鳶職人×異世界転生_俺の手が世界を建てる~鳶職人、異世界で伝説の塔を築く~

もしもノベリスト

文字の大きさ
13 / 24

第13章 魔王軍の妨害

しおりを挟む
塔の高さが五十メートルを超えた頃、異変が起きた。

夜だった。

蒼太は宿舎で眠っていたが、遠くで響く悲鳴に目を覚ました。

「何だ……?」

窓の外を見ると、建設現場の方角から炎が上がっている。

「足場が!」

蒼太は靴を履く間も惜しんで、現場に向かって走り出した。

現場に着くと、そこは地獄絵図だった。

足場の一部が崩壊し、炎に包まれている。作業員たちが逃げ惑い、悲鳴が響き渡る。

そして空には——黒い影が、いくつも旋回していた。

「ワイバーンだ!」

誰かが叫んだ。

魔王軍の飛行魔物。蒼太が以前、砦で見たものと同じ種類だ。ただし、今回は数が違う。五体、いや十体以上いる。

ワイバーンたちは塔の周囲を旋回しながら、足場に火を吐きかけていた。木材が燃え、縄が焼け落ち、構造物が崩壊していく。

「くそっ……!」

蒼太は拳を握りしめた。

一ヶ月かけて組み上げた足場が、目の前で破壊されていく。

「ソウタ!」

ゴルドが駆け寄ってきた。斧を手にしている。

「魔王軍の襲撃だ! 奴ら、塔の建設を妨害しに来やがった!」

「見りゃ分かる! 怪我人は!」

「今のところ、軽傷者が数名。死者はいない」

「よし。全員を安全な場所に避難させろ!」

「お前はどうする!」

「俺は——」

蒼太は燃え盛る足場を見上げた。

「消火だ。足場を全部焼かれたら、一ヶ月分の仕事がパーになる」

「馬鹿言うな! あの火の中に入るつもりか!」

「入らねえよ。でも、延焼を食い止めることはできる」

蒼太は現場を見回した。

足場は、塔を取り囲むように組み上がっている。現在、炎に包まれているのは北側の一角だ。まだ全体には広がっていない。

「あそこの接続部分を外せば、火が広がるのを防げる」

蒼太は指を差した。燃えている区画と、無事な区画の境目。そこには、足場の部材を繋ぐ縄がある。

「あの縄を切れば、燃えてる部分だけ切り離せる」

「だが、あそこに行くには——」

「分かってる。火の近くを通らなきゃならねえ」

蒼太は走り出した。

「待て、ソウタ!」

ゴルドの声を背中に聞きながら、蒼太は足場に取り付いた。

熱い。

炎が近い。髪が焦げる臭いがする。

だが、止まるわけにはいかない。

蒼太は足場を登り、横に移動した。煙が目に染みる。咳が出る。それでも、手を止めない。

接続部分に辿り着いた。

縄が、目の前にある。

蒼太は腰の工具袋からナイフを取り出し、縄を切った。

ブツン、と音がして、燃えている区画が分離された。

「よし——」

その瞬間、頭上から影が落ちてきた。

ワイバーンだ。

蒼太を狙って急降下してくる。

「くそっ——!」

蒼太は咄嗟に身を翻した。ワイバーンの爪が、蒼太のいた場所を掠めていく。

足場が揺れる。バランスを崩しかける。

だが、蒼太は落ちなかった。

十年間、高所で鍛えた身体が、反射的に足場を掴んでいた。

「舐めんな……!」

蒼太は足場を伝って、地上へ降りた。

ワイバーンが再び旋回してくる。今度は火を吐く構えだ。

「ソウタ! こっちだ!」

バルトが叫んだ。

蒼太はバルトの方へ走った。バルトは巨大な盾——どこかから持ってきたらしい——を構えている。

「伏せろ!」

蒼太が飛び込むと同時に、ワイバーンが火を吐いた。

炎がバルトの盾に当たり、左右に分かれて流れていく。

「熱い……! だが、この程度……!」

バルトは歯を食いしばりながら、盾を支え続けた。

炎が止んだ。

蒼太は立ち上がり、空を見上げた。

ワイバーンたちは、まだ旋回を続けている。しかし、攻撃の手は緩んでいた。

「……引き上げるつもりか」

やがて、ワイバーンたちは編隊を組み、北の空へ飛び去っていった。

夜襲は、終わった。

    *    *    *

翌朝、蒼太は被害状況を確認した。

「北側の足場、約三分の一が焼失。塔本体への被害は軽微。怪我人は十二名、うち重傷者なし」

エドが報告した。

蒼太は頷いた。

「不幸中の幸いだな。死者が出なかったのが、せめてもの救いだ」

「ソウタさんが接続部分を切り離してくれなければ、もっと広がっていました」

「当然のことをしただけだ」

蒼太は焼け焦げた足場を見上げた。

一ヶ月分の仕事。それが、一夜で三分の一になった。

「……くそっ」

蒼太は拳を握りしめた。

「ソウタ」

ゴルドが近づいてきた。

「今回は、お前の判断が正しかった。認めてやる」

「……ありがとよ」

「だが、問題は今後だ。奴ら、また来るぞ」

「分かってる」

蒼太は空を見上げた。

魔王軍は、塔の建設を阻止しようとしている。今回は偵察と牽制だったのかもしれない。次は、もっと大規模な攻撃が来る可能性がある。

「対策が必要だ」

蒼太は考えを巡らせた。

「まず、夜間警備を強化する。交代制で見張りを立てて、敵の接近を早期に発見する」

「それだけか?」

「いや。応急補修班も編成する。襲撃を受けても、すぐに修復できるようにしておく」

「攻撃への対策は?」

「……考えてる」

蒼太は足場を見つめた。

直接戦闘は、蒼太の得意分野ではない。しかし、足場の構造を利用した何かができるかもしれない。

「トラップだ」

「トラップ?」

「足場の中に、罠を仕掛ける。ワイバーンが近づいたら、作動するような」

ゴルドは首を傾げた。

「具体的には?」

「まだ考え中だ。でも、何かできるはずだ。俺は戦えねえが、建設はできる。建設の技術で、守りを固める」

ゴルドは暫く蒼太を見つめた。

やがて、小さく笑った。

「……面白い発想だな。職人らしい」

「褒めてるのか」

「褒めてる」

二人は、焼け焦げた足場を見上げた。

「とりあえず、修復から始めるか」

「ああ。やることは山ほどある」

蒼太は作業員たちを集めた。

「聞いてくれ。昨夜の襲撃で、足場の一部が焼けた。だが、塔本体は無事だ。俺たちの仕事は、まだ終わってねえ」

作業員たちは、不安げな顔をしていた。

「魔王軍は、また来る。それは間違いねえ。だが、俺たちは建て続ける。奴らに邪魔されようが、何度でも修復して、何度でも建てる」

蒼太は全員を見回した。

「俺たちは職人だ。戦士じゃねえ。戦うことはできねえ。でも、建てることはできる。それが、俺たちの戦い方だ」

沈黙が流れた。

やがて、ゴルドが声を上げた。

「よし、聞いたな! さっさと作業に戻れ! 時間がねえんだ!」

作業員たちが動き出した。

不安は消えていない。しかし、何かをしなければならないという意志が、彼らを突き動かしていた。

蒼太は空を見上げた。

「来るなら来い」

呟きは、風に消えた。

「俺たちは、建てる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

処理中です...