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弟子

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चिकित्सा治癒促進

グレゴリが何度目かのヒールをダツマに発動させた。胸部の骨が何本か折れていたらしいが、それもグレゴリの魔法でもう繋がっているらしい。後は意識が戻ればとりあえず一安心というところだ。

「もう、遅い!いつまで寝てるつもりよ!無意識でも空気読めないなんて、トンデモない奴ね!」

「師匠、殴って起こしましょう」

「それは永眠コースだ。もう少しで目を覚ます筈だ。待とう」

さっきまで訓練所に押し寄せていた野次馬達はどこまでも野次馬で、面白い見世物が終わるとそそくさと退散し、今は誰もいない。訓練所の中は耳が痛くなるくらいの静寂だ。

「うっ……」

ダツマから声とも呼吸ともつかない音が聞こえ、ややあってその目が開いた。3人から見つめられる状況に慌てて身体を起こし、自分の敗戦を知って身を縮めた。

「まぁ、凡人の身で大天才かつ大天使であるシシーちゃんに一当てしただけ大したものだわ。帰って家族に自慢しなさい!」

「くっ」

言われたい放題だがこの状況ではダツマも言い返せない。なんせ自分から歳下の子供達に喧嘩を売って、見事にのされたのだ。それも衆人環視の中で。面子を重んずる冒険者にとってはかなり辛い筈だ。ダツマの今後は暗い。

「師匠、俺達も行きましょう。いつまでもこいつに付き合う義理はないです。それにボスがお腹を空かせて待ってます。そろそろ子鹿亭に寄って帰らないと」

「そ、それはまずいな。行くとしよう。ダツマ、お前は決して弱くない。相手が悪かっただけだ。このまま修練を続ければきっと一流の魔法使いになれる筈だ。気を落とさず、頑張れ。じゃっ」

グレゴリが大人らしい一応の気遣いを見せた後、俺達3人はダツマに背を向けて訓練所から出ようとする。

「ま、待って下さい!」

ダツマが性懲りもなく俺達を呼び止めた。

「俺に大した才能がないのはわかってます!でも、俺は誰からも認められるような冒険者、魔法使いになりたいんです!今までは自分一人で我武者羅に努力して来ました!でも、それには限界がある。だから俺を、俺を弟子にして鍛えて下さい!お願いします!」

グレゴリが振り返り、困り果てた声を出す。

「ダツマ、その話はさっきの模擬戦で決着がついた…」

「シシーさん!お願いします!俺を弟子にして下さい!」

「「そっち!?」」

「いいよー!」

「「いいの!?」」

「ただし、弟子ではなくて、子分ならねっ!どうする?」

「強くなれるなら子分にでもなんでもなります!よろしくお願いします!」

「うっほい!子分1号ゲットだぜー!お兄ちゃん、今まで私に振ってた雑用はこれからはダツマに言ってね?ダツマもわかった?」

「はい!シシーさん!」

やばい。頭痛がする。それも酷いやつだ。そして治らないやつだ。やばい。
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