9 / 14
第10話 承認欲求を満たす哀れな女の物語②
しおりを挟む
「小口さんがSNSで小遣い稼ぎしてるんだって」
更衣室で化粧を直していると周りからの雑談がが聴こえてきた。
女子はこの手の話が好きなのだ。
「なんか、欲しいものリストねだってんでしょ。ちょっと引くよねー」
今流行の買って欲しい物をリストにして、男性に貢がせる例のアレだ。
それをやる本人にも引くが、こんな女にわざわざ金を出す男にも引く。だってこんな女に出す金なんてドブに捨てるようなもんだ。たが金をドブに捨てるのは些か勿体ない。なのでコンビニのレジの横にある募金箱に入れた方が有意義な使い方だと思う。
「おはよー」
話題の本人が気だるそうに入って来た。
「お、おはよ」
周りの人達は少し気不味そうに返した。まぁ、さっきまでdisってたんだから当然だろう。そしてそれを知らない本人はその子達に今日も自慢していた。
「見て見てー。今日この人にSNSでリプ貰っちゃった。有名だから知ってるでしょこの人? SNSで人気あるんだよねーこの人」
有名人に絡まれたことがそんなに名誉なのだろうか。その人が一般人なのか芸能人かは知らないが、そんなに嬉しいものなのだろうか。私には到底理解出来ない考えだ。私がSNSでリプを貰って喜ぶのは精々キミ・ライコネン位だ。あるいはセバスチャン・ベッテルも喜ぶかもしれない。要は余程の事が無い限り私は喜ばないのだ。だってそれは他人なのだから。私は会ったことも無い人からコメントを受け取って喜ぶ人間ではないのだ。
そういう考えを人に言うと、よく感情が乏しいと周りから言われるが、私からしてみたら会ったこともない他人によくそこまで感情的になれるなと思っていた。
そして、それからも空気を読まないで自慢する小口に周りは愛想笑いで場を凌いでいた。そんな状況にこの子達にはこんな私でも心から同情した。
そして、数日過ぎた頃更衣室でこんな情報が流れていた。
「小口さん暫くお休みするんだってー」
周りはそんな話を聞いた。事情を聞くとどうやらまたSNS絡みでトラブルに巻き込まれたそうだ。その内容は実に低俗で説明するのも時間の無駄な気がする内容だ。それでも簡潔に説明をすると、用は男性の恨みを買ったらしい。
まぁ、当然の末路だろ。
色んな男に強請《ねだ》ったり、自慢したり、恨みを買うような事をいくつもしてきたのだから自業自得だ。
ただSNSとは怖い物だと感じた。ほんの少しの写真からマンションや居場所を特定され、ストーカーをされる。それが小口が受けた被害だ。恨みとは怖い物だ。そこまで人を動かすエネルギーにもなる品物らしい。
ただ小口は軽い暴行だけですんだらしい。顔に少し殴られただけで済んだのだから、不幸中の幸いだ。
そんな仕打ちを受けた小口に対して、ケラケラとバカにするコイツらは小口以下の人間だなと私は思った。
本人に直接言えないのに、居ない時にはそんな事をべらべらいう、こういう人達にも私は嫌悪感を覚えたのだった。
それから数日後
「おはよう」
小口が更衣室に入ってきた。
いつも胸元を強調してた派手な服を好んで着ていたが、この日はただのTシャツとジーパンとラフなスタイルだった。あんな事があったからか、原因はわからないが心境に変化はあったのだろう。
周りの女子は彼女を腫れ物の様にして扱い、ヒソヒソ話でニヤニヤしていた。このどうしようもない状況に私のストレスは急激に溜まっいった。
「小口さんおはよう。話聞いたけど大丈夫だった?」
この場であっけらかんと小口に話しかけたのは祐希だった。
「うん。まぁ、大丈夫かな。もう、SNSとか色々辞めたどさ。もう、いいかな。私も悪いし」
「そっか。なら良かったじゃん。私もああいう女子の気持ちは分るけど、本心は嫌いだったから」
遠慮のないストレートな言葉を、あっさり言うのが祐希だ。私はだから気が合うし好きなのかもしれない。
それを聞いてた小口は無言で俯いていた。まぁ、今思えば少々やり過ぎだったと自覚しているのだろう。
ブランド物を買っては女子へと自慢し、胸元を見せては男性に媚びを売る。犯罪でもないが、見ている周りは良い気持ちになる行動ではないのだ。
「今日ラストまででしょ? なら終わったら飲みに行こ、小口さん」
「えっ?」
小口は困惑しながら、顔を上げた。その表情は以前の小口と別人の様だった。今の彼女は自信が無い、そんな様な感じだ。
「こういう時はパーと飲むのが一番でしょ。だから飲みに行こ? 別に嫌ならいいけど」
「嫌じゃ無いよ。行きたい」
小口は首をフルフルと横に振った。
「そっか、なら行こうか。莉奈はどうする?」
「いいよ。行こうか」
無表情で私がそう言うと、周りの人が驚いた表情をしていた。そしてその誰よりも驚いた表情をしたのが小口だった。
まぁ、無理もないだろう。私は小口が嫌いなのだから。祐希はともかく、人付き合いが悪い私が飲みに行くことはあまりない。
ただ、私にも行くには条件があった。だからそれを伝えた。
「行ってもいいけど、映えるとかそういうの嫌いだから、普通の居酒屋にして。SNSやらないし」
私は少し優しい表情で小口に言った。
すると小口もようやく少し笑みを浮かべ
「朝からそんなオシャレなとこないから」
と少し笑った様な、嬉しそうな表情を浮かべたのだった。
そしてそれ以来彼女が承認欲求という欲に縛られることはなくなり、健気に笑う年齢相応の普通の女の子になったのだ。
そして、それ以降も小口は
「ねぇねぇ、コレ見て。この垢面白いよ。料理動画を紹介しているんだけど、これ美味しそうじゃない?」
と性懲りも無くまたSNSを再開していたのだが、今度は色々な情報収集用に使っているらしい。小口も以前の様にSNSで胸の脂肪を見せびらかすことはしていなかった。
私は小口の見せてもらった、伸びるチーズマッシュポテトの動画に興味がそそられて、初めてSNSをやってみようかなとか思った。
「ねぇ、小口その垢の名前なに?」
そう聞くと祐希が猫の様に現れ
「なになに、莉奈がSNSやんの! なら私のフォローしてよ! ほら、これ!」
と私と小口に見せた自分の垢の写真を見せてきた。
その写真には訳分らんマスクを被ってピースしてる写真だった。
「なにやってんの……」
私は手を頭にやり、やれやれという感じでうなだれていたが、その写真がなんだが面白くて自然と3人で笑っていたのだった。
更衣室で化粧を直していると周りからの雑談がが聴こえてきた。
女子はこの手の話が好きなのだ。
「なんか、欲しいものリストねだってんでしょ。ちょっと引くよねー」
今流行の買って欲しい物をリストにして、男性に貢がせる例のアレだ。
それをやる本人にも引くが、こんな女にわざわざ金を出す男にも引く。だってこんな女に出す金なんてドブに捨てるようなもんだ。たが金をドブに捨てるのは些か勿体ない。なのでコンビニのレジの横にある募金箱に入れた方が有意義な使い方だと思う。
「おはよー」
話題の本人が気だるそうに入って来た。
「お、おはよ」
周りの人達は少し気不味そうに返した。まぁ、さっきまでdisってたんだから当然だろう。そしてそれを知らない本人はその子達に今日も自慢していた。
「見て見てー。今日この人にSNSでリプ貰っちゃった。有名だから知ってるでしょこの人? SNSで人気あるんだよねーこの人」
有名人に絡まれたことがそんなに名誉なのだろうか。その人が一般人なのか芸能人かは知らないが、そんなに嬉しいものなのだろうか。私には到底理解出来ない考えだ。私がSNSでリプを貰って喜ぶのは精々キミ・ライコネン位だ。あるいはセバスチャン・ベッテルも喜ぶかもしれない。要は余程の事が無い限り私は喜ばないのだ。だってそれは他人なのだから。私は会ったことも無い人からコメントを受け取って喜ぶ人間ではないのだ。
そういう考えを人に言うと、よく感情が乏しいと周りから言われるが、私からしてみたら会ったこともない他人によくそこまで感情的になれるなと思っていた。
そして、それからも空気を読まないで自慢する小口に周りは愛想笑いで場を凌いでいた。そんな状況にこの子達にはこんな私でも心から同情した。
そして、数日過ぎた頃更衣室でこんな情報が流れていた。
「小口さん暫くお休みするんだってー」
周りはそんな話を聞いた。事情を聞くとどうやらまたSNS絡みでトラブルに巻き込まれたそうだ。その内容は実に低俗で説明するのも時間の無駄な気がする内容だ。それでも簡潔に説明をすると、用は男性の恨みを買ったらしい。
まぁ、当然の末路だろ。
色んな男に強請《ねだ》ったり、自慢したり、恨みを買うような事をいくつもしてきたのだから自業自得だ。
ただSNSとは怖い物だと感じた。ほんの少しの写真からマンションや居場所を特定され、ストーカーをされる。それが小口が受けた被害だ。恨みとは怖い物だ。そこまで人を動かすエネルギーにもなる品物らしい。
ただ小口は軽い暴行だけですんだらしい。顔に少し殴られただけで済んだのだから、不幸中の幸いだ。
そんな仕打ちを受けた小口に対して、ケラケラとバカにするコイツらは小口以下の人間だなと私は思った。
本人に直接言えないのに、居ない時にはそんな事をべらべらいう、こういう人達にも私は嫌悪感を覚えたのだった。
それから数日後
「おはよう」
小口が更衣室に入ってきた。
いつも胸元を強調してた派手な服を好んで着ていたが、この日はただのTシャツとジーパンとラフなスタイルだった。あんな事があったからか、原因はわからないが心境に変化はあったのだろう。
周りの女子は彼女を腫れ物の様にして扱い、ヒソヒソ話でニヤニヤしていた。このどうしようもない状況に私のストレスは急激に溜まっいった。
「小口さんおはよう。話聞いたけど大丈夫だった?」
この場であっけらかんと小口に話しかけたのは祐希だった。
「うん。まぁ、大丈夫かな。もう、SNSとか色々辞めたどさ。もう、いいかな。私も悪いし」
「そっか。なら良かったじゃん。私もああいう女子の気持ちは分るけど、本心は嫌いだったから」
遠慮のないストレートな言葉を、あっさり言うのが祐希だ。私はだから気が合うし好きなのかもしれない。
それを聞いてた小口は無言で俯いていた。まぁ、今思えば少々やり過ぎだったと自覚しているのだろう。
ブランド物を買っては女子へと自慢し、胸元を見せては男性に媚びを売る。犯罪でもないが、見ている周りは良い気持ちになる行動ではないのだ。
「今日ラストまででしょ? なら終わったら飲みに行こ、小口さん」
「えっ?」
小口は困惑しながら、顔を上げた。その表情は以前の小口と別人の様だった。今の彼女は自信が無い、そんな様な感じだ。
「こういう時はパーと飲むのが一番でしょ。だから飲みに行こ? 別に嫌ならいいけど」
「嫌じゃ無いよ。行きたい」
小口は首をフルフルと横に振った。
「そっか、なら行こうか。莉奈はどうする?」
「いいよ。行こうか」
無表情で私がそう言うと、周りの人が驚いた表情をしていた。そしてその誰よりも驚いた表情をしたのが小口だった。
まぁ、無理もないだろう。私は小口が嫌いなのだから。祐希はともかく、人付き合いが悪い私が飲みに行くことはあまりない。
ただ、私にも行くには条件があった。だからそれを伝えた。
「行ってもいいけど、映えるとかそういうの嫌いだから、普通の居酒屋にして。SNSやらないし」
私は少し優しい表情で小口に言った。
すると小口もようやく少し笑みを浮かべ
「朝からそんなオシャレなとこないから」
と少し笑った様な、嬉しそうな表情を浮かべたのだった。
そしてそれ以来彼女が承認欲求という欲に縛られることはなくなり、健気に笑う年齢相応の普通の女の子になったのだ。
そして、それ以降も小口は
「ねぇねぇ、コレ見て。この垢面白いよ。料理動画を紹介しているんだけど、これ美味しそうじゃない?」
と性懲りも無くまたSNSを再開していたのだが、今度は色々な情報収集用に使っているらしい。小口も以前の様にSNSで胸の脂肪を見せびらかすことはしていなかった。
私は小口の見せてもらった、伸びるチーズマッシュポテトの動画に興味がそそられて、初めてSNSをやってみようかなとか思った。
「ねぇ、小口その垢の名前なに?」
そう聞くと祐希が猫の様に現れ
「なになに、莉奈がSNSやんの! なら私のフォローしてよ! ほら、これ!」
と私と小口に見せた自分の垢の写真を見せてきた。
その写真には訳分らんマスクを被ってピースしてる写真だった。
「なにやってんの……」
私は手を頭にやり、やれやれという感じでうなだれていたが、その写真がなんだが面白くて自然と3人で笑っていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
竜華族の愛に囚われて
澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。
五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。
これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。
赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。
新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。
そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。
※某サイトの短編コン用に書いたやつ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる