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聖印②
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もうどれぐらい歩いただろうか。会食会を抜け出した俺は当てもなく王都を彷徨っていた。辺りはすっかり暗くなり、何処からともなくいい香りが漂ってきた。
会食会に出ていた筈なのに何も食べなかったせいで、酷く腹が減っている。俺は匂いにつられて賑やかな食堂へと入って行った。
「いらっしゃい!」
恰幅の良いおばさんが威勢の良い声を上げた。俺は1席空いていたカウンターに座り、今日のオススメを頼んだ。
「にーちゃん、若いのにショボくれてるねー。酒でも飲んで息抜きしな!」
「ははは。じゃ、エールも下さい」
「そーこなくっちゃ!毎度!」
カウンターにドンと置かれた木のジョッキにはなみなみとエールが注がれている。酒なんて飲むのは久しぶりだ。甘ったるい香りのエールを飲むと、カッと喉が熱くなった。
村で飲んだエールよりも随分と酒精が強い。隣の席では女の人がずっとカウンターに突っ伏している。この人もエールにやられたのだろうか。
######
「ちょっと!勇者だからってタダってわけじゃないからね!」
勇者という単語に意識が覚醒した。エールを飲み過ぎていつのまにか寝てしまっていたらしい。俺は顔を上げて弁解をする。
「いえ、ちゃんと……」
「食事代ぐらい、いいでしょ!あんた達は勝手に私を召喚したんだから、それぐらいのことは大目に見なさいよ!」
そう言ったのは俺の隣に座っていた若い女だった。髪は金髪で恐ろしく整った顔立ちをしている。立ち上がって食堂のおばさんといがみ合っているが、その身体はスラリとして伸びやかで、いかにもカッコいい。明らかにこの世界の人間ではない。
「召喚したのは聖印府のお偉いさん達だろ!私ら平民には関係ないことさ!それに勇者は国から十分な援助を受ける筈だよ!ウチの食事代を払うぐらいわけないじゃないか!」
おばさんは至極まっとうなことを言った。国が勇者を援助するというのは本当のことだ。俺も王都での滞在費として少なくない額を支給された。異世界から召喚された勇者達は尚更手厚い援助を受けている筈だ。
「とにかくお金はないわ!聖印府だかなんだか知らないけど、私を呼んだ奴らに請求して頂戴!」
「勘弁しておくれよ!私らが行ったところで相手にされるわけないだろ!」
「……あの」
俺は勇気を出して女の喧嘩に割り込んだ。
「この人の分も俺が払います」
若い女はこちらを振り返り、挑戦的な視線を向けてきた。
「払いたいなら勝手に払いなさい!でも何も見返りは求めないでね!マジ無理だから」
あっ、こいつムカつく。
会食会に出ていた筈なのに何も食べなかったせいで、酷く腹が減っている。俺は匂いにつられて賑やかな食堂へと入って行った。
「いらっしゃい!」
恰幅の良いおばさんが威勢の良い声を上げた。俺は1席空いていたカウンターに座り、今日のオススメを頼んだ。
「にーちゃん、若いのにショボくれてるねー。酒でも飲んで息抜きしな!」
「ははは。じゃ、エールも下さい」
「そーこなくっちゃ!毎度!」
カウンターにドンと置かれた木のジョッキにはなみなみとエールが注がれている。酒なんて飲むのは久しぶりだ。甘ったるい香りのエールを飲むと、カッと喉が熱くなった。
村で飲んだエールよりも随分と酒精が強い。隣の席では女の人がずっとカウンターに突っ伏している。この人もエールにやられたのだろうか。
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「ちょっと!勇者だからってタダってわけじゃないからね!」
勇者という単語に意識が覚醒した。エールを飲み過ぎていつのまにか寝てしまっていたらしい。俺は顔を上げて弁解をする。
「いえ、ちゃんと……」
「食事代ぐらい、いいでしょ!あんた達は勝手に私を召喚したんだから、それぐらいのことは大目に見なさいよ!」
そう言ったのは俺の隣に座っていた若い女だった。髪は金髪で恐ろしく整った顔立ちをしている。立ち上がって食堂のおばさんといがみ合っているが、その身体はスラリとして伸びやかで、いかにもカッコいい。明らかにこの世界の人間ではない。
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おばさんは至極まっとうなことを言った。国が勇者を援助するというのは本当のことだ。俺も王都での滞在費として少なくない額を支給された。異世界から召喚された勇者達は尚更手厚い援助を受けている筈だ。
「とにかくお金はないわ!聖印府だかなんだか知らないけど、私を呼んだ奴らに請求して頂戴!」
「勘弁しておくれよ!私らが行ったところで相手にされるわけないだろ!」
「……あの」
俺は勇気を出して女の喧嘩に割り込んだ。
「この人の分も俺が払います」
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あっ、こいつムカつく。
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