基礎は石積みを想定してる。お前の技術で、どこまでの荷重に耐えられる?」

ゴルドは図面を睨んだ。

「……この設計は誰が描いた」

「王都の設計士だ」

「話にならん」

ゴルドは図面を放り投げた。

「この基礎設計では、五十メートルが限界だ。それ以上は、石が自重で潰れる」

「じゃあ、どうすればいい」

「設計をやり直せ。俺が監修する」

蒼太は頷いた。

「頼む」

「それから、石の調達だ。王都周辺の石は質が悪い。山岳地帯から運ぶ必要がある」

「運搬は任せろ。人手は確保する」

「人間だけでは足りん。獣人を使え。奴らの力なら、大きな石も運べる」

「獣人か……」

蒼太は少し考えた。

「この国では、獣人の扱いはどうなってる」

「奴隷同然だ」

ゴルドは吐き捨てるように言った。

「人間は獣人を見下している。だが、力仕事において、奴らの右に出る種族はいない」

「じゃあ、獣人にも協力を頼む」

「できるのか?」

「やってみなきゃ分からねえ」

蒼太はエドを呼んだ。

「エド、獣人の集落はどこにある」

「獣人……ですか?」

エドの顔が曇った。

「王都の外れに、スラムがあります。そこに、多くの獣人が暮らしています。ただ——」

「ただ?」

「あそこは危険です。人間が近づくと、襲われることもあると聞きます」

「案内してくれ」

「え?」

「俺が行く。話をつける」

エドは困惑した顔をしたが、蒼太の決意が揺るがないことを悟り、頷いた。

「……分かりました。でも、一人では危険です。私も一緒に行きます」

「ありがとよ」

ゴルドが口を挟んだ。

「俺も行く」

「お前も来るのか」

「興味がある。お前がどうやって獣人を説得するのか、見届けてやる」

蒼太はニヤリと笑った。

「いいぜ。じゃあ、行くか」

    *    *    *

王都の外れ。

城壁の外側に、粗末な小屋が密集する一角があった。

ゴミの臭い。汚水の流れる溝。壁には落書きが描かれ、窓は布で塞がれている。

「ここが、獣人のスラムです」

エドが声を潜めて言った。

「かつては、もう少しまともな場所だったそうですが……戦争で職を失った獣人が流れ込み、今ではこの有様です」

蒼太は黙って周囲を見回した。

道行く獣人たち——犬の耳を持つ者、猫の尾を持つ者、鱗を持つ者——は、蒼太たちを見て警戒の目を向けた。

「人間がこんなところに何の用だ」

低い声が響いた。

小屋の影から、大きな獣人が姿を現した。

虎の獣人だ。身長は二メートルを超え、全身が筋肉で覆われている。顔には古い傷があり、目は鋭く光っている。

「俺は鷹野蒼太。お前たちのリーダーに会いたい」

「リーダーだと?」

虎の獣人は鼻で笑った。

「そんなものはいない。ここにいるのは、捨てられた連中だけだ」

「なら、お前が代表で話を聞いてくれ」

「話? 何の話だ」

「仕事の依頼だ」

虎の獣人の目が、僅かに変わった。

「……仕事だと」

「天空の塔を建てる。そのために、重量物を運べる力が必要だ。お前たちの力を借りたい」

周囲の獣人たちがざわめいた。

「塔? あの失敗続きの?」

「人間たちが勝手に始めて、勝手に死んでる計画だろう」

「俺たちを巻き込むな」

否定的な声が上がる。

しかし、虎の獣人は蒼太を睨んだまま動かなかった。

「お前、報酬は出るのか」

「出す。人間と同じ額を」

ざわめきが大きくなった。

「同じ額だと?」

「嘘だろう」

「人間が獣人に、同じ報酬を払うはずがない」

虎の獣人が手を挙げ、周囲を黙らせた。

「本気で言っているのか」

「ああ。同じ仕事をしたら、同じ金を払う。それが俺のルールだ」

「……」

虎の獣人は暫く蒼太を見つめていた。

「俺はバルトだ」

「バルトか。覚えた」

「お前の話は分かった。だが、信用できない」

「当然だろうな」

「なら、証明しろ。お前が本気だということを」

「どうすればいい」

バルトは周囲を見回した。

「ここに、腹を空かせた連中がいる。今日の食い物にも困っている。まずは、こいつらに飯を食わせろ。それができたら、話を聞いてやる」

蒼太は頷いた。

「分かった。どれくらいいる」

「百人ほどだ」

「百人分の飯か。分かった、用意する」

バルトの目が、僅かに見開かれた。

「……本気か」

「言っただろう。俺は嘘は言わねえ」

蒼太はエドに振り向いた。

「エド、王城に戻って、食料を調達してくれ。百人分。俺の名前で頼め」

「百人分……ですか?」

「頼む。急いでくれ」

エドは戸惑いながらも、走り去った。

蒼太はバルトに向き直った。

「飯が届くまで、話を聞かせてくれ。お前たちが、どうしてこんな場所にいるのか」

バルトは暫く黙っていた。

やがて、低い声で語り始めた。

「俺たちは、元々は傭兵だった。人間の軍に雇われて、魔王軍と戦った。命を賭けて、前線で戦った」

「……」

「だが、戦争が長引くにつれて、報酬は削られていった。最後には、食料すら与えられなくなった。『獣人に払う金はない』と言われた」

バルトの声には、押し殺した怒りがあった。

「俺たちは軍を離れた。戦う理由がなくなったからだ。それ以来、ここで暮らしている」

「……そうか」

蒼太は静かに言った。

「それは、辛かったな」

バルトは蒼太を見た。

「同情か?」

「いや。事実を言っただけだ」

「……」

「俺は、お前たちに約束する。俺の現場では、種族で報酬を変えたりしねえ。同じ仕事をしたら、同じ金を払う。それは絶対だ」

「言葉だけなら、何とでも言える」

「だから、まず飯を用意する。約束を守れることを、行動で示す」

バルトは暫く蒼太を見つめていた。

「……お前、変わった人間だな」

「よく言われる」

「なぜだ。なぜ、獣人にそこまでする」

蒼太は少し考えてから、答えた。

「現場ってのは、全員で作るもんだ。誰か一人が欠けても、仕事は完成しねえ。だから、全員が対等でなきゃならねえ」

「……」

「お前らを『道具』として使う気はねえ。『仲間』として、一緒に働いてほしいんだ」

バルトの目が、僅かに揺らいだ。

そのとき、馬車の音が聞こえてきた。

エドが戻ってきた。馬車には、大量の食料が積まれている。

「ソウタさん! 女王陛下のご厚意で、食料を調達できました!」

「よくやった」

蒼太は食料を見て、満足げに頷いた。

「バルト。約束通りだ。百人分、いや、もっとあるな。好きなだけ食ってくれ」

スラムの獣人たちが、恐る恐る近づいてきた。

パン、肉、野菜。新鮮な食料を見て、目を輝かせている。特に子供たちは、待ちきれない様子で馬車を囲んだ。

「配るぞ。並んでくれ」

蒼太は自ら食料を配り始めた。

一人一人に、手渡しで。顔を見て、言葉をかけながら。

「ほら、食えよ」

「遠慮すんな。たくさんあるから」

「子供が先な。大人は後だ」

獣人たちは、最初は戸惑っていた。しかし、蒼太の態度に悪意がないことを悟ると、少しずつ警戒を解いていった。

「……ありがとう」

小さな獣人の子供が、蒼太にそう言った。犬の耳を持つ、幼い女の子だ。

「いいってことよ。たくさん食え」

蒼太は笑顔で答えた。

バルトは、その光景を黙って見ていた。

やがて、蒼太のもとに近づいてきた。

「……お前の名前は、何と言った」

「鷹野蒼太」

「ソウタか」

バルトは蒼太を見下ろした。その目には、何か新しい光が宿っていた。

「いいだろう。お前の下で働いてやる」

「本当か」

「ただし、条件がある」

「聞く」

「俺の仲間たちも、全員雇え。働ける奴は全員だ」

「分かった。全員雇う」

「それから——」

バルトは蒼太に手を差し出した。

「俺に嘘をついたら、殺す。それでいいな」

蒼太は、その手を握り返した。

「上等だ。俺は嘘つかねえから、殺される心配はねえな」

バルトの口元が、僅かに緩んだ。

「面白い人間だ」

「よく言われる」

二人は、固い握手を交わした。

ゴルドが近づいてきた。

「ふん。思ったより、まともな交渉だったな」

「お前も手伝ってくれよ。食料、まだたくさんあるぞ」

「俺に配れというのか」

「嫌か?」

ゴルドは鼻を鳴らしたが、渋々食料を手に取った。

「……仕方ない。少しだけだ」

蒼太は笑った。

職人が三人。人間、ドワーフ、獣人。

少しずつ、仲間が集まり始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...