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異世界

使者

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「サブロー。なんか来る」

首狩りの手を止めて黛が呟いた。森はシンとして何も聞こえないが、黛が来ると言えば来るのだ。

5分程待っただろうか。黛の視線の先で木々が揺れ、それを掻き分けて男が出てきた。男は困憊した様子で意識もあやしい。

こちらの視線にも気付かずにマジックポーチから水を取り出して呷る。

"狩るなよ"

"今はお腹いっぱいだから大丈夫"

人心地ついたのか男はやっとこちらに気が付いた。雰囲気が変わり、空気が張り詰める。

"早まるな。無駄に死ぬだけだ"

剣を抜いた男は黛の刻印に気が付いたのか、動きを止めた。

"帝国の冒険者はもうこの辺には来ない筈。お前は何者だ?"

"……"

"沈黙のまま物言わぬ死体となるか。それもよし"

"待ってくれ!私はまだ死ぬわけにはいかない!"

男は剣を捨てて両手を上げた。

"お前は何者だ?"

"帝国からリリパット族への使者だ。リリパット族の村を探している"

"要件次第では案内する。話せ"

"……第3皇子、フィロメオ殿下の件だ"

"ついて来い"

男は無言で従った。


######


"立ってないで座ったらどうだ?"

駐屯地の集会所で椅子に腰下ろした男は困惑した表情を浮かべている。

"あなたがリリパット族の長なのか?"

リリパット達の俺への態度を見て言っているのだろう。

"いや、違うな。友人だ"

"そうは見えなかったが"

"個人の感想に付き合うつもりはないな。本題に入ろう。フィロメオに何の用だ?"

"なっ、貴様!失敬だぞ!"

男が前のめりになる。

"フィロメオは国を捨てた筈。今はただの子供だ。何処に敬意を払う必要がある?"

"……"

"もう一度聞く。フィロメオに何の用だ"

"帝国に戻って頂きたい。……もう、フィロメオ殿下しかいない"

"お前は誰の命でここに来た?"

"……現皇帝、ゲンベルク17世だ"

"何故フィロメオなんだ?皇子は他にもいる筈だ?"

"第1皇子と第2皇子は異世界の国に帝国を売り飛ばそうとしている。どちらが帝位を継いでも未来はない"

"フィロメオに兄2人を退ける力があると思うのか?"

"現皇帝が支援する"

"病床からどれだけの支援ができる?帝国に戻ってもまた命を狙われるだけだ。それにフィロメオだってお前の言う異世界と関わりはあるぞ"

"……それでもだ。フィロメオ殿下は国を売るような真似はしない筈だ"

"ただの願望だな。そこまで追い詰められているとはな"

"とにかく一度、フィロメオ殿下に会わせてくれ!ここに居るのだろ?頼む"

男が立ち上がって頭を下げた時、ドアを軽くノックして富沢が入ってきた。

「ほほほ。この男が帝国からの使者ですか。随分と必死なようですねぇ」

「藁にもすがる状況らしい」

富沢はひょこひょこと歩き、椅子に座った。

"おい、顔を上げろ。フィロメオには会わせてやる"

"ほ、本当か!?恩に着る"

"幾つか条件はあるがな。お前が別の皇子からの刺客の可能性だって捨て切れん"

"分かった。私に出来ることなら何でもする"

"ならばまず選べ。大きなフィロメオと小さなフィロメオ、どちらに会いたい?"

男は戸惑いながらも選択した。
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