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ダンジョンに咲く薔薇

そして薔薇は咲く

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 部屋に入ると青白い顔の男の子がベッドで横になっていた。身体を丸めるようにして弱々しい唸っている。

「シリー、調子はどうだ?」

「……昨日よりはましかな」

 ディルの問いかけに答えるその声はある種の諦めを含んでいた。完全に良くなることはない。ずっと自分はこのままだ。そう言っているように思えた。

「……誰?」

 シリーは俺の姿を認めていぶかしむ。突然、病床に冒険者風の男がやってきたのだ。医者を連れて来いとでも言いたいのだろう。

「この方はベン殿だ。ワシと一緒にダンジョンに行ってくれた恩人だ。そして──」

 ディルはリュックから筒を取り出す。蓋を開けるとそこには凍った青い薔薇。

「やっと手に入れたぞ! アナルローズだ!」

「……前にお爺ちゃんが言ってたやつ?」

 少しだけ身体を起こし、シリーはディルの方を向いた。そこに希望を見つけたかのように。

「そうだ! これがあればお前を治してやれる! さあ、うつ伏せになりなさい」

「……うん」

 うつ伏せ? アナルローズをどうするつもりだ?

「ディル。お前の孫は何の病気なんだ?」

「あぁ、言ってませんでしたな──」

 ディルはベッドの上でうつ伏せになったシリーのズボンをずり下ろす。尻が丸出しだ。

「シリーはお尻の病気なんです。肛門周辺に熱がこもって歩けなくなる恐ろしい病」

「……恐ろしいな」

「でも、アナルローズがあれば──」

 ディルは凍ったアナルローズをポキリと折って花だけにする。

「明日には治ることでしょう! シリー、我慢しろよ!」

「……うん」

 覚悟を確かめると、ディルはスッとアナルローズをシリーの肛門に挿した。

「ひっ、冷たい!」

「我慢しなさい! 冷たいのは効いている証拠だ!」

 ……証拠なのか?

「おっ、始まったぞ。シリー」

 シリーの肛門に挿さったアナルローズが熱を吸って溶け始める。そして──。

「……色が変わっていく……だと?」

 それまで冷淡な青だったアナルローズの花弁が下から順に紅く染まっていく。

「どうだ、シリー? 効いてるか?」

「凄い! どんどん楽になってる!」

 シリーがこちらを向いて歓喜の声を上げる。そこまで劇的な効果なのだろう。子供らしい笑顔が見える。

「シリー、よかったわね……」

 女がベッドに屈み、抱えるようにシリーを抱きしめた。優しく髪を撫で、その瞳からは涙が流れる。

「一晩、このままアナルローズを挿しておくんだ。明日には熱も無くなって歩けるはずだ」

「おじいちゃん、ベンさん! ありがとう!!」
「本当にありがとうございます」

 親子は何度も何度も礼を言った。部屋にいるとそれは永遠に続くのではないかというぐらいに。

「ディル。俺は行く。またビッグホールで会おう」

「はい! ありがとうございました」

 明日の朝にはアナルローズの花弁は全て紅く染まっているだろう。俺は元気に走り回るシリーの姿を想像しながら、部屋を後にした。 
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