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登場

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ワオオオオォォォーン

その遠吠えは段々と近づいてきた。その声の正体を知らない2人は金縛りにあったように固まっている。

ワオオオオォォォーン

その声はもう、すぐそばから聞こえている。しかし、その姿は見えない。そして一瞬、魔力の波が森を通り抜ける。

「なんじゃ、こいつは……」

「巨大な狼…フェンリルなのか…」

ジョアンの大真面目な声に吹き出しそうになる。違うよ!犬!犬だよ!森の中に朧気に浮かぶボスの姿はギガントスパイダー並にデカい。多分魔法で暗闇にその姿を大きく映し出しているのだろう。

「バカな…フェンリルなんて神話の魔物じゃぞ!」

「しかし、鎖に縛られた巨大な狼なんてフェンリルとしか…」

あれはボスが散歩の時に好んで着けるリードだから!苦しくなって横を見ると、シシーは既に転げまわっている。笑い声を堪えているだけ偉い。ダツマなんて半分失神している。

「この森にフェンリルが封印されておったというのか…」

エルムンドまでのってきた!もうこれ以上我慢できそうにない。シシーは地面でぴくぴくしているし、ダツマなんて完全に失神している。

「エルムンドさん!シシーとダツマが!」

「フェンリルの魔力にあてられたのかもしれん…どうすればいいんじゃ」

やばい!2人が止めを刺しにきた。俺もそろそろ我慢が限界だ。ボス、早くなんとかしてくれ。もう耐えられない。

ワオオオオォォォーン

俺の願いが通じたのか、ボスが遠吠えをし、大きく前足を上げた。あっ、これ、あの魔法だ。

ズズズシャーン!!!

ボスの前足が振り下ろされると同時にギガントスパイダーの死体を中心にして森が潰れた。もうそれは潰れたとしか言いようがない。樹も何もかもが地面に深く沈みこんでいる。一体全体いまだにどんな理屈の魔法なのか分からないが、俺達のいるところを除いて、見渡す限りの森が潰されてしまった。朝になればその惨状がより明らかになる筈だ。そして、これであの小さな蜘蛛達が綺麗に一掃されたのは間違いない。

ワオオオオォォォーン

ボスは締めの遠吠えをし、その幻影を消した。たぶんその辺りにいるのだろうが、暗闇に紛れて俺達から見えることはない。そしてもう何も現れることはなかった。

「一体、何が起こったんじゃ…」

「わかりません。ただ、助かったことは確かなようです」

しばらくして長かった夜が終わり、ようやく朝が来た。もう、笑いを我慢する必要はなさそうだ。
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